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大切な友人


 各国から王子達が俺に求婚する[ルカンパニー]に向かっていて、そしてつい先程はまさかあの堅物と知られる魔物ハンターバンクから婚約を申し込まれ、また今は…


「シノミヤ、どうか我々のクランに!」

「是非!」

「うちにどうか!」


「あはは、すみません…」


 と、求められてばかりである。またギルドの外には[勇敢なる救済の乙女]と大々的な称された俺の姿を一目見ようとたくさんの人でぼった返していた。これは異世界転生者ギルド[ルカンパニー]始まって以来の異常事態であり、今じゃおちおち1人で歩けない有様であった。


 そんな中、俺は忍者のようにはコソコソと隠れて宿屋へと戻る。部屋に入ると、ルンルンが笑顔で迎えてくれた。


「おかえり、シノミヤ。大変だったでしょう?」


「ただいま、ルンルン。うん、ほんとに大変だったよ…」


 あれから…というのも、俺が異世界転生者達を救出したあの日だ。気絶から目覚めたルンルンは大層俺のことを心配していたようで、あの日宿屋に戻った瞬間にも、ポカポカとは叩かれたり泣き喚いたりとは、それはそれは大変だった。

 

 また同時、ルンルンは酷く責任を感じている風には俺の目に映る。


「シノミヤ、お腹空いたでしょう?ご飯作っておいたから食べて?」


「あ、あぁ、うん。ありがとう」


 ルンルンはあれからかなり塩らしくなっていた。別に落ち込んでいるわけでもないだろうが…#以前の__・__#ような元気が、足りないような気がしていた。


 ルンルンの図々しさとか、ルンルンの強情さとかをここ最近全く見てない気がする。これは別に俺の気のせいなんかではないだろう。


「美味しい?」


「うん、とっても」


 何か、#違うな__・__#って、そう思っていた。





 夜、俺とルンルンは例の如く露天風呂に浸かっていた。今夜はいつにも増して綺麗な夜空で、明日からこの露天風呂でこの夜空を見れないと思うと、少しだけ寂しかった。


「シノミヤ、いよいよ明日ね」


「…うん」


 そう、俺は明日の早朝にも、人目を避けてはこの[ルカンパニー]を旅立つ。そして、王都への長い道のりを目指す…#1人で__・__#。


「…シノミヤ、貴女と一緒に過ごせて本当に楽しかったわ。やっぱり、私の目に狂いはなかったようね」


 ルンルンは笑顔でそう言った。屈託のない、綺麗な笑顔でだ。


「ルンルン、やっぱり…一緒に来てはくれないの?」


「…うん。ごめんねシノミヤ。私にも、私のやるべきことがあるのよ」


 ルンルンは夜空を眺めて、ふぅ、と息を吐いた。


「それに、シノミヤは今回のヒーローだもの。貴女が望めば、皆んなが貴女の力になってくれる筈よ?だって、皆んな貴女の事が大好きなんだもの」


「ルンルン…」


「いい、シノミヤ。貴女はね、#特別__・__#なの。私なんかとは違う、望まれて生まれた、特別な存在なのよ…」


 やけに重たい口振りだった。そして、俺は心に#何か__・__#が引っかかっていた。


「特別なのは勇者であるルンルンの方だよ?俺なんか、たまたま…」


「いいえ、違うわ」


 ルンルンは即座に言った。続けて、


「身分や位なんてものはね、飽くまでも形にし過ぎないの。本当に価値があるものは、その人が何を行い、どんな結果を残したのか…いわゆる功績ってやつなの。その点、シノミヤ、貴女は今回多大なる功績を打ち立てたわ。未曾有の事件に果敢には立ち向かっては、たくさんの人たちを助けた。エクシーズとサクラビスさんのことは残念だったけど…それでも、貴女がいなければもっと多くの命が失われていた筈よ」


