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Itan 番外編 善光  作者: 三千
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side 善光 2

瑠衣が中学校の校門を出て家へと帰るのを確認すると、俺は少しだけ瑠衣の家の前の電柱にもたれかかって、瑠衣の部屋の電気が点くのを確認する。


あまりうろうろとすると、不審者として通報されるので、その点は気を配って長居をしないようにしている。


部屋に電気が点いたのと同時に、周りに能力者がいないかを確認すると、俺は家へ帰る。


それが俺の日課となっていた。


離れ際に静さんと瑠衣の笑い声を聞ける日もあれば、しんと静かな日もある。


笑い声が聞こえた日はただそれだけで、俺は嬉しくなって。

自販機で、缶コーヒーを買って帰ったりしていた。


竹が教師になると言い出して、今、丸井のじいさんの家はてんやわんやだ。


帰りたくねえ、そうは思うけれど、他に行く所と言ったら、環の家しかない。

環に捕まると鬱陶しくて面倒だからと、仕方なくいつもの帰り道を選んだ。


今まで竹兄ちゃんと呼んでいたのを止めて、竹と呼ぶようになったのは、この頃からだ。


昨日は言い過ぎた、そうは思っても、謝る気には到底なれない。

どうして、あんなことを言ってしまったんだろう、とは思う。


瑠衣を横取りする気か、などと。


俺のもんでも何でもないのにな、呟くと情けない気持ちと悔しい気持ちと羨ましい気持ちが渦を巻いて、俺の心を支配した。


そうだ、単純に羨ましかった。


先に進んでいく竹が。

先に瑠衣に近づいていこうとする竹が。


見守るだけなんて耐えられないと、はっきり丸井のじいさんに意思表明して、さっさと教育大学に入る手続きをしてきてしまった。


竹の強さが羨ましかった。


俺は、どうするんだ?

このままで良いのか?


ずっと、見守るだけで良いと思っていた。


自分にそう言い聞かせていたし、思い込ませていた。


あの時の、瑠衣に初めて会った時の、あの笑顔を守りたくて。

一生、俺が守ると決めて、他の能力者の誰にも渡したくなくて。


一度だけ、竹に聞かれたことがある。


お前、瑠衣に好きな人が出来て結婚しても、それでも指を咥えて見ているだけで良いのか、と。


俺は一瞬言葉に詰まった。


けれど、それでも良いと言った。


竹は笑って言った。

馬鹿だなお前、そんなの耐えられるわけがないだろう、と。


そうかもしれない、竹の言う通り、耐えられないかもしれないと思い始めたのは、竹が教師になり、瑠衣が通う予定の高校に赴任が決まった時。


俺はもうそれだけで動揺してしまった。

これで竹には瑠衣の側にいる大義名分が出来てしまったから。


そんな焦りと動揺で、俺はおかしくなった。


まだ二人は出会ってもいないのに、それなのにもう嫉妬でぐちゃぐちゃになってしまった。


それなら俺ももう見ているだけはやめる、教師になると言い出して、崎や丸井のじいさんを驚かせた。


勉強が嫌いで、見るも無惨な酷い成績だったから、教師なんてなれるかよって、崎には呆れられた。


けれど、教師か医者ぐらいしか、瑠衣の側に行く権利が無かったし、医者になったって毎日瑠衣が病院に来るわけじゃねえし、それ以前に医者なんてなれっこねえし、竹の後を追うようで癪だったけれど、もうそれしかないってなって。


俺は日課だった瑠衣の見守り以外の時間を勉強に当てて、教育大学に入り直した。


英語は、来日時にはまだ日本語を話せなかったライズと喋っているうちに、話せるようになっていたのもあったし、苦手な勉強の中でも得意な方だったので、それを専攻にする。


一生懸命、瑠衣の側にいくために勉強した。


瑠衣が竹のいる高校に入学した時、俺は握った拳に力を入れるようにして、ぐっと我慢した。


けれど、担任になったと聞いた時にはもう、箍が外れてしまって。

怒り狂って、大暴れした。


許せなかった、竹が先に瑠衣に近付いていくのも、それなのにまだ、瑠衣に会う権利すら手にしていない自分のことも。


竹に殴りかかっていって、止めに入ったライズに殴られた。


俺は、性懲りも無くまた、瑠衣を横取りする気かと気が狂ったように叫んだ。


そうだ、俺のものでも何でもないのに、それでも馬鹿な俺は何度もそう繰り返した。


けれど、竹は静さんに会いに行くんだ、瑠衣は関係ないと言った。

それで、馬鹿な俺の怒りは収まったんだ。


けれど、俺は打ちのめされていた。


俺という存在は、竹には敵わない。


静さんに会いにいくんだと言った竹の真剣な顔が、その時からずっと、俺の心に突き刺さって抜けることは無かった。


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