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衝撃の事実


「ルンルン、やばい…」


「え、何が?」


「あそこ…」


 俺は茂みを指差して言った。遠目からでも見えずらいが、目を凝らせば分かる。茂みからチラチラと赤い閃光が右往左往と揺れていて、あれは魔物の放つ眼光というやつだ。また微かにグルグルとは喉音を鳴らす音が聞こえていたーーー次の瞬間、ゆっくりとは茂みから姿を現した#そいつ__・__#を見て、俺たちは言葉を失った。


 グレイウルフだ。


「逃げよ!」


 俺は咄嗟に叫んでルンルンの手を引っ張って走り出そうとして、


「待ってシノミヤ!2人はどんするのよ!?」


「わ、分かんないけど…」


 今そんな事言ってる場合か?

 

「ルンルン、ちなみに俺たちと#あいつ__グレイウルフ__#が闘った場合…勝てる見込みはあったりする?」


「いや、全く」


 ルンルンは首を横に振って断言した。


「じゃあ逃げようよ!?」


「そ、そう…だけど、なんか勇者としてのプライドが許さないっていうか…」


 馬鹿野郎!


 俺は繋いだ手を無理矢理に引っ張り寄せると、そのまま森の中を適当には駆け出した。そしてチラッと背後を振り返ると、やはりグレイウルフが猛スピード追いかけてきていた。


 かなりの速さだ。無論、追い付かれるのは時間の問題だろう。

 

 どうする?


 俺が考えを二転三転させていたーーーその時だ、


「シノミヤ!私にいい考えがあるわ!」


 ルンルンは自信たっぷりといった様子で叫んだ。

 

「いい考えって!?」


 俺は振り返って、藁にもすがる思いで尋ねた。ルンルンはニヤリと口角を上げ、笑う。


「まぁ、見てなさい…」


 そう言って、途端にルンルンは立ち止まると、直ぐそばにまで走り寄ってきていたグレイウルフと真正面から対峙した。そんなルンルンの背を見て、俺は察した。


 まさかルンルンお前…俺を逃がすために、1人で#囮__おとり__#になるつもりか!?


「だ、駄目だルンルン!!」


「いいのよシノミヤ!たまにはカッコイイとこ見せないと、勇者としての面目が立たないでしょう!!」


 ルンルンは既に10mはきったであろうグレイウルフを見据え構えると、一本の剣を手にした。しかもそれはルンルンのものではない、#やたらと錆びた刀身の小剣__・__#、である。


「って、それ俺のじゃん!?」


 俺は咄嗟に腰へと視線を移した。鞘だけしかない。つまり、あれは本当に俺の小剣だ。


 一体そんなものをどうして!?


「いくわよワンちゃん!これでもくらいなさいっ!!」


 次の瞬間、ルンルンは小剣を思いっきり振り構えると、、えいっ!という掛け声と共に小剣をグレイウルフへ向け投げつけた。そうしてルンルンの手から投射された俺の小剣はクルクルと上空を舞って、グレイウルフの遥か頭上へと通り過ぎていく。


 的外れの大遠投である。


 この時、既にルンルンとグレイウルフとの距離は目と鼻の先に縮まっていた。次の瞬間にも、グレイウルフはルンルンへと飛び掛かり喉元を食い千切ってしまうことだろう。


「グガァアアアッ!!!」


 凶暴な鳴き声を耳につく。そんな鳴き声とは、グレイウルフがルンルンへと飛び掛かった瞬間でもあった。


 終わったと、そう思った。



◆◇◆◇◆◇



 結果から言おう。

 終わってなどいなかった。


「クゥーン…」


 可愛らしい鳴き声をあげるグレイウルフとは、今まさにルンルンを下敷きにしては大きな#欠伸__あくび__#を一回。ルンルンはというと気絶しているみたいが、外傷は全くといってない様子だ。大方グレイウルフを目の前にしたショックで意識がブッ飛んでしまったのだろう。まぁ、分からなくはないが…


 それにしても、これはどういうことだ?何故グレイウルフは何もして来ない?


 警戒心はそのままに、俺はゆっくりと距離を詰め出していたーーその時だ、


「お帰り、#主__あるじ__#」


 グレイウルフは流暢な言葉遣いで喋り始めた。


「……はい?」


 待て、百歩譲って喋ることはまだ許そう。ゴブリンだって喋っていたことだし、異世界に人語を解する魔物がいたって何ら不思議じゃないだろう。

俺が引っ掛かっているのはそういうことじゃなくて…


「#主__・__#って…もしかして俺の事?」


「そう」


 グレイウルフは頷いて、ルンルンの頰をペロペロと舐め始めていた。


「ところで主、こいつ食べて良い?」


「いや待て、俺はお前の言う#主__あるじ__#じゃないじゃないし、その子は食べちゃダメ!」


「………じゃあ、腕だけ」


 甘えるような言葉遣いである。


「駄目なもんは駄目!」


「…そう、残念…」


 グレイウルフはションボリと項垂れた。


 


 一先ず状況を整理しよう。現状、ルンルンは俺の隣で気絶していて、そして俺の膝を枕に魔物危険度ランクAであるらしいグレイウルフとやらが心地良さそうには寝っ転がっていて…何だこの状況?


