囲まれた
俺たちE班を取り囲んだ魔物達についての明確な数までは分からないが、少なくとも数10体以上はいるのは確かであった。
その魔物達、姿形で言えば狼の群れのようである。ただ体長が大体2メートル程とバカでかかったり、#烏__カラス__#のような黒い毛並みをしていたり、口元から異様に突出した鋭く尖った牙が生えていたりと、違いがあるとすれはそれぐらい。
見方によれば、ちょっとデカイ犬っコロにも見えなくはないだろう。
「…グレイウルフですか、少々厄介ですね…」
エクシーズはこめかみから一筋の汗を垂らしながらに呟いた。
「グレイウルフ?こいつらのこと?」
俺は犬っころ達を指差して言った。
「そうです」
「グググ、グレイウルフですってぇ!?」
と、ルンルンは大層仰天している様子である。
「やややばいじゃないの、どうすんのよこれ!?」
以下、ルンルンとエクシーズのやり取りは続く。
「取り乱さない!貴女は一応でも勇者なのでしょう!?」
「そうだけど、グレイウルフって危険度ランクAのヤバいヤツじゃないの!?」
「そうです、#かなり__・__#ヤバいヤツですよ…僕も過去に一度奴らと遭遇したことがありますが、殺されかけた経験があります」
「な!?どうしてこんなとこにいるのよ!?」
「知りませんよ!」
と、2人は酷く動揺していた。以上を踏まえ、うん、[ちょっとデカイ犬っころ]という表現は酷く間違っていたようだ。かなり危ない魔物、そう訂正しよう。
「とりあえず、2人共逃げない?皆んなもうとっくに逃げ出してるよ?」
俺は四方八方に逃げ出したE班の方々を眺めて言った。
この場に残されたのは俺とルンルンとエクシーズと、なぜかE班の隊長のみで、皆はとっくに散り散りとなっては逃げ出した後であった。
殆どのグレイウルフは逃げ出した人達を追っていったものの、まだ俺たちを囲む形で数体のグレイウルフがグルグルと喉音を鳴らしていた。
「よお、ルーキー共。逃げ出さなかったことは褒めてやるよ…」
隊長は口元を緩め、太々しい口振りで言った。やけに余裕そうな様子。
「隊長殿は逃げないのですか?」
「逃げる?馬鹿言うな。グレイウルフの習性を考えればそんな命取りな事できるもんかよ。#奴ら__グレイウルフ__#は逃げる対象を執拗に付け狙う…だったらまだ動かない方がマシだろうが?」
と、逃げ去っていく者達の背を眺め、
「あいつらもう駄目だな。八裂きにされて、それで終いよ」
鼻で笑って言った。
「ルーキー、名を確か…シノミヤと言ったか?どうして逃げなかった?」
「いや、彼らがこんな感じなもんで…」
そう言って、未だ言い争うルンルンとエクシーズを流し見た。
「巻き添えを食らっちまったってわけか…はははは、中々ルーキーらしくて良いじゃねーか?ま、そのおかげで命拾いしたと思うこったな」
「命拾いした?」
俺は隊長に尋ねた。
「ああそうだ。この俺、魔物ハンター[バンク]と共にいれたことを感謝しな…ちょいと下がってろ」
隊長改めーー魔物ハンターを名乗るバンクはグレイウルフの前に出ると、挑発するようには口笛を鳴らした。
「よお、犬公共。殺ろうってんなら相手になるぜ?」
◇◆◇◆◇
まさに一瞬だった。バンクは身の丈以上もある剣を巧みに操ると、数体のグレイウルフを瞬殺。
「ふん、大したことねぇ…」
バンクはグレイウルフの死体を踏み躙りながら言った。
「す、すごいわね…」
「え、ええ…まさかここまでとは…魔物ハンターの異名は伊達じゃないということでしょうか…」
いつの間にやら俺の隣に並んでいたルンルンとエクシーズは、目を見開いては驚きを口にしていた。
「おいルーキー共、何ボサッとしてやがる。仲間が戻ってこないうちに別部隊と合流するぞ?といっても、#生きてたら__・__#の話だけどな」
「どういう、意味ですか?」
すかさずエクシーズが尋ねた。
「…まだ分からねーのか?グレイウルフは群れで行動する魔物だ。ここに出たってことは、他の部隊も襲われているとみるのが妥当だろ?E班の生き残りは俺と、お前達3人だけ…でら果たして他の部隊は#何人生き残っているか__・__#…想像できるだろう?」
