クエスト
かくして、[シノミヤとルンルン団]は結成された。ルンルン#曰__いわ__#
く、当面は二人で活動していくのだという。そりゃあクラン名から大体は察する事ができたわけだが、果たして本当にそれでいいのか問いただしてみると、
「いいの!何か文句ある!?」
と一喝され、何だかこれ以上口を挟んだら面倒になりそうだと思い俺は逆らうことをやめた。
俺たちは始まりのギルド[ルカンパニー]を出て、近場の宿に宿泊することにした。[ルカンパニー]の外にはそこそこ活気のある宿場町が広がっており、もっぱら異世界転生者の拠点地となっているらしい。
「で、シノミヤはどうやって死んだの?」
夜空に輝く満点の星空を眺めながらに宿の温泉へと浸かっていた時、不意に、ルンルンがそう尋ねてきた。
「トラックに轢かれた…みたい」
「みたいって?」
「いや、俺もよく分からないだけど、女神に聞いた話ではそうらしい。学校帰りに居眠り運転をしていたトラックに轢かれ即死したんだと。ルンルンは?」
「私?私は銀行強盗に巻き込まれて死んだの。あいつら容赦ないんだもの、脳天を拳銃で撃たれて即死よ」
ルンルンは重たいため息を吐いた。
「あーあ、ほんとついてないったらありゃしないわよ」
「ほんとにな」
「まぁこうして異世界転生して勇者になれただけマシなのかしらね?」
「…うん、全くだ」
女体転生なんかしなければ心からもっとそう思えていたんだがな。
「で、シノミヤはどうしてお金が必要なの?」
ルンルンは首を傾げながら訊いてきた。俺は一瞬本当の事を言おか言わまいか迷って、
「いや、せっかく異世界転生したんだし、優雅に暮らしたいなぁーなんて思った」
嘘を吐いて誤魔化した。
というのもだ、女風呂に堂々と浸かってルンルンの裸を見ながら言う事でもないなぁと、つまり気が引けたのだ。
「そうなんだ、シノミヤっていいとこのお嬢さんに見えるけど、実際は結構な苦労人だったわけ?」
「いや、そうでもないよ。どこにでもいるごく普通の、ただの#男子学生__・__#だったよ」
「#男子学生__・__#?」
「あ、いやごめん。女子高生だ」
つい口が滑ってしまった。これからは些細な会話さえ気を付けなければならない、面倒だなと思った。
一夜明けて、俺とルンルンは再び[ルカンパニー]へと戻った。異世界転生最初のクエストを受けるためである。
異世界転生者の生業とは、ギルドに寄せられるクエストをこなしてお金を稼ぐことが大半らしい。中にはギルドに頼らず異世界に馴染んで暮らす奴もいるようだが、それはかなりのイレギュラーとされているらしい。
俺たちはクエストの張り出された掲示板へと向かった。掲示板の前には数多くの異世界転生者で埋め尽くされていた。
「にして異世界転生者ってたくさんいるんだなぁ」
ふと、そんな台詞を口にした俺に、ルンルンは「当然でしょ?」とは言って、
「このギルドはまだまだ序の口よ。他のギルドにはもっとたくさんの人間がいるわけだし」
「え、ギルドってここ一つじゃないの?」
「もちろん。私もまだ詳しくは知らないけど、世界にはいくつものギルドが点在していると聞くわ。ここなんかよりももっともっとデカイらしいわよ?」
「僕は違うギルドにも行ったことがありますけど?」
と、横から割って入ってきた男は言った。それは昨日、俺を勧誘してきた男、エクシーズだ。
「あ、どうも」
俺はぺこりとお辞儀した。
「どうも、シノミヤ。今日もお美しくて何よりです」
エクシーズは昨日同様には白い歯を覗かせ笑った。
「あ、あんた!!性懲りも無くまたシノミヤを勧誘しにきたわけ!?ダメよ!シノミヤはもう私とクランを組んだの!正式なんだからね!?」
ルンルンは俺を抱き寄せてはエクシーズを睨んでいた。何もそんなムキになる必要ないだろうに。
「…それは残念。できれば僕のクランに加入して頂きたかったのですが…」
エクシーズは顔に手を当ててため息を吐いた。
「それでエクシーズさん、違うギルドに行ったことがあるって本当ですか?」
「ええ、これでも僕のクランはそこそこ有名なもんでして、他のギルドから直々にクエストを受けることがあるのです。だからまぁこちらから出向くわけですよ」
エクシーズは誇らしげには笑って、ルンルンを流し見た。
「まぁ、ルンルンさんは勇者の紋章を受け取ったようですし?それはそれはギルドからの依頼で引っ張りだこなのでしょうねぇ?」
「ぐ、ぐぬぬぬ…」
ルンルンは口籠っては唸り声をあげていた。どうやら何も言い返せないらしい、てか何でこいつらはこんなにも対抗意識を燃やしているのか甚だ理解できない。
「い、行きましょうシノミヤ!こんなキザな野郎と話す必要なんてないわ!」
と、ルンルンは一喝して、適当に依頼掲示板からクエスト用紙を剥ぎ取るとズカズカと歩き出した。引きずれる形で俺も歩き出すと、
「シノミヤ!気が変わったら言って下さいね!我々の貴女を大歓迎いたします!」
そう言って、投げキッスをするエクシーズを見た。俺が本当は男だと知ったら悲しむだろうなとは、何故か心配してしまっていた俺はアホだなと思う。