 ルンルンは俺を優しく抱き締めた。露天風呂で2人、少女2人が抱き合う光景、この時ばかりは、俺は自分が本当は男であることを忘れていたと思う。


 だからこそルンルンを女性としてではなく、1人の大切な友人として、見れていたのだと思う。


「シノミヤ、これからも#逞__たくま__#しく生きなさい。私は、いつまでも貴女の味方よ…」


「ほんと?」


「ええ、ほんとよ」


「…ありがとう」


「いいの、こちらこそありがとう。異世界転生して貴女と出逢えたことを、神に感謝したいぐらいよ…大好きよ、シノミヤ」


「……」


 認める。俺は、ルンルンと離れたくなかった。





 次の日、俺は朝日が昇る頃にも宿屋を出た。隣にはルンルンがいて、途中まで見送ってくれるとのこと。


「シノミヤ、忘れ物はない?」


「うん」


 俺は素っ気なく答えた。別にそうするつもりもなかったが、そうなってしまうのだから仕方ないだろうに。


「なに、緊張しているわけ?」


「そうじゃないけど…」


「けど?」


 ルンルンは首を傾げて訊いて来た。俺はルンルンの顔を数秒眺めて、


「ううん、何でもない。行こ、ルンルン」


 自身の本当の気持ちを押し殺した。


 いよいよ、本当に1人で旅立つ時がやってきた。俺の目の前には広大な平野が広がる。以前ここに来た時、俺はルンルンと一緒にクエストへと出向く時で、よくよく考えれば、俺は異世界転生した時からルンルンとずっと一緒に過ごしてきた。


 それがずっと当たり前だと思っていた。俺が男に戻るまでの間、いやもしかしたらその先も、ずっと一緒にいれたらいいなって、そう思っていたんだ。


「…さぁ、ここでお別れよシノミヤ。行ってらっしゃい」


 ルンルンは俺の背を叩いて言った。見ると、優しく微笑んでいた。


 俺はゆっくりと頷いて、


「ありがとう…ルンルン。今まで、本当に楽しかった」


 そう言った。泣きそうだった。


「…私もよ、シノミヤ。貴女と一緒にいれて、ほんとに…ほんとに、ほんとにほんとに楽しかったんだから!」


 ルンルンは唐突に背を向けて、


「さぁ行きなさい!行った行った!!」


 手をヒラヒラとさせて叫んだ。


「また、会えるよね?」


 俺は尋ねた。


「…ええ、もちろんよ!世界は狭いからね、案外すぐに会えるかもしれないわ!その時はもっともっと強くなって、いつか貴女を絶対に守れるぐらい…強くなってみせるんだから!」


 ルンルンは剣を天に翳して叫んだ。


「…わかった。ルンルン、本当にありがとう…じゃあ、さよなら…」


 と、駆け出そうとしてーーー



 足が止まった。


 何故か足が前に進まなかった。セメントで固定されたかのようにはピタリと、ビクリとも動かずに、頭の中はルンルンのことで一杯だった。


 その時ばかりは、自分が叛逆の竜皇女の生まれ変わりだとか、魔物を引き寄せる特異体質だとか、勇敢なる救済の乙女と呼ばれていることとか、王都に出向くこととか、そんな事は最早どうでも良かったのだ。


「どうしたのシノミヤ?」


「……れたくない…」


「えっ?」


「やっぱり、俺はルンルンと離れたくない!」


 それが俺の本意である。俺は、ルンルンとこれからもずっと、一緒にいたかった。


「な、何でよ!?」


「……だって、俺…ルンルンがいないと、全然ダメだから…」


「そんな事ないわ!貴女はね、貴女が思っているよりもずっと賢くて、勇気のある子なんだから!私が保証する!シノミヤ、貴女は選ばれたーー


「そんな事、どうだっていいじゃん!俺はルンルンが思ってる程強くないし、凄くもない!俺は…ルンルンがいたから、これまでやってこれたんだよ!」


「……違う」


「違わない!ルンルン、お願い!一緒に来てよ!」


 頼むから、ずっと俺の隣で笑っていてくれ。俺が崩れ落ちそうなとき、逃げ出しそうなとき、その無邪気な笑顔で俺を励ましてくれよ。頼むから…


「それじゃあ駄目なの!私はね、今回のことで改めて気付かされたのよ…私は結局、異世界転生したところで、勇者になったところで、いつまでも弱い自分のままだった。だから、貴女を失いかけた…貴女をもう少しで、死なせてしまうところだった!私がもっと強かったら、エクシーズも、サクラビスさんも、いなくならずに済んだかもしれないのに…それなのに私は…」


