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勇敢なる救済の乙女


 何とか一件落着。魔物たちは案外すんなりとは元の住処へと帰っていった。最後に残ったのはガーショップが率いるグレイウルフの群れと、妙に人懐こいゴブリン達である。


「主、契約を…」


 と、グレイウルフは首を垂れた。


「ん、どういうこと?」


「俺の頭に手を置いて、くれ。それで、我々グレイウルフと主との契約は結ばれる。契約に従い、主の危機とあらばいつでも駆けつける…」


「ああ、成る程…」


 正直言って、これ以上厄介ごとは御免だし少なからず関わるのも遠慮願いたいところではあったが…


「仕方ないな…」


 結局、俺はグレイウルフ達と契約を交わしていた。そう、俺は推しに弱いタイプだったのだ。


「ジャア、オレタチモ…」


 と、すかさず割って入ってきたのはゴブリン達。いやいや、お前らまで何を言いだすんだ。


「オレタチモ、ママノタスケニナリタイヨナ?」


「ナ?」

「ダヨナ?」

「ナ?」

「ウン」


「……はぁ、分かったよ」


 ちくしょう、どいつもこいつも可愛い顔しやがって。断るに断りきれねーじゃねーか…





 こうして#件__くだん__#の騒動は#一応__・__#、終幕を迎えたのである。あれから一週間が過ぎた。


「よお、ルーキー」


 ギルド[ルカンパニー]の屋上で1人風にあたっている時だった。声を掛けられて振り返ると、魔物ハンター バンクの姿がそこにあった。


「あれ、もう動いて大丈夫なんですか?」


「ああ、お陰様でな」


 と、バンクは歯を見せて笑うと、俺の横に並んで風に当たる。やけに神妙な面持ちをしていた。初めて会った時の、あの#太々__ふてぶて__#しい態度が嘘のようである。


「ところで、何か用ですか?」


 俺はそう話を切り出した。


「…いや、特にこれといって用があるわけじゃないんだがな…」


「?」


「あ、ありがとな…助けてくれて」


 と、頰を赤らめ、こっぱずかしいそうには呟いた。普段から強面なバンクとは到底考えつかないだろうその様子に、俺は吹き出して笑ってしまっていた。


「な、何で笑う?」


「いや、バンクさんも塩らしいところあるんだなって…あははは」


「くそ…ムカつくが、確かにお前の言う通りだ…まさか俺が他人にお礼を口にするだなんてな…はは、情けねぇよ」


 バンクは乾いた笑い声を零して言った。

 




 一週間前のあの日、俺は魔物たちを帰した後にも疲弊し傷ついた異世界転生者達を見つけ、森の外に連れ出した。数にして56人、皆一様には魔物たちとの戦闘でボロボロとなっていたが、何とか助け合いながら森を脱出に成功した。そしてその中に、バンクも混じっていた。


「あの後…というと、エクシーズと洞窟の中に入った後のことだ。俺は進んですぐにも魔物たちの襲撃にあって、意識を失った。その後の事はよく覚えてねぇ…ただ、気が付いた時には既に魔物たちに捕まった後だった」


 バンクは頭をぽりぽりと掻きながらに語る。


「じゃあ、エクシーズは…」


「…さぁ、分からねぇ。死んでんのか、生きてんのかさえな…俺がついて居ながら、ほんと申し訳なく思う…」


 バンクはそう言って、頭を下げた。その仕草からは本当に心の底から反省しているのだろう事が伺えた。というのも、エクシーズはあれから一週間過ぎた今でも#生存確認のとれていない__・__#。


