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魔物の大量発生


 その後、俺とルンルンはサクラビスに連れられルカンパニーを出てすぐの喫茶店へと入った。こじんまりとした喫茶店で、俺たち以外に客はいなかった。


 見たところ、カウンターに立っている初老の男性店主が一人で切り盛りをしているようで、


「ここなら大丈夫そうね」


 サクラビスはそう言って、店主を呼んだ。


「貸し切りたいんだけど」


「…そういうのはちょっと」


 人の良さそうな初老男性店主は、申し訳なさそうに頭を下げた。そりゃあそうだ、俺が店主でもいきなら来た客にそんな無茶言われたら困るだろうよ。


「…これでどう?」


 サクラビスは懐から取り出した#それ__・__#を店主に渡した。


「こ、これは…」


「ブラックカードよ。それで今この時間、この店を買い取ることにするわ。何か異論はお有り?」


「い、いえ!どうぞご自由にお使い下さい!!」


 突然、店主は人が変わったようにニコニコと手をすり合わせ裏へと下がっていった。さすがは世界でも有数の富豪しか持てないとされるブラックカードである。一度は俺もあのブラックカードで買われようとされていただけに、複雑な気分でその光景を眺めていた。すると、


「では、改めてまして…私は桜花騎士団団長サクラビス、よろしくルンルンちゃん、そしてシノミヤちゃん」


 サクラビスは軽い会釈を交えては笑った。品のいいお姉さんといった、そんな印象を受ける。


「ところで、どうして私達の事を知っているの?」


 そう切り出したのはルンルンだ。丁度俺も同じ事を言おうと思っていた最中のことだった。


「どうしてって、貴女達、異世界転生者#界隈__かいわい__#じゃ結構有名よ?」


「え、そうなの?知ってた?」


 ルンルンが俺を流しみて訊いた。もちろん首を横に振って否定した。

 

「そうよ。美少女二人組の謎のクランが誕生したって他の異世界転生ギルドは噂されているわ」


 初耳である。

 うん、何かの間違いだと思いたい。


「ですってよ、良かったわねシノミヤ!?」


「え~…なにが良いわけ?」


「なにって…決まってるじゃない!知名度が上がるって事はそれ程に注目されているってことで、異世界転生者には名誉のあることなのよ!?ですよねサクラビスさん!?」


「そうよ…ふふ、ルンルンちゃんはどうやら#志__こころざし__#が高そうね?」


「そりゃあそうですよ!せっかく異世界転生したんだもの、勝ち残らなきゃ私は私を許せない….でしょシノミヤ!?」


 そう言って、ルンルンは目を輝かせ俺にガッツポーズを見せつけた。待て待て、勝手に俺を巻き込むな。俺は別にそんなつもりはないぞ?


「俺は細々と楽に暮らせればそれでいいかな…」


「成る程、妙案ね!有名人になった暁には田舎にバカでかい別荘でも建ててしばらく二人でのんびり二人暮らしましょ!」


「ふ、二人で!?」


「なに、嫌なの!?」


「そうは言ってないけど…」


 その頃には既に男に戻っている(予定)だろうからな…多分、無理だろうよ。いつまでこうして一緒にいられるかだなんてのも分からないわけだしなぁ…


「保留、じゃ駄目?」


「駄目!」


「何でよ!?」


「だって…シノミヤとずっと一緒がいいの!」


 強情だなぁ、おい。


「ふふ、仲がいいのね?」


 サクラビスは穏やかな表情では俺たちの茶番を眺めて言った。恥ずかしい気持ちで一杯だ。


「時にシノミヤちゃん。貴女は何でも転生して早々にも競売にかけられたりゴブリンに攫われたりと色々言われているけど…あれは本当なの?」


「ええ、まぁ…」

 

「ふふ、やっぱり本当だったんだ」


 サクラビスは楽しそうに笑った。それは別に馬鹿にしているとかそういった感じではなく、純粋に可笑しかったからなのだろうが…


「そこまで笑われるとちょっとへこみます…」


「あ、ごめんなさい…つい」


「いえ、悪目立ちしている俺が悪いので、いいんです。気にしないで下さい」

 

 項垂れてそう言った俺にルンルンは、


「まぁまぁ、シノミヤ元気出しなさいよ?いいじゃない、目立ってるって事は別に悪い事じゃない、むしろとても光栄なことなんだから!」


 と、まるで人ごとのようにはそんなフォローである。いやいや、それちっとも慰めになってないからな?


