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神社と僕と君の夜

即興小説トレーニングのお題より。

テーマ:「君の夜」

必須要素:スニーカー

 この日の夜は、とても満月がきれいだった。まるで街灯の明かりをかき消すかのように、外が明るい。

 退屈だった毎日、だけれども、この時間だけは楽しみだ。家からこっそりと抜け出し、僕は夜の住宅街を歩きまわる。

 夜は不審者が多い、特に子供は犯罪に巻き込まれる、だから歩きまわるな。大人はよくこう言う。

 いつもそうだ。大人は僕たちを子ども扱い。もう中学生なんだから、少しくらい大人の扱いをしてもいいじゃないか。いつもそう思っていた。

 だから、そんな大人たちが気に入らなかった。大人たちに逆らいたかった。だから、いつもこうして夜抜け出ている。


 こっそり抜け出したからといって、やることはあまり無い。ただ、大人に見つかると面倒なので、出来るだけ大人に見つからないような場所へ向かった。例えば、裏山にある神社なんかであれば、夜はめったに人が来ない。

 神社、といっても立派なものではない。年に数回、地区の人が掃除や草刈りをするくらいで、あまりちゃんと管理されていない、無人の神社だ。だから、昼間も子供たちの遊び場になっている。

 住宅街から少し離れ、山の方に向かい、長い石段を上ると、そこに神社が見える。出来てからもう長い時間が経っているから、あちらこちらがボロボロだ。


 さて、神社に来たのはいいが、別にやることは決まっていない。ある時は石をどこまで積めるか試したり、またある時は水鉄砲で遊んだりした。

 今日は月がきれいな夜だ。だから、お菓子をたくさん持ってきた。せっかく神社に来たので、お供え物をする意味もある。そういえば、神様って、お菓子なんか食べるのだろうか。

 月を見ながら、持ってきたポテトチップスを食べる。なんとなく、家で食べるのとは味が違う気がする。

 時々、冷たい風が吹き、体が震える。四月に入ったとはいえ、まだまだ寒い日が続く。特にこの辺は、気温が下がりやすい。念のために多めに着込んでいて良かった。


 ジュースを片手にお菓子を一袋平らげると、何か遊び道具はないかと探した。時々、ここに来る子供たちがおもちゃを落としていることがあるので、それで遊ぼうと思ったのだ。

 しかし、見つかったのはおもちゃではなかった。

「……スニーカー?」

 ひどく泥で汚れた、白いスニーカー。サイズからすると、僕と同じか、少し下の子の物だろう。しかし一足しかないのは何故だろう? 僕は、もう少し辺りを探すことにした。

 ちょうど月明かりで、神社の周囲は明るい。しかし、建物の下はさすがに暗く、きちんと見ることはできなかった。

「うぅん……これじゃあわかんないなぁ。明日また探そうかな」

 諦めて立ち上がろうとすると、後ろに誰かの気配がした。

「……私の……」

「うわっ!」

 急に女の子の声がして、思わず叫んでしまった。振り向くと、そこには真っ白なワンピースを着た、長く黒い髪の女の子が立っていた。多分、僕より少し下くらいの子だろう。

「それ、私の」

 そう言うと、女の子は僕の手にあるスニーカーを指さす。

「君の?」

「うん」

 足元を見ると、確かに片方しか靴を履いていない。持っているスニーカーと見比べると、女の子の言う通りのようだ。

「そ、そうだったんだ。はい」

 僕は、女の子にスニーカーを手渡す。すると、女の子はそれを手に取り、階段に向かおうとした。

 それにしても……僕が言えたことではないが、何故女の子はこんな時間にこんなところにいるのだろう? そう思った僕は、思い切って声を掛けた。

「……いつもここに来てるの?」

 すると、階段に向かっていた女の子は、足を止めた。

「……うん、私のくつ、いつも探してた」

「そうなんだ……あ、手を洗っておいでよ。お菓子あるから、食べない?」

 しかし、女の子は首を振る。

「くつ、見つかったから。今日でここに来るの、終わり」

「そう、なんだ。よかったね、見つかって」

「……うが、よかったかな」

「え?」

 途中から聞き取れず、思わず聞き返す。

「見つからない方が、良かったかな」

「どうして?」

「だってね」

 女の子が振り返ると、持っていたスニーカーを地面に置き、履いてない方の足を入れた。

「これはいたら、もう、ここにこれなくなるから」

「……どういうこと?」

 わけが分からなかった。突然現れたことにも驚いたが、靴が見つかると来れなくなるなんて。

「……こんどは、くつじゃなくて、私をみつけてね」

 そう言うと、女の子はトントン、と靴を履いた。そして、ゆっくりと階段に向かった。

「ちょ、ちょっと待ってよ、ねえ!」

 階段を降りていく女の子を、慌てて追いかける。しかし、階段の下を見ると、いつの間にか女の子はいなくなっていた。

「……あの子は一体……」

 また冷たい風が吹く。今度はその寒さではなく、今起こったことに体が震えた。

「……今日は帰ろう」

 僕は持ってきたお菓子を少しお供えし、家に戻った。


 次の日、学校から帰った僕は、急いで神社に向かった。まだ早い時間なのか、神社には誰もいない。

「私を見つけて……って、一体どういう意味だったんだろう?」

 とりあえず、何かヒントになるような物は無いかと、神社の周りを見て回る。

「……あれ?」

 すると、神社の裏に、何か白いものがあるのを見つけた。近づいてみると、なんと昨日の夜拾ったスニーカーだった。

「どうしてこれが、こんなところに……?」

 ふと辺りを見渡すと、青いビニールシートが掛けられた膨らみがあった。恐る恐る、ビニールシートをめくる。

「……! う、うわぁぁ!」


 そこには、白骨化した、子供の死体があった。


 話を聞くと、十年ほど前、神社で遊んでいた子が行方不明になったことがあったそうだ。結局その子は見つからず、死亡したものとして扱われた。

 その子はよくいじめを受けており、スニーカーは片方を盗まれたこともあった。それで、どこかに行ってしまったのだろう、というのが当時の見解だ。

 しかし、神社周辺も探したはずである。あれだけ目立つビニールシートなら、誰の目にも止まらないはずがない。元々誰かが埋めてあって、徐々に出てきたのだろうか。いろいろ考えたが、結論は出なかった。


 数日後、再び神社の裏にやってきた。白骨死体は、やはり行方不明の子の物だったようだ。神社には、お供えの他に花やその子が好きだったのであろうお菓子がたくさん置かれていた。神社の裏も、同じように花やお供えが置かれている。

 ずっと寂しかっただろうね。そう思いながらビニールシートのあったところを見ると、ふと、白い服が見えたような気がした。そして、小さな声が聞こえた。ような気がした。



「私をみつけてくれて、ありがとう」

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