仮に死んでいたとしても、遺体か痕跡の一切も見つかってはいなかった。行方不明者扱いとなっては未だに捜索対象の1人として数えられている。


 そして、生存確認のとれていない異世界転生者達の中には、桜花騎士団団長サクラビスさんの名も上がっていた。


「頭を上げてくださいバンクさん…別に、バンクさんのせいではありませんよ…」


 そう、これは誰のせいでもない。強いていえば、#俺のせい__・__#かもしれない。


無意識にしろ、魔物たちを引き寄せてしまった、俺という紅龍紋章所持者がそうさせてしまったのだから。


「お前にそう言ってもらえて助かるぜ…」


 バンクは薄く笑って、


「…時にシノミヤ、聞いたぜ?お前何でも今回の件で王都から呼び出しかかったみたいじゃねーか?」


「え、ああ…その事ですか…」


 やはりバンクの耳にも入っていたか…

 ていうか、このギルドに於いて今じゃあ知らない人もいないだろうな。


 そう。実は数日前に、俺は王都から呼び出しをくらっていたのだった。それは此度の件に於ける噂が世界に広まってしまったからであるらしい


「たはは…何か荷が重いですよ…」


「荷が重い、か…確かにな。王都に呼ばれる異世界転生者なんざ、この世界じゃ一握り。尚且つ、王都[エンシェルート]で直々に表彰される者はその中でももっとすくねぇ…でも当然だよな?何たってお前は、前代未聞の魔物の大量発生の中、勇敢にも俺たちを救出してくれた冒険者だもんな。シノミヤ、お前世間で何て呼ばれているか知ってるか?」


「い、いえ…」


「勇敢なる救済の乙女と、そう呼ばれているらしい。今じゃあ世界に通ずる呼び名らしいぞ?此度の件は、それ程に騒がれているみたいだ…また噂では、お前の美貌と武勇を聞きつけた各国の王子達が求婚をしにこちらへ向かってきているとも」


「え、えぇ!?」


 聞いてない!てか待て、今更だが…俺は男だ!!

 いかん、このままでは俺の貞操が危ない。危なすぎる。俺にはそんな趣味はない。どんなイケメンだろうと、可愛らしく腕に抱かれる俺の姿なんざ想像さえできない。てか#悍__おぞ__#ましい!


「教えてくれて有難うございますバンクさん!」


 早く[ルカンパニー]を断たねば…

 俺は踵を返して旅立ちの準備に向かおうとした、次の瞬間、


「待て!」


 それはバンクの声。そして、


「…へぇ?」


 俺は何故か背後から力強く抱き締めれていた。


「ば、バンクさん?」


「好きだ」


「ん?」


 意味が分からん。


「長らく独り身で、この先も一生独り身でいるつもりだったんだが…お前と出逢って、そして助けられて…俺の中で、何かが変わっちまった…シノミヤを見ていると、どうしてか胸が落ち着かねーんだ…はは、柄にもねーよな」


「……」


 ほんとだよ。柄にも無いことを突然にこの人は…


「シノミヤ、お前を誰にも渡したくはない。今回は助けられちまったが、今後はお前のために、この身を、一生をお前に捧げたいと、そう思っている…駄目か?」


「……冗談、ですよね?」


「本気だ」


 バンクの俺を抱き締める力がより一層に強くなった。うん、これはマジだ。マジのやつだ…


 バンクは本気で、俺という美少女(仮)に惚れちまっている。


「バ、バンクさん程の人なら、俺なんかよりももっと良い人がいると思いますよ?」


 やんわりと断ってみる。といっても、バンクはおじさんではあるか、かなりのハンサムだ。巷ではバンクの男気に惚れて好意を寄せている女性も少なくないとか。だったらそういった女性達と宜しくやった方がバンクの為にもなるだろうよ。何が悲しくて美少女モドキの俺なんかと過ごす必要があろうか?


 これは双方にとって、あまり良い関係とは呼べない!

 

 と、俺は思うんだがな…


「直ぐに答えを出してくれとは言わねーよ。ただ、考えておいて欲しい。王都から帰ってきたら、その答えを聞かせてくれ」


「……わ、ワカリマシタ」


 大変なことになってきたぞ…


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