「それはそうと俺たちに何か用でも?」


 俺は話題を逸らしてはサクラビスに尋ねた。


「ああ、そうだったわ!実はねシノミヤちゃん、貴女に聞きたいことがあったのよ」


「俺に?」


「そう。ゴブリン達に攫われた時の状況について詳しく聞きたいのだけれど…大丈夫かしら?」


「別に構いませんけど…大したことじゃありませんよ?ゴブリン討伐の依頼を受けてゴブリン達に攫われたというだけで…」


「ええ知ってるわ。ただ私が聞きたいのは、ゴブリン達の様子についてなの」


「へ?」


 変な声を出していた。


「シノミヤちゃん、ゴブリン達がどこから来たとか、この地にやってきた目的とか…何か聞かなかった?何でもいいの」


「えーと、あははは…どうだったけな?」


 俺ははぐらかす様には言った。また全身からじっとりとした冷汗が噴き出してきていた。


「特に何も言ってませんでしたよ?俺もそれどころじゃなかったですし、ただゴブリン達をやっつけれるのに必死だったんです」


「そ、そうよね…変な事聞いてごめんなさい」


「いえ…でも、一体どうしてそんなこと聞くんですか?」


「…そのことなんだけどね、もしかしたら二人とも聞いているかもしれないけれど、ここ最近この付近一帯に異常な数の魔物が確認されているのよ。私がこの地に来たのもそれが理由でね、何か手掛かりがないものかと探し回ってる最中なんだけど…」


 そう言って、サクラビスは重たいため息を吐いた。本当に参ったといった様子である。

 

 確かにここ最近魔物が何処からともなくこの地に集結してきているという話はちらほら耳にしていた。またあまり魔物の出現率が低いこの地方では考えられない出来事とも言われていたような…


 そんな時だ。ふと、脳裏にゴブリン達とのやり取りがよぎった。


『ダレカニヨバレタ』


 俺が尋ねた時、間違いなくゴブリン達はそう言っていた。あれは一体どういう意味だったのだろうか?


 もしかしたらかなり有力な情報だったりして…ただもちろん、その事について話すつもりはサラサラない。


 それに、ゴブリン達を裏切るなんて俺にはできないよ。


「お力になれなくて残念です」


「いいのいいの気にしないで!」


 サクラビスは笑って応えた。

 

 それからしばらくは談笑を交え…といっても、専らルンルンがサクラビスの武勇伝を聞き出しているだけであった。#昔__むかし__#、魔物の軍勢300体を一人で殲滅したとか、一国の滅ぼした名のあるドラゴンに挑みその首を斬り落としたとか…それはそれはお伽話を聞いているかの様な気分である。そんな折、ちょっと話変わるけど、とサクラビスは話を切り出した。


「明日、桜花騎士団を含む複数のクランで魔物の一斉討伐を行う予定なんだけど、良かったら二人も参加しない?」


「え、いいんですか!?」


 ルンルンは身を乗り出してはサクラビスへと詰め寄った。もう既にやる気満々である。


「ええ、丁度人手が足りないなって思ってたところなの。ルンルンちゃんは勇者としての適正を受けているようだから安心して任せれられるし、シノミヤちゃんも一人でゴブリン数体を倒すだけの実力があるみたいだからね。申し分はないわ」


「有難うございます!良かったねシノミヤ!?」


「う、うん」


 嫌な予感がするのは俺の気のせいだろうか?

 


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