 ルンルンは歯痒そうには握り拳を作って、


「だから私は、強くならないといけないのよ!貴女を、絶対に守れるように!貴女を悲しませるもの、傷つけるものから守れるように…もっと、もっともっと強くならないといけないんだから!」


 そう言って、元来た道を駆け出した。遠ざかっていく背を眺め、俺は考えた。今どうするべきか、俺は#どうしたい__・__#のか、それが何なのか。


 答えはすぐに出た。だから、


「待ってよルンルン!」


 俺はルンルンの後を追って駆け出した。


「つ、ついてこないでよ!?」


「嫌だ!」


「どうしてわかってくれないのよ!?今の私じゃあ貴女を守れないの!貴女は私なんかよりもずっと強い誰かに守ってもらわなきゃ駄目なんだから!」


「嫌だ!」


「この分からずやぁ!」


「五月蝿い!待ってよ…って、うわぁ!?」


 俺は何もないところで激しくこけた。そう、昔からこうだ。俺はいつも大事なところで何かをやらかす。確か生前もこんな事があったような気がする。確か何か大きな催し事で、確かリレーのようなものをしていて、勝敗を左右したここ一番という場面で盛大にこけるのだ。


「お前のせいだ」

「お前なんかいなければ」


 誰かがそう言うんだ。その事について俺は歯向かうことはしない。だって、実際に悪いのは俺なんだから。


 今回もまた大事なとこでこけて、大切なもの見失う。また同じ過ちを繰り返してしまうんだ。俺らしい、全く俺らしいよ…


「いてて…」


「し、シノミヤぁあああ!!」


 えっ?


 俺は顔をあげた。そして、目を真っ赤にして俺の方へと駆け寄ってくるルンルンを見た。そのままルンルンに抱き起こされて、激しい抱擁が待っていた。苦しくはなかった。


「もう!馬鹿シノミヤ!貴女は鈍臭いんだから!無理に走ったりしたら危ないでしょっ!?」


「う、うん…ごめん」


「謝るぐらいならしないでよ!これ以上私を心配させないでよ!」


「ごめんねルンルン。だから泣かないで」


「泣いてない!」


 めちゃくちゃ泣いてるじゃん!


「ルンルン、俺やっぱり、離れたくないよ」


「…何でよ、何でそんな事言うのよ。私だって一杯一杯考えて決めたのに」


「だって、」


 最早遠慮なんかしない。そうさ、俺はーーー


「俺、ルンルンが大好きなんだもん」


「……馬鹿」


「ごめんね。でも、離れたくないんだ」


「馬鹿、馬鹿馬鹿馬鹿…私の方が、全ッ然!全然全然全然全然!シノミヤの事が大好きなんだからぁっ!!」


 ルンルンはわんわんと泣き喚いてそう叫んだ。俺もつられては泣いてしまっていた。





 気づいた頃には既に空に夕焼けがかかりつつあった。

 俺とルンルンはあれからいっぱい泣いて、泣き疲れたのか日差しの陽気に誘われてか寝てしまっていて、今さっき起きたばっかりである。


「私ね、ずっと自分が特別な人間だと…そう思ってたの」


 ルンルンは夕焼け空を眺めながらには、唐突に語り始めた。


「生前は…そうね、そこそこ裕福な家庭で生まれたの。いわゆる勝ち組ってやつよ」


 と、微笑を浮かべて言って、


「小さい頃から沢山の習い事をしてきたわ。塾にも通って、受験も受けて、それこそ他の子に負けないようには生きてきたの。それは親の期待がそうさせたってのもあるけど、何より私自身負けず嫌いだったってのもあるわね。お金持ちで何でも出来る…そんな自分に酔っていたのよ。そうやって優越感に浸ってでしか、私は私の価値を見いだせなかった…だから、#あの時__・__#、私は完全に自分を見失ってしまったのね…」


