変態と混浴で
その後、異世界案内人Aは俺の相談役になってくれることを了承してくれた。そうしていざ俺が話そうとした時だった、
「ちょっと待って下さい」
「今度は何?」
「いや、何か臭いませんか?」
「そう?」
俺は鼻に意識を集中…何もおかしな臭いはしなかった。俺は異世界案内人Aに首を傾げて見せた。すると突然、
「ああ、そういうことですか!」
異世界案内人Aは俺を見てニヒルな笑みを浮かべ、鼻を近付けると、
「シノミヤ、貴女…今すっごい臭いますよ?」
嬉しそうに、
「興奮します」
そう言った。
「はぁ!?冗談言うな!」
「いえ、事実です」
「またそうやって俺を#煽__あお__#ろうたってそうはいかないかんな!」
しかも何が興奮するだ…真性のアホかコイツ。
「美少女から臭う異様に汗臭い香り…それとこれは…獣の臭いですか?いやぁ、堪りませんね」
「!?」
そう言われてみれば心当たりがあるような…何たって今日はめちゃくちゃ汗かいたし、グレイウルフに身体を擦り付けられたりしたし、何より風呂もまだだ。確かに汗臭い…とも言えなくないような…そんな気はしてきた。
「くそ、分かったよ。じゃあ風呂に入ってまた来れば…」
と俺は観念してVIPルームを後にしようとした、次の瞬間だった。
「ちょっと待って下さいッ!!」
思いっきり手首を掴まれた。
「はぁ…」
今度は何だよ。
「一緒に入りましょう!!」
「……へぇ?」
「混浴風呂です!いいでしょう!?」
いいわけあるか馬鹿野郎。
「入ってくれなきゃ相談には乗りませんよ!それでもいいのですか!?」
「はぁ!?お前さっきと言ってること違うじゃん!?」
「今は今、さっきはさっき!!」
異世界案内人Aは荒い鼻息を鳴らして言った。
足元を掬われるとはこの事だとは、そう思った。
てなわけで、俺はやたらと広く、また豪勢な造りをした露天風呂へとやってきた。何でも異世界案内人A専用の露天風呂らしく、他には誰にもいなかった。その変態野郎を除いては。
「おやおやシノミヤ、その体に巻いたタオルは余計なのでは?」
「馬鹿」
何でこんな事になった…とは今更言っても仕方がない。そうなってしまったわけだから諦める他ないだろうよ。
「凄く綺麗な肌だ、…」
嫌らしい目付きで俺の体を舐め回すようには眺める異世界案内人Aに吐き気を催す。
「殴るぞ?」
「是非…お願いします」
はぁ、変態に何を言っても無駄だ。俺は諦めて、異世界案内人Aから遠く離れた位置に移動した。お湯へと身体を沈め、なるべく裸体を晒すぬようにしなくては…女も大変だよ全く。
体も温まってきた頃合い、俺はそ静かに話を切り出した。
「今のところ、ギルドに帰還できたのは俺とルンルン、そして後は数人だけ…なんだよな?」
「そうみたいですね」
やっぱりそうか…100人ぐらい集まった筈なのに…
「何でもグレイウルフが出没したみたいじゃないですか?」
「知っているのか?」
「帰還した誰かが騒ぎまくっていましたよ。グレイウルフの群れに突然襲われて、殆どの者は殺されてしまったと…」
「……」
やはりそうなのか。薄々は勘付いていたんだが、実際に聞かされると嫌な気分だ。しかもその事について、俺は無関係ではない。むしろかなりの原因だったりするわけで、
「桜花騎士団のサクラビスさん、それと…エクシーズもまだ戻ってないのか?」
「ええ、今も行方は分かってないそうですよ」
「…そうか」
畜生が。何だってこんな事に…
「魔公の狼[グレイウルフ]…魔物の中でも危険度Aに該当する獰猛な獣ですね。単体だけで言えば大したこともないようですが、グレイウルフは群れを成して狩りを行う厄介な存在です。腕に自信があるものでも、奴らに目をつけられて生還できる者はごく稀だと言われています」
「やはりそれは俺のせい、なんだよな?」
そう言った俺に対し、異世界案内人Aは頷いて、
「普段であればこんな人里に現れる事はまずないとされていますからね、それ程に貴女の特異体質がかなりのモノだということでしょう」
お湯で火照っている筈の体はゾクゾクと身震いする。改めて、叛逆の竜皇女ビルマ・マルクレイドとして転生してしまったことのヤバさを痛感していた。
「どうして…俺、だったんだろうか…」
「さぁ、その辺につきましては女神様しか分かりません。何せ女神メルヘムは俗世とはかけ離れた神の化身です…そもそも女神の意思によるところなのか、飽くまでも偶然の産物なのかは実際に聞いてみることが一番かと。といっても、正直に話してくれるとも限りませんがね」
異世界案内人Aは言って、他人事のようにはタハハと笑った。マジでムカつく野郎だ。
ただ今は俺がどうして紅竜紋章を手にしたか、なんてことは置いといて、
「この状況、俺にできることはあるか?」
俺はそう尋ねた。
「そうですね…無意識に引き寄せたということであれば、その意思で遠ざけることも可能ではないのでしょうか?」
「というと?」
「命令するのです。グレイウルフの群れには大抵、群れを率いる#長__おさ__#たる存在がいる筈です。その#長__おさ__#に直接命令を下せば、もしくは此度の事態を終息させることが可能やもしれません」
そう言って、「ただ…」とは意味深には続けて、
「逆もまた然り。グレイウルフを怒らせて、今よりももっと危ない状況を作り出してしまう事もあるやもしれませんね」
成る程、確かにあり得るなそりゃあ。
グレイウルフの長と言えば奴、ガーショップのことを指すのだろうか。話した限りじゃいけそうな気もしなくはないが…
果たしてそう上手くいかのか?
「どちらにしろ、俺次第、なんだよな…」
「ええ、現状は」
嫌な展開になってきた。
「時にシノミヤ、ちょっと胸を見せてくれませんか?」
突然、異世界案内人Aはそんな事を言い出してきた。
「…こんな時までお前は…」
抜け目のない変態め。
「いえいえ、勘違いしないで下さい。私はただ、#例の刻印__・__#を見たいだけなのです」
「例の刻印?」
なんだそれは?
「確かビルマ・マルクレイドの胸元には伝説の魔竜レッドドラゴンとの契約印である刻印が刻まれていた筈。仮にそれが貴女の体に刻まれているならば、もしかしたらレッドドラゴンの力を引き出せるかもしれませんよ?」
「レッド、ドラゴン…」
俺は恐る恐る胸元のタオルを退けて、チラリと胸元に視線を移した。そうして、右胸の#傍__わき__#辺りに、それらしき刻印を発見。まさか本当にあるとはな…
「ほうほう…これは凄い。やはり貴女の胸は良い形をしていますな…」
いつの間にやら、異世界案内人Aは俺の胸を覗きこむようにはそう言って、
「ご馳走様でした」
と、続け様には呟いた。どこまでもふざけた野郎である。
無論、そんな愚行を許すわけもなく、俺は握り拳を作ると、渾身の右ストレートをもっては異世界案内人Aの右頬を打ち抜いた。
「………な、中々…素晴らしいパンチ力てす…」
「フンッ!!」
俺は1人、浴室を後にした。




