ブラックカード
階段を降りると、そこにはたくさんの人たちで埋め尽くされていた。見ると、各々が違った武装をしており、胸元には様々な紋章を光らせていた。つまりは俺と同じようには異世界転生した奴らなのだろう。
ルンルンの姿を探して歩いていると、皆の視線が俺へと注がれているような気がした。気のせいか?
「やぁ、美しいお嬢さん」
と、声を聞いたと同時に肩を掴まれた。そこには銀髪の男がいた。
「何か?」
「いや、見たところ異世界転生登録を済ませたばかりだと思ってね…困っているかと思いまして」
そう言って、銀髪の男は白い歯を覗かせ笑った。
「僕はエクシーズ。貴女は?」
「俺はシノミヤ」
「…俺?」
「あ、ああ…つい癖で」
「そうですか…ふふ、可愛らしい口癖なことで」
いかんいかん、どうも女体化に慣れていない。いや慣れちゃダメだよな。
「お気遣いありがとうございますエクシーズさん。でも大丈夫です」
「ですか。余計なお世話でしたね…因みにですが、まだクランに入ってはいませんよね?」
「クラン?」
「一緒に同行する仲間のことです」
「ああ、成る程。それならーー」
と、俺が言いかけたその時だった。
「ちょっとちょっとちょっと!そこの白髪頭!」
ルンルンは叫んで、ズカズカと人混みを強引に分けながら姿を現した。
「何か?」
「#それは__・__#私が先に目をつけたのよ!ちょっかい出さないでくれる?」
ルンルンは怒り気味には言った。#それ__・__#とは、つまり俺のことか?
「決まってるじゃない!貴女は私のもの、そうでしょシノミヤ!?」
「あ、ああ…」
「待って下さい。正式なクラン登録は済まされたのですか?」
エクシーズはルンルンに尋ねた。どうやらクランにも登録ってのが必要らしい。
「ま、まだよ!何か文句あるわけ!?」
「ええ。登録がまだなのでしたら、我々にも交渉の余地はあります…違いますか?」
「ぐぬぬ…」
ルンルンはたじろぐと、俺の手を強引に掴んで、
「私はシノミヤじゃなきゃ嫌なの!もう決めたの!」
涙目混じりにはそう言った。どうしてそこまで俺を求めるのか意味が分からない。
「だってシノミヤ、可愛いんだもの!私は美しいものが好きなの!誰にも渡したくないの!」
お前はどこぞのベアトリーチェかよ。
「…それでも決定権はシノミヤにあります。どうですかシノミヤ、我々のクランに入りませんか?」
エクシーズもまた俺の手を握ると、キラキラとして瞳を輝かせ詰め寄ってきた。
「ちょっと、私のシノミヤに勝手に触れないでよ!あんた、どうせシノミヤの顔目当てなんでしょ!?」
「貴女と一緒にしないで下さい」
「な、何よ!シノミヤ、貴女お金が必要なのよね!?だったら、ほら!」
ルンルンはポケットから一枚の金貨を取り出すと、
「1000ゴールドよ!まずこれで我慢しなさい!」
そう叫んで、無理やり俺の手の中に金貨をねじ込ませてきた。俺はひょんなことから1000ゴールドを手に入れてしまった。
「ほう、金で釣ろうってわけですか?だったらーー」
エクシーズは負けじと、俺の手の中に金貨2枚をねじ込ませて、
「2000ゴールド」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、ルンルンを見た。よし、これで3000ゴールド。
「は、はぁ!?あんた馬鹿なの!?卑怯よ!?」
「僕はどうしてもシノミヤが欲しい。貴女がお金を持ち出すというならそれに応えるまでです」
「このケダモノ!」
「貴女こそ」
いいぞいいぞ、もっとやれ。俺がそんなことを思っていた、その時だった、
「ちょっとお待ちを」
そう言って、見覚えのある顔が現れた。それは先程、俺を案内してくれた異世界案内人Aである。
「あんた…」
「おやおやシノミヤ様。さっそくモテモテですね」
異世界案内人Aはニッコリと笑って言って。相変わらずの笑顔である。
「あんた、異世界案内人風情が何のつもり!?」
ルンルンは食ってかかった。
「まぁまぁ、確かに私は普段は異世界案内人Aでございますが、一人の男でもあります」
異世界案内人Aは余裕そうな態度で言って、胸元から一枚のカードを取り出した。真っ黒なカードだった。
「そ、それはっ!?」
エクシーズはたじろぎ、異世界案内人Aの黒いカードを見ては、そっと俺の手を離した。
「負けました…」
負けた?何のことだ?
「ぶ、ブラックカード…ですって?」
ルンルンは驚愕そうに呟いた。おいおい何だよこれ?ブラックカードってなんだ?
「まさか…世界でも有数の富豪しか持てないとされるブラックカードをお持ちとは…負けました…」
エクシーズは項垂れて、そのまま残念そうには去っていった。
「…し、シノミヤぁああ…」
ルンルンは俺を抱きしめてはワンワンと泣き喚いていた。一体何が起こっているのか分からないでいる俺に異世界案内人Aは笑って、
「シノミヤさん、貴女を買います。20000ゴールド…このブラックカードで」