女体転生!
生前の記憶はあまり覚えていない。強いて覚えているとすれば、俺は男子校に通う高校生で、苗字は#四ノ宮__シノミヤ__#…だったと思う。要はどこにでもいるごく普通の男子高校生で、不幸にもトラックに轢かれて死んでしまったということらしい。
「で、いいんだよな?」
「はい、その通りです」
目の前の女性はニッコリと笑うと、「ご愁傷様」ですとは呟いた。他人行儀な感じを受けたのは、何も俺の気のせいではないだろう。
どうやらトラックに轢かれ死んだ俺は異世界転生を果たし、再び生きるチャンスを得た…のだと目の前の女性、自称[女神]は話す。
今いる場所は現実で死んだ奴が一旦やってくる空間らしく、一面真っ黒な異空間だ。見渡す限りの闇の中に、俺と女神はいる。
「で、これから俺はどうすればいいんだ?」
「異世界転生の前に、選定の儀を受けて頂きます」
選定の儀、聞いたことのない単語に頭を悩ませた。そんな俺の様子に気づいてか、女神は口を開いて、
「つまり、あなたがこれから行くであろう異世界に於いて、あなたがどういったポジションにつくかを決めるわけです」
「ポジション…職業的な感じか?」
「ざっくり言えばそうですね。勇者なのか、冒険者なのか、魔物なのかとか、あなたの生前の行いに見合った身分を私が選定致します」
恐ろしいことを聞いた。俺の生前の行い次第では、どうやら魔物になってしまう可能性もあるということらしい。
「因みに聞くが、魔物になる条件とは?」
「それをお伝えすることはできません」
「だよな」
最早神に祈るしかない。
「…ん?てかあんたが神様か」
「そうですが、何か?」
「いや何も、選定の儀というのを続けてくれ」
「終わりました」
「え、もう?」
少し早過ぎはしないだろうか?
「そうですね、どうやら選定する程の価値があなたの人生にはなかったようです」
「辛辣な言い方だな…」
「事実ですよ?」
女神はそう言って満面の笑みを浮かべると、「では、発表します!」と声高らかに叫んだ。
「何だか緊張するな…公立受験の合格発表以来だよこんな気持ち」
「まぁでも不合格で滑り止めの男子校に行かざるを得なかったみたいじゃないですか?」
「…五月蝿い、結果はよ」
「失礼しました、では発表します。あなたはなんと…おめでとう御座います!冒険者に認定されました!」
女神はパチパチと手を叩いて言った。
「冒険者か…これは素直に喜んでいいのか?」
「当然です。冒険者という普遍的な立場こそ堅実な生き方ですよ?」
「要するに、冒険者とはありふれた職業ということで、異世界転生者の大体のやつはここに落ち着くわけか?」
「正解です。異世界転生者の大体は驚異の98パーセント率で冒険者へとなります」
転生者のほぼほぼってわけか。
「ではシノミヤさん、ここでお別れです。良き異世界ライフを」
「ああ、ありがとうな」
「段々眠くなってきたと思いますが、そのまま寝てもらって結構です。目を覚ました時、あなたは異世界転生者達が集うギルドにいることでしょう」
急激な睡魔はその為か。
「…何かあったら心の中で私の名を呼んで下さい。私の名はメルヘム。女神メルヘムです」
そうして俺は意識を失った…
目を覚ましたのは、やはり見知らぬ場所だった。
「お目覚めかな?」
不意に声が聞こえた。声の聞こえた方へ目を向けると、そこにはいかにも神官してそうな老人が立っていた。
「あ、ども…ここは?」
「始まりのギルド、[ルカンパニー]で御座います。私は異世界案内人Aで御座います。以後お見知り置きを」
そう言って、異世界案内人Aは薄い笑みを浮かべた。人の良さそう印象を受ける。また異世界案内人Aは続けて、
「異世界転生してきたばかりで混乱していらっしゃるでしょうが、一先ずこれを着て下さい」
と、紺色の服一式を差し出した。ご丁寧に下着なんかまで用意されてやがる。しかもピンクの花柄パンツ、悪趣味にも程がないか?
どうして服なんかを手渡されるのか考えて、その答えは直ぐにも見つかった。
「ヤケに肌がスースーすると思ったら、俺裸じゃん」
「はい、異世界転生者は皆最初は裸なのです。異世界転生とは産まれた赤ちゃんみたいなもんですからね」
異世界案内人Aは得意げには言った。上手いことでも言ってやったつもりなのだろう。
「まぁいいや…問題はそこじゃない。まずはこの服、どうして下がスカートなんだ?」
「え、ダメですか?」
「駄目だ」
俺は即答した。
「どうして?」
「むしろどうして俺にスカートなんか着せようとしているのか、そのイカれた感覚を知りたいね。しかもなんだよこのパンツ、色や柄はともかくとしてサイズが小さすぎる。お前なぁ、俺の#ブツ__・__#はそんな小さくないぞ?どちらかと言えば中の上サイズ、はみ出ちまうじゃねーか。あとこれ、お前はどういう心境で俺にブラジャーなんか渡した?お前なに、総じて俺に女装でもされたいわけ?」
「は、はぁ…」
異世界案内人Aは困り果てた顔を浮かべた。いや待て、困り果てているのは俺の方なんだが?
「とにかく、違う服を用意してくれ。なんかあんだろ」
「いやぁ…それがないんだなこれが~」
「おいおい、じゃあ何か、お前は俺に女装していけとでもいうのか?」
「…あの、すみません。先程から女装と女装と、あなたは何をおっしゃられているのですか?」
異世界案内人Aは首を傾げて訊いた。
「はぁ?開き直るつもりか?」
「いえいえトンデモございません。ですが本当に理解できないのです。#女性__・__#である貴女に見合った服装を選んだ私に、何か不備があったのでしょうか?」
「へぇ?」
俺は意表を突かれた声を上げていた。そして自然と手を胸へと当てていた。取り敢えず揉んでみて、なかなか豊満な胸だと思った。
「うん、胸だな」
「ですね」
異世界案内人Aは頷いて言った。
「因みにこれ何カップぐらい?」
「そうですね、正確な記録はとれませんが…大体Fカップぐらいじゃないですかね?」
と、異世界案内人Aは俺の胸を凝視していた。
「あんま見んなよ」
「あ、すみません」
どうやら俺は女体化してしまったらしい。