叛逆の竜皇女
明日の魔物の一斉討伐に備え、俺たちは宿に戻った早々にも明日の身支度を整えた。それが終わって軽く飯を済ませ風呂へと浸かり、いざ寝ようとベッドに潜り込もうとした、そんな時である。
「ところでシノミヤ、あなた紋章はどうしたの?」
同じくベッドに潜り込んだルンルンが訊いてきた。
「紋章?」
「ほら、最初に貰ったやつよ」
「…ああ、あれか」
そういえばそうだ、確かに異世界転生者登録の際に赤い紋章をもらったんだっけな。
「あれ?俺胸元につけてなかったっけ?」
「いや、ついてなかったわよ?」
「……じゃあ、荷物のどっかに紛れ込んでるのかもなぁ」
「それならいいけど、早めに見つけときなさいよ?あれは異世界転生者としての、言わば身分証みたいなもんなんだから。落としたりしたら大変なのよ?」
「ん、どう大変なんだ?」
「言ったでしょ、あれは私たち異世界転生者の身分証みたいなもんだって。つまり異世界転生者と名乗ることができない。身分を証明できない異世界転生者にはそれ相応の罰が用意されているみたい」
何だよそれ、聞いてないぞ。
「罰って?」
「罰は罰よ、厳罰」
「例えば?」
「厳罰は個人個人違うようだけど、私が知っているのは罰金刑とか禁固の系とか、そんなところかしら?」
「罰金刑!?」
やばい事を聞いてしまった。ただでさえ本日露店にて使いものにならない錆びた剣という無駄な買い物をしてしまったばかりである。
これ以上の出費なんて考えたくもない。落としてたらマジ最悪だ…
「明日にでも探してもおくよ。赤い紋章だからすぐ見つかると思うけど…」
と、ボソリと言った俺にすかさずルンルンは、
「赤い紋章?なにふざけたこと言ってんのよ。冒険者の紋章は緑色をした[大樹の紋章]でしょうが」
「え、そうなの?」
「そうよ。え…違うのもらったの?」
「うん。真っ赤のやつ…」
確か、異世界案内人Aはこう言ってたっけなーー
「紅竜紋章…だっけか?」
「紅竜紋章?もう、シノミヤ冗談言わないでよ。それってかつて世界を滅ぼしかけた大罪人に与えられたとされる不名誉の称号でしょ?」
「え…」
嘘だろ?
「ほんとよ。しかも紅竜紋章を与えられた異世界転生者は後にも先にも一人だけと言われているわ…確か、こう呼ばれているのだっけねーーー#叛逆の竜皇女__・__#と。何でも魔物を従えることができる特異体質だったらしいわよ」
「叛逆の竜皇女、どっかで聞いたよな…」
「まぁとにかく、すぐにみつけなさいよね。あと、無くしたら直ぐに報告すること…いいね?」
ルンルンはそう言って、「消すよ?」とは一言吐いて、部屋の灯りを消した。
「あるといいね」
「うん」
もしかしたらあの紋章は俺の見間違いだったのかもしれない。俺はそう思うことにして、とりあえず寝た。
朝、荷物の中を隈なく漁ってはみたがやっぱり紋章はなかった。そんな気はしていたんだが、いざないとなると軽く凹む。
仮に落としたとして考えられるのはゴブリン達と遭遇したあの森だ。あの時は散々引き摺り回されたしな…
「シノミヤ、見つかった?」
「当然」
俺は流れるようには嘘を吐いた。何だか本当の事を言ってはいけないような気がしたからである。近々隙を見て探しにいく必要があるだろう。面倒なことになったな全く…
仮に紅竜紋章にせよ大樹の紋章だったにせよ、無いことには議論の余地もない。今すぐにでも探しに行きたいが、
「ルンルン、今日の魔物討伐ってどれくらいで終わると思う?」
「さぁ、状況によるんじゃない」
早く終わる事を願うばかりである。
それから少しして俺たちは宿を出た。
肌寒い朝風を感じつつ、足早には郊外にはある目的地へと急いでいた。すると、
「やぁシノミヤ!こんなとこで会うとは奇遇ですね」
何処からともなくサッと目の前に現れた彼ーーーエクシーズは言った。
「ああ、どうも。でもどうしてここに?」
俺は軽い会釈を交えて尋ねた。
「いやね、とある依頼を受けてです…そういうシノミヤは?」
「似たようなもんです。あれ、もしかして…それって魔物の一斉討伐の件だったりする?」
「そうなんです!もしかしてシノミヤも?」
俺はコクリと頷いた。
「そうですか!いやぁ奇遇ですねぇ!」
そう言ってエクシーズが笑った、次の瞬間、
「白々しいわよこのキザ野郎!シノミヤのことを嗅ぎつけて来たのはバレバレよ!」
ルンルンは眉を釣り上げエクシーズへと詰め寄った。ああ、また始まってしまった…
「おやおやルンルンさん、居たのですか?すみません気づかなくて」
「ふん、性懲りも無くまたやってきて…諦めが悪いにも程があるわよ!」
「何を言ってるんですか?奇遇ですよ、奇遇。ま、奇遇もここまでくれば運命と言えなくなくはないと思いますがね?」
と、エクシーズはそんなキザなセリフを口にした直ぐにも俺へと熱い視線を送ってきていた。相変わらずウザさには恐れ入るよ。
集合場所へ着くと、そこにはたくさんの異世界転生者達が集まっていた。中には見知った顔もいれば、そうじゃないものも沢山にいる。総勢にして100人ぐらいはいるのではなかろうか?
「来たわね、二人共」
そう言って近づいてきたのはサクラビス。背後には部下と思しき騎士風の女性達がズラズラと続いていた。大方、桜華騎士団のメンバーなのだろうか、皆一様には精悍な顔つきで力強い眼光を放っているように見える。
その光景は圧倒されて、俺は少しだけ萎縮してしまっていた。
また隣に視線を移して、ルンルンも俺同様には身を縮こませていた。しかも俺以上に緊張しているようで、ルンルンは俺の手をギュッ握っては目線だけで合図を送ってきた。対応は俺に任せると、つまりそう言いたいのだろう。
しょうがないなーーー俺は深呼吸を挟んで、ゆっくりと口を開いた。
「おはようございますサクラビスさん。それにしてもすごい人数ですね」
「ええ、そうなの。予想以上に集まって私もビックリしているわ」
「そうですか…でも、こんなにも必要なものなんですか?」
正直、過剰すぎる人数だとは思った。
「まだ分からないわ。それも魔物の数次第ってとこね…」
サクラビスは頭に手を当てて言った。
「どうやら魔物達もかなり集結しているようなの…少なくとも200体程の魔物がいるとは予測されている」
「200!?」
おいおい、まじかよ…
「魔物の出現場所はこの周辺一帯の森林帯にあるものと踏んでいるわ。目撃情報もこの付近に集中しているしね。確か、シノミヤちゃんがゴブリン達に襲われたのも森林帯だったわよね?」
「ええ、まぁ」
「…つまりよ、魔物達の出現場所はこの森林帯の何処かにあって、何故かそこから続々とこの地に流れているわけ。理由は分かれば色々と対処のしようもあったのだけれど、今更それを言っても仕方がないわ。魔物が溢れてきている以上、私達はそれを防ぐだけよ…お願い、力を貸して」
「もちろんです。ね、ルンルン?」
「そ、そうね!」
「ふふふ、頼もしいわ。じゃあ、行きましょうか」
そうして、異世界転生者達による魔物一斉討伐クエストは開始された。この時の俺まだ、これから起きる#異常事態__・__#について、知る由もなかったのだった…