と、バンクはうすら笑みをこぼして答える。やけに確信めいた言い方である。
「大丈夫でしょ?だって他の部隊にもそこそこ強そうな人がいたわけだし、それに桜花騎士団だって…」
そう言ったのルンルンに対し、バンクは森奥を指差して、
「そうかい?俺たちの部隊にいた桜花騎士団の団員様達は我先に逃げ出していたぞ。ほら、あそこで死んでるだろうが?」
喉元を食い千切られた桜花騎士団の団長の死体が無残にも転がる。一切の抵抗も許されなかったようで、腰の鞘に収まったままの剣を握りしめ、苦悶の表情を浮かべては絶命していた。
「お前らも精々、ああはならないように気をつけることだな?」
俺たちは無言で頷いた。
バンクを先頭に、最後尾をエクシーズ、挟まれる形で俺とルンルンは歩く。しばらくして、バンクの足が止まったーー洞窟の前である。
「確かC班はこの中に入っていった筈だか…やけに静かだな」
バンクは険しい顔を作って呟いた。
「中へと入りますか?」
俺が尋ねると、バンクは短く一回首を縦に振って、「ただ…」とは続けて、
「中に入るのは俺と…そうだな、エクシーズ、お前だ」
「ええ!?僕…ですか!?」
「何だよ、嫌なのか?」
「いや、そういうわけではありませんが…それでは、#彼女__・__#はどうするおつもりですか?」
と、エクシーズは心配そうな顔色を浮かべて俺へと視線を向けた。
「何でシノミヤだけ見るのよ!?私は!?ねぇ私の心配は!?」
「貴女は勇者だから大丈夫でしょう、何て言ったって勇者ですし?」
「こ、この薄情者!!」
落ち着けルンルン。
「こいつらは洞窟の前で待機していてもらう。そっちの方が中に入るよりは安全だと思うぞ…」
「と、言うと?」
俺は首を傾げて訊いた。
「中から魔物達の嫌な匂いがプンプンと臭ってきやがる。それと…これは血の匂いだ。中で何かがあったとみて間違いないだろう。もしかしたら魔物達が潜んでいるやもしれん…外で待ってた方がまだ安全だと思うが、違うか?」
うん、違いない。
「そうですか…それでも心配ですね…」
エクシーズはチラリとルンルンを見て、深いため息を吐いた。
「な、何よ!?何か言いたい事があるならハッキリとおっしゃい!」
「いえ、貴女にシノミヤを任せるという事を果たして許してよいのかと…そう思いまして…」
「っさい!大丈夫よ!ね、シノミヤ?私達だけで大丈夫よね?昨日も剣買って準備したし、平気よね?」
「え、剣って…もしかして、これのこと言ってる?」
俺は昨日騙されて買わされた、鞘だけやたら豪勢なつくりの錆びた小剣を指差して言った。とりあえず腰に挿して形だけものをである。
「そうよ!錆びた剣って言っても、抜かなきゃそうは見えないでしょ?魔物のビビって逃げるに違いないわ!」
「る、ルンルン昨日と言ってること違うじゃん!」
「いいの!昨日は昨日、今日は今日、今日の私の目にはその剣からめちゃめちゃ凄いオーラを感じるの!」
適当言うな!
「ということらしいからエクシーズ、私たちの心配は大丈夫よ。安心して死んでらっしゃい!」
と、やけに晴れた顔でルンルンはエクシーズの肩を叩いて笑った。
「ルンルン、『死んでらっしゃい』とは?」
エクシーズは眉山を寄せて訊いた。
「あ…頑張って奮闘してきなさいの間違いだったわ。ごめんなさいね?おほほほほほ!」
「あ、貴女って人は…死んだら恨みますよ!?」
「どうぞ御勝手に、もし来世で会ったらよろしくね」
ルンルンはニッコリと笑った。いや待てルンルン、死んだ前提になってるぞ。
「はぁ…茶番はそれぐらいにしとけ。俺はもう行くぞ?」
バンクは呆れた声で言って、1人ズカズカと洞窟の中へと入っていった。その後を追ってエクシーズはかけていって、ふと、くるりと俺の方へと振り返って、
「シノミヤ、お気をつけて!」
「うん!エクシーズも!」
「はい……愛してますよシノミヤ!」
そう言い残して、エクシーズも洞窟の中へと姿を消した。
「あの馬鹿、どさくさに紛れて何言っちゃってんのよ…」
「ま、まぁいいじゃん?」




