心配される俺
ほどなくして、視界にいつもの見慣れた建物が見えてきた。異世界転生者ギルド[ルカンパニー]だ。
「では#主__あるじ__#、明日、迎えに行きます」
別れ際、森の中へと戻ろうとしたガーショップが言った。
「いや、ダメ」
「何故?」
「考えてもみてよ、俺がグレイウルフと仲良く歩いていたら皆んなが驚くでしょ?」
「…大丈夫、その時は俺たちと一緒に暮らせばいい」
「こっちはこっちの都合があるの!」
「……そう」
ガーショップは肩を落としてため息を漏らした。何だか申し訳ない気分がしたが、断じて俺は何も悪いことはしていない….してないよな?
「とにかく、明日俺の方から行くから、それでいいだろ?」
色々と聞きたいことがあるしな。
「分かった。じゃあ、主よ、さようなら」
「ああ、じゃあな」
「…あと、最後に一つだけ、お願いがある」
ガーショップはやたらと甘ったるい口振りで言った。一体何だろうか?
「頭、ナデナデして…」
ギルドに戻るとそれはそれはどエライ騒ぎとなっていた。ギルド内は騒然として、いつもとまた一風変わった騒がしさが充満していた。
もちろんそれは此度の魔物一斉討伐の件であり、あまりの慌ただしはにルンルンをおぶって帰還した俺は大層驚かされていた。また驚いていたのは[ルカンパニー]の皆も同様な感じで、俺の周りはあれよこれよという間に凄い人集りが出来ていた。
「生存者だ!」
「し、シノミヤ!?ルンルンは無事か!?」
「と、とりあえず中へ!」
うん、何か滅茶苦茶心配されていたみたいだ。客観的にみて、まるで帰りの遅い娘達を家で首を長くして待っていた父親達…といった、そんな反応である。
まぁ確かにだ、仮に俺が今の俺のような容姿をした年頃の娘や妹がいたとして、その娘や妹か帰ってこなかったらしたらそりゃあ心配するだろうことは分かるが、いかんせん今の俺は娘サイドなわけで、改めて女体化が愕然たる事実だと言うことを再確認できる。
まるでお姫様になった気分だよ…実は男だけど。
そうして俺はそんなギルドの紳士方々の手厚いエスコートを受けて医務室へ、そのままルンルンをベッドへ寝かしつけた。うん、随分と可愛い顔して寝てやがる。ただ熟睡してるように見えるのは気のせいか?
「…でも、やり方がどうであれルンルンが俺を逃がそうと体を張って助けようとしてくれた事は確かだしね…ありがとね、ルンルン…」
俺はそっと、ルンルンの頰にキスをしてみた。別に下心はない。断じてない。全くないが…
「……Zzz…」
アホなことしたとは素直に認めよう。
俺は何事もなかったようにはルンルンに布団を被せ、医務室を後にした。
◆◇◆◇
「やぁ、そろそろ来る頃だと思っていましたよ」
ワイングラスを片手に、そいつは含み笑いを浮かべていた。二度とみたくはないと思っていたし、見るつもりもなかったわけではあるか、まさか自分が足を運ぶとは数日前の俺は想像もしていなかったことだろう。
ここはVIPルーム。異世界転生を果たしたその日にも#とある変態__・__#に連れてこられた苦い思い出のある場所である。
俺はその#とある変態__・__#ーーー異世界案内人Aを一瞥して、ため息を吐くと、おずおずとした足取りでは真向かいの椅子に腰つかせ、
「で、お前はこの展開を知っていたのか?」
と、話を切り出した。
「というと?」
「まだ#惚__とぼ__#けるつもりか?」
俺は懐から紅竜紋章を取り出して見せた。
「何が伝説の紋章だ馬鹿野郎。伝説どころか大罪人の証らしいじゃねーか」
「ああ、紅竜紋章のことですか…いえいえ、それは正しく伝説の紋章ですよ。#伝説の大罪人が残した__・__#という意味では、ですが」
異世界案内人Aはクツクツと卑屈そうに笑うと、どこまでもポーカーフェイスな態度を見せつけて、
「嘘はついてませんよね?」
「ふざけやがって」
「ふざけてませんよ」
「いやふざけてるね。この紋章のせいで今大変な事になってる!お前も知ってんだろ!?」
「らしいですね。ただ、それとこれとは私に何の関係はありませんし…違いますか?」
「……ふん」
全く、違いねぇよ。色々と聞かなかったのは俺も悪かったよ。反省してるよ。
でもな、仮に異世界案内人を名乗るのならある程度の寛容さがあってもいいと思う俺は間違っているのか?この紅竜紋章がどういったものかを知っていて何故それを黙っていたのか理由を聞きたいね。
「ま、今更どう言ったって仕方ないが…」
「おっしゃる通り。今更過ぎた事をぐちぐち考えていても仕方がありませんよ?」
「お前にだけは言われたくない」
「…ふふ、ですか」
「まぁいい。問題は今後どうするかだが、」
俺は頭を切り替えて異世界案内人Aに詰め寄ると、
「とりあえず聞こう。俺が叛逆の竜皇女とかいう大罪人の生まれ変わりで、その証がこの紅竜紋章で、今この地に魔物が押し寄せてきているのもその影響…ここまであってるのか?」
「多分」
「はぁ、多分だと?」
ここまできて白ばくれるつもりか?
「いやいや、私もですね、全てを知っているわけではないんですよ。ただ貴女が持つその紅竜紋章を見た時、#もしや__・__#とは予測していたに過ぎないのです。かの叛逆の竜皇女ビルマ・マルクレイドは特異な魔力により魔物を引き寄せる不思議な力を持っていたとされていますが、私にはそれが確固たる事実だと証明する手段がありませんでした。だからですよ、私自身も今この状況に驚いているのです」
異世界案内人Aは手をヒラヒラとさせては言った。真意の程はまだ分からないが、嘘をついてはないような、そんな気はする。
「つまり、お前が裏で手を引いているわけではないんだな?」
「もちろんです。そこまでの力は私にはありませんよ」
「…信じるぞ?」
「ええ、是非」
異世界案内人Aは頰を緩めて言った。
「じゃあ今から話すことは俺からの相談事だ。というのも俺にはどうしていいか分からないことばかりで、猫の手でも#変態__・__#の手でも借りたいぐらいなんだよ」
「#変態__・__#?それは私のことですか?」
「だったら?」
「…光栄に思います…何せ貴女のような美少女に、しかもあの絶世の美女とは歌われた叛逆の竜皇女ビルマ・マルクレイドの生まれ変わりに#変態__・__#呼ばわりされるなんて…これ程の栄誉が他にあると思いますか?否、そんなものはどこにもない!」
いや、たくさんあると思うぞ?
「やっぱお前はとんだ変態クソ野郎だよ」
「ああ、もっと!」
「死ね、糞、ド変態…」
「ふあああああああッ!!!いいッ!!凄く、良いッ!!」
はぁ、何やってんだ俺。




