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愛が重い


 1人宿屋へと戻ると、俺は早々にも寝ることにした。寝る前、俺は錆びた小剣を手に、まじまじとそれを眺めていた。


 確かガーショップはこう言っていたーーー



”””『崩天連鎖の刻剣[デーモンズ・アイクラッド]。かつて竜姫が扱っていたものとおんなじ物。それは竜姫ビルマだけが持つ事を許された絶縁の劔、かつて魔物達からビルマに送った宝物である。。#先__さき__#の大戦で失われたと思ってたけど、やっぱり、運命によって導かれたようだな』”””


 ーーーと、そんな事を。


 改めて小剣を眺めてみてもよくは分からなかった。確かに最初、露店でこの小剣を見せられた時は心にビビッと感じるものがあったが、ルンルンに見せてただ錆びているだけの粗末品だと断定されて、そうかも、とは変に納得したわけで…


 つまりだ、こう言いたい。


「100ゴールドという破格の値段で手に入れた言わば妥協で買った武器が、まさかとんでもない代物だとは想像できたわけもないだろうが馬鹿野郎が!」と、言いたいのだ。


 しかも叛逆の竜皇女ビルマ・マルクレイドと#所縁__ゆかり__#があるなんて運命の悪戯にも程があんだろ。


 まるで#誰か__・__#の思惑が働いているようだと思う俺は間違いなのか?


 その#誰か__・__#は、俺をビルマ・マルクレイドの生まれ変わりとするべく着々と準備を進めていて、俺が紅竜紋章を手にした事も、俺が此度の事件に巻き込まれることも全ては想定済みだったのやもしれない…と、そう思っても不思議ではないと俺は思う。


 いかん、そんな気がしていた。俺は誰かの思惑に激しく突き動かされているーーー





 次の日の早朝、俺は1人宿屋を出た。

 そうして足早には森の方へと進み、見覚えのある影が俺を出迎えた。


「おはよう、主」


 ガーショップだ。


「迎えはいらないってあれ程言っただろうに…」


「うん、でも…主に早く会いたかった」


 うん、その愛が今はすごく重たいよ…


「ごめんな、よしよし」


 俺は申し訳程度にガーショップの頭を撫でた。ガーショップは昨日同様にはゴロゴロと心地良さそうな鳴き声を漏らして、恍惚そうな表情を浮かべていた。


 生前の感覚でいけば、少女がデカイ犬と#戯__たわむ__#れている優しい絵面に片付くのだろうが、いかんせんここは異世界。


 見る人によれば冒険者である俺が凶暴な魔物を手懐けている酷い絵図と捉えられることだろう。


「主、もっと撫でて…」


「ここ?」


「もうちょい右…」


「ここか?」


「ああっ!そこっ!!」


「……気持ちいい?」


「至福である」


「あっそ」


 魔物もこうしてる分には可愛いんだけどな。モフモフだし。


「主、どうして抱きつく?」


「気持ちいいから」


「?」


「実を言うと、俺は根っからの動物好きなんだ」


「動物?」


「…お前達みたいなやつのことだよ」


 俺はガーショップを撫でては言った。


「俺も、主のこと、好きだぞ?」


「…ありがとよ」


 ああ、ずっとこうしていたい。

 何故お前は魔物で、俺はビルマ・マルクレイドの生まれ変わりなんだ?

 遣る瀬無いよ全く。





 俺は辺りを見渡して人がいない事を確認すると、ガーショップの背に跨っては森の中へと入っていった。早朝ということもあり、森の中はやけに静かだった。


「なぁ、俺の仲間…ちゃんと生きてる?殺してないよね?」


 俺はガーショップに尋ねた。


「…食べたかったけど、主に言われてからは食べてない…食べたかったけど」


 と、残念そうにガーショップは項垂れ、呟いた。かなり未練タラタラな様子である。


「何処にいる?」


「森のずっと奥」


「そう。因みにどれくらい?」


「50…ぐらい」


 良かった。どうやら半数は生きているようだな。サクラビスさんやエクシーズ、それに魔物ハンターのバンクも生きてたらいいけど…洞窟の中に入っていったきり、そのまま置き去りにしてきちゃったからな…


「もう直ぐつく」


 ガーショップはそう言って駆け出した。振り落とされないようしっかりしがみつく。


 そうしてグイグイとは加速していって、俺はその場所へとたどり着いた。森の中で、そこだけは樹々の生えていない、やたらと#開__ひら__#けた場所である。


 そして、俺は目を見開いて驚いていた。


「何、これ…」


 その場所を眺めて、1人俺は呟いた。何故なら、その場所には目で追いきれない程の、たくさんの魔物達で覆い尽くされていたからである。しかもだ、当初はグレイウルフのみと予想していたわけだが、この場所には見たこともない魔物ばかりが揃い集っていた。


「主の為に集まった、同志達である」


 ガーショップは言って、スゥーっとその場所へと足を進めていったーーー次の瞬間、


「「「グゥオおおおおッ!!!」」」


 と、怒号のような雄叫びが、一斉に森の中へと響わった。無論、その雄叫びの正体は魔物達で、皆一様には飛び跳ねてドンドンと大地を揺らしていた。


「ビルマだッ!!!」

「カエッテキタッ!!」

「ビルマッ!!」

「グホォッ、グホォッ!!」


 口々にビルマの名を叫ぶ魔物達。俺は乾いた笑みをこぼして皆に手を振った。すると、


「「「グゥオおおおおッ!!!」」」


 やはりこの雄叫び。魔物達のアイドルなのか俺は!?


 予想だにしていなかった状況に困惑を隠しきれなかったーーその時だった。


「ママッ!!」


 聞いたことのある声が聞こえてきた。

 俺は声の方へと目線を移して、口をあんぐりとは開いていたーー視界先に、計五体の魔物達がピョンピョンと飛び跳ねながら近づいてくるではないか。

 例のゴブリン達だ。


「ママァ!!!」


「う、うわぁッ!?」


 ゴブリンの一体が俺の頭にしがみつき、そのまま他のゴブリン達も俺の腕や足やら胸やらにしがみつき、俺はガーショップの背から転げ落ちた。


「ヤッパリ、ママダ!」

「カエッテキタ!」

「ヨカッタネ!」

「イイニオイ!」

「スキ!」


「お前ら、元の場所に戻れっていったじゃん!?」


「ウン、デモ…ナ?」

「ナ?」

「ママガイルシ」

「シカタ、ナカッタモンナ?」

「ナ?」


 ゴブリン達は俺にむぎゅうっとしがみつかれたまま離れようとしない。するとペタペタとガーショップは近づいてきて、ニヤリと笑っては、


「主の事、みんな大好きである」


 と、嬉しそうには言った。


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