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いざ出陣


「やってしまったわ…」


 ルンルンは受付に提出したばかりのクエスト用紙を眺めながらには呟いた。


「ん、何がやってしまったんだ?」


「いやこれよこれ、よく見ないで決めたもんだから…ほら」


 そう言って、ルンルンは俺にクエスト用紙を見せてくれた。


「ゴブリン討伐?」


「そうよ、しかも五体。何でも最近近くの村で農作物を荒らしているらしいのだけど…」


「それが何か、まずいのか?」


「ええ、かなりまずいわ。何せゴブリンは性慾の強い魔物として有名なんだもの…」


 ルンルンは俺の姿を足から顔へと順にまじまじとは見て、


「こんなエロいシノミヤを見て発情させてしまったらどうしよう」


 と、まるでこの世の終わりの終わりのようには嘆き、その場へと崩れ落ちた。いやいや、どんだけ俺の体を心配してんだよ。


「ルンルン、一生の不覚よ」


「ま、まぁそんなこと気にすんなって。きっと大丈夫だよ?」


「甘いわシノミヤ!貴女もう少し自分の事を心配したらどうなの!?貴女そんな無防備にしてると、いつか本当に襲われちゃうんだからね!?」


 ルンルンは豪語して、「ま、そこがまた可愛いんだけど…」とボソボソとは呟いた。理解不能である。


「…ルンルンが守ってくれる、違う?」


 俺はルンルンの手を握って尋ねた。まぁこいつ勇者なんだし、何とか何だろう的な、そんな願いを込めて。


 ルンルンは何故か頰を紅潮させると、


「…ふん、当たり前でしょ!?」


 と、プイッとは顔を揺らして言った。チョロいな。


 そうこうして、俺たちは[ルカンパニー]を発ってゴブリンが出没されるとされる村へと向かった。村まで歩いて大体二時間間程ということもあり、着いた頃にはルンルンは息を切らしていた。


「はぁ、はぁ…シノミヤ、貴女なんでそんな平気な顔しているわけ?」


「いやだって、俺の持ち物これだけだし」


 そう言って、腰の剣を持ち上げ見せた。これは最初、服と一緒に渡れされた銅の剣である。聞くところによると、護身程度にもならない粗末な剣だとか。


「それにしてもルンルンはスゴイ立派な装備だよね。買ったの?」


「まぁね。勇者たるもの、これ位の装備は当然よ!」


 と、ルンルンは誇らしげには言った。ルンルンの装備は銀色の胸当に、紺色の高価そうな腰巻、長柄の長剣を背に吊るしていた。一見して、その姿はどこぞの立派な勇者様である。


「ルンルン、かっこいい」


 俺は手を叩いてルンルンを褒めた。多分、こうしといたら喜ぶだろうなぁまとは思ったからである。


「ふん、でしょ!?」


 案の定、ルンルンは鼻高々に胸を張って笑っていた。わかりやすい喜び方に、微笑ましくある。


 村の中へと入って、俺は素直に感心していた。


「ほわぁ、まるで異世界の村みたいだ」


「何言ってんのシノミヤ、実際にここは異世界の村でしょうが」


「そうだけど、初めてみるからね」


 村の中はのどかなもんで、いかにも農夫っぽい人がいかにも農夫っぽい作業に精を出していたり、いかにも村娘っぽい人が、いかにも村娘っぽい作業に没頭していたりしていた。


「何よその幼稚な感想は?」


「いや、村のこととかよく知らないからさ」


 そのまま村の中をしばらく歩いて、俺たちはとある一軒の家屋の前で足を止めた。


「ここみたいね」


 ルンルンは手に持ったクエスト用紙を見ながらには呟いた。


「ここって?」


「今回の依頼主の家よ。どうやらこの村[ポポッコ村]の村長さんの家みたいね。では早速入りましょう」


 ルンルンに続き俺は村長宅へ、そしていかにも村長っぽい風態をした老人に対面した。


「よく来たギルドのものよ。ワシが村長である!」


 邂逅一番、そう言って愉快そうな声色を浮かべる老人。村長らしい。確かに村長っぽい風態をしている。村長と言うだけのことはある。


「さすが村長ね…よく見て起きなさいシノミヤ、あれが村長としての風格よ」


「うん、分かったよルンルン。確かにどっからどう見ても村長してるね!」


「ほっほっほっほ」


 そうして俺たちは村長からクエストについての詳しい話を聞いた。


 ゴブリンが出没するようになったのはつい先日の夜のことであるらしい。


「いきなり村に現れてな、悪さを働いておるんじゃ。こんな人里に近い場所にゴブリンが現れるなんてワシも驚いておるんじゃよ」


「ゴブリンの被害は今までなかったの?」


 ルンルンは村長に訊いた。


「そうじゃ。ここは魔物の被害が全くない平和な村だったんじゃ」


「そうなのね…ふむふむ、何か裏がありそうね…」


「ルンルン、裏って?」


「いやね、ゴブリンは普段は森の中で暮らす温厚な魔物なの。確かに中には凶暴な奴もいるこど、いきなり現れたとなると少し妙だわ」


「へぇ、ルンルン詳しいな。俺と同じで昨日異世界転生したばかりだってのによく知ってるね?」


「勇者として転生したものはある程度の知識を与えられて転生されるみたいなの。ま、当然よね?勇者なわけだし」


 成る程、冒険者の俺とは違い勇者は色々と優遇されてるわけだ。

 

 俺は俺であの異世界案内人Aの言葉が正しければ[紅竜紋章]っていう結構珍しい転生者らしいが、ルンルンのように特別な能力は備わってない辺り、勇者には劣るってことなのだろうか?


「…了解!大体の状況は把握したわ村長!後のことは私達、[シノミヤとルンルン団]に任せて頂戴!」


「おお、作用か!これは頼もしい娘さん達じゃ!」


「い、いいのルンルン?そんなこと言って…」


「いいに決まってるでしょ!?シノミヤ、全てはこの私、勇者ルンルン様に任せない!」


 そう言って、ルンルンは愉悦に満ちた笑い声をあげた。この時、何か嫌な予感がしたのは俺の気のせいか、それはわからない。




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