「#主__あるじ__#、頭を撫で撫でしてほしい…」


「こ、こうか?」


 俺は犬の頭を撫でる感覚でグレイウルフをガシガシと撫でた。


「良い…凄く良い…」


「そ、そうか…」


「やはり、主の膝はモチモチとしていてフワフワで最高である…」


「……うん」


「匂いも良い…ふむ、至福…」


「……」


 何だこいつ…


 とりあえず、グレイウルフに殺されるという最悪の事態は回避できたわけだが、だからといった今この状況が果たして正しいのかと問われれば答えはNOである。何せこのグレイウルフはE班を壊滅させた獰猛な魔物であり、現に俺は仲間がこいつらに殺されていく場面を見ていたわけだ。


「なぁ、お前はどうして俺たちを襲わないんだ?」


「#主__あるじ__#を襲う理由がない」


 グレイウルフは平然とした様子で言って退けた。


「その#主__・__#ってことなんだけど…どうして俺なの?」


 普通に考えて何かの間違いだと思うのたが…


「どうしてと言われても、俺がこの世界に誕生したその瞬間から、そつ決っている。それ以上でも以下でもなく…主は俺たちの王だ」


 と、グレイウルフはそう言って#徐__おもむろ__#に立ち上がると、バタバタと何処かへ駆け出して、数分後、


「これ」


 小剣を咥えては戻ってきた。それは先ほどルンルンが投げ飛ばした俺の小剣である。それと、これは…


「赤い…紋章…」


「紅竜紋章、主の大切なもの…」


 グレイウルフはぐるぐると嬉しそうな喉を鳴らしていた。


「何処で、これを?」


「あっちに落ていた」


 ああ、やはりこの森に落としていたのか、


「でも何でこれが俺のだと?」


「主と同なじ匂いがした。竜の姫の証、だろ?」


 竜の、姫?それはまさか…叛逆の竜皇女ビルマ・マルクレイドの事を言っているのか?


 仮にそうだとしてだ、まさかと思うが…こいつらは勘違いしているのではなかろうか?


「待て待て、俺はビルマ・マルクレイドじゃないぞ!?転生したらたまたま紅竜紋章を手にしてしまっただけで…」


 と、俺は言いかけてーーーグレイウルフは被せるようには、


「知ってる。主はビルマ・マルクレイドの生まれ変わり、100年の歳月を経て蘇った、俺たちの大切な人。ビルマは死ぬとき言った…『#今度の私によろしく__・__#と、だから、来た」


 衝撃の事実である。


「…嘘でしょ?」


「ほんと」


「証拠は?」


「それ」


 と言ったグレイウルフの視線先に、俺の小剣はある。


「崩天連鎖の刻剣[デーモンズ・アイクラッド]。かつて竜姫が扱っていたものとおんなじ物。それは竜姫ビルマだけが持つ事を許された絶縁の劔、かつて魔物達からビルマに送った宝物である。。#先__さき__#の大戦で失われたと思ってたけど、やっぱり、運命によって導かれたようだな」


「で、デーモンズ・アイクラッド!?」


 な、なんだそれ!?


「いやいや、違うでしょ!だってここ錆びてるし」


 俺は小剣の刀身を指差して言った。


「錆び?ああ、それは錆びなどではない。高純度の#魔鋼石__まこうせき__#が刀身に埋め込まれている」


「…ま、魔鋼石…」


「世界でも希少価値の高い、純粋なる魔力でできた鋼石の結晶。並みのものじゃ扱えない」


 待て、俺は並み…いや、それ以下だろうが?


「違う。主は特別な存在。俺たちを導いてくれる偉大なる王だ」


 嘘だと言ってくれーーー俺は沈みゆく太陽に、そう願わざるを得なかった。





 気絶したルンルンをグレイウルフの背中に、俺は森を抜けるべく歩いていた。


 今日は一先ず帰ろうという俺の判断からだ。


 空はすっかり夕焼け空で、体をすり抜ける風か冷たく感じる。俺はグレイウルフ先導のもと森の抜け道を目指した。出来れば暗くなる前に戻れたらいいけど、


「主よ、本当に行ってしまうのか?」


 寂しそうな声色で尋ねるグレイウルフ。さっきからずっとこの調子だ。


「ああ、今日は遅いからね」


 俺はグレイウルフにそう言って、優しく頭を撫でてあげた。グレイウルフはそれが気持ちいいのか、ゴロゴロと鳴き声を上げ目を瞑る。何となく扱いが分かってきた。


「そう言えば名前聞いてなかったね。何て言うの?」


 不意に訊いてみた。


「ガーショップ」


 グレイウルフ改めガーショップは呟いて、続けて、


「…群れの#長__おさ__#である」


 フフンと笑って、何故か得意げな様子であった。


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