「…#あの時__・__#?」


 俺は静かな口調では尋ねた。


「高校二年生になった時かしら…その頃の私って、自分でも言うのも何だけど、言わば完璧超人だったわけよ。何でも出来て、何でも持ってて、可愛くて…正に非の打ち所がないとはこの事だと自負していたわ。ただそんなある時、一人の転校生がやってきたの。驚いたわ…だってその子、一目見ただけでも、『あ、この子は人とは違う特別な存在なんだ』って分かるんですもの。空気感と言うか何と言うか…とにかく、目を疑いたくなるような女の子だった。しかも、かなり可愛くてね…もちろん予想通り、その子は人に無いものを全て持っていた。そしてそれは、私も例外ではなかったの。その子は私よりもずっと優れていた。それが私の人生最初で、最期の敗北を味わった瞬間よ。あの時から私の中で、ずっと#何かが__・__#狂い始めていたと思う…」


 そう言ったルンルンの横顔が、俺の目にどこか寂しそうに映っていた。


「あの時から、私は自分が本当は特別な存在じゃなかったことに気付き始めた。そうして世界にはまだまだ彼女のような存在が五万といて、しかも彼女よりももっと優れた存在がいるかもしれないと思うと、夜も眠れなかったわ。だからこう思ったのよ。誰にも真似できない、私にしかできない特別な事をしてみたいってね…」


 ルンルンは乾いた笑い声を零して、


「そんな時、銀行強盗に巻き込まれたの。直感的にこれだ!って思ったわ。ここで私が活躍して一躍有名になれば、私は胸をはって私を自己主張できるじゃないかって、そう思っていたんだけど…あははは…死んじゃった…」


「ルンルン…」


「あははは、ほんと、私って惨めよね?特別になりたくて、本当に特別になっちゃった…銀行強盗に立ち向かって命を落とした女子高生、これってかなり特別じゃない?誰にも真似できないでしょ?」


 これで合致した。ルンルンが勇者として転生できたのは、そんな功績を残したからなのであろう。ただ、そんなのってあんまりだ…


「俺は素直に、ルンルンは凄いなって、そう思うよ」


「うん、ありがとう…でも、いいのよもう。だってさ、私が特別な存在じゃないってことぐらい、私が一番よく理解できたんだから。それはねシノミヤ、貴女を見て気付いたことなのよ?」


「俺?」


「そう。貴女の事、最初は可愛い妹ぐらいにしか思ってなかったけど、でもね、違った。貴女は私なんかよりも、ずっとずっと凄い人だった。それはシノミヤ自身は気付いてないんだろうけど、それこそが答えだとも思うの。特別なことができる人ってさ、意識しなくてもそれができるわけよ。なりたくてなれるようなもんじゃないって、貴女の#勇気__・__#がそれを証明してくれた」


 ルンルンは畏まった視線で俺を見て、


「私は…シノミヤと出会う為に今日まで生きてきたんじゃないかって、今はそう思うわ。だから…」


「?」


「…改めて、言わせて頂戴。シノミヤ、さっきは貴女を突き放すような事を言って、本当にごめんなさい。今更さ、こんな事を言うのは図々しいのかもしれないけれど…」


「……」


「改めて、お願いするわシノミヤ。私と、一緒にいて下さい。貴女の隣に、一緒に…居させて下さい!!!」


「うん!」


 と、俺はそう応えた次の瞬間にも、無意識のうちにルンルンを抱きしめていた。


「え、え?シノミヤ?」


 いきなりのことで戸惑っているのだろうルンルンを、俺は力を込めて抱きしめた。


「もう、離さないから」


「シノミヤ…」


「ルンルン、俺からも言わせて。俺の側に、いて下さいな」








 こうして、俺たちは一緒に旅をすることになった。ルンルンと一緒に俺は旅に出れるーーーその事が無性に嬉しくて堪らない。


「でもさ、ほんと無茶だけはよしてよね!?いい!?」


「はーい」


 これから先、俺の前にはたくさんの不安事項が待ち構えているのだろうが、それはひとまず置いといてーーー


 今はただ、真っ直ぐ前を向いて歩こうと思う。

 俺は元気です、女体化したままだけど。


『待ってろよ女神…何が何でも10000ゴールド貯めてやるからな…』


 俺の異世界生活は続く。


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