第9話 ━ハンター ━
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交易都市『フォワード』
トライディーナ王国の、首都に次ぐ大都市。大型船が複数停泊できる港と整備された交通網により発展を遂げた。王国内の物品は勿論、他国への輸出入品も集まるため王国内で最も商業が栄えている。
付近には『ラグナ洞窟』や『ビューツル平原』等、難度の低いフィールドがあり、訓練に訪れる新人ハンターも多い。
その大都市の住人達の興味は、大通りを歩く二人の人物に集中していた。
「……目立ってるっぽいな。服か? それとも髪の方か?」
街に入ってからずっと視線を感じる。最初は服がボロボロなのが原因かとも思ったが、周りにいる人達は皆、赤やら金やらカラフルな髪をしていて、自分のような黒髪は一人としていなかった。何にせよ地球では考えられない程の注目を集めてしまっているのは間違いなく、居心地の悪い思いをしていた。ファシュナは視線から隠れるように服の裾を掴んでいる。
「これはさっさとどっかに入るべきだな……ハンター登録みたいなのって何処でやってんだ?」
クイックイッ
「地球なら観光案内とかあるんだが……」
クイックイックイッ
「これだけデカイ街だし、探せばあるとは思うんだよな……」
「アキトモさん……あの………気付いて、下さい」
「ん、あ、すまん。気付かなかった」
声を掛け、気付いてもらうまでずっと服を引っ張っていたらしい。
ファシュナの指差す方を見ると、小さな看板があった。木の板に何かの塗料で文字を書いただけの簡単な物だ。
「ん、なになに?」
『ハンター登録受け付け中!ギルドはこの先真っ直ぐ、トレーダーズギルドの右隣です』
「こんなところに看板が……よく見つけたな」
こんな小さなことでも、ファシュナは褒められて嬉しそうに頬を緩ませていた。
◇◇◇
ギイィー
「立て付け悪っ!」
思いの他開けるのに力を使う扉を開き、ハンターズギルドの中に入る。中は、酒臭さとガヤガヤとした喧騒で独特の雰囲気が立ち込めていた。ファンタジーのテンプレ的に酒場も兼営しているようだ。
「すみません、ハンター登録はここでいいんでしょうか?」
ギルドの職員と思わしきメガネの女性に話し掛けた。こういうちょっとしたところも、一々マンガっぽい。
「えっ!? あっはい。こちらです」
驚かれるようなことしたか?
「えーっと……俺、何かしましたか?」
「す、すみません。……その髪」
「あ、やっぱり黒髪って珍しいですか?」
「い、いえ。なんでもないです」
……? よく分からないがまあいいか。でも今後なるべく髪は隠すべきか。後で帽子でも買おう。
「改めまして。本日はハンター登録ですね?」
「はい。俺とコイツの二人をお願いします」
「お、お願い、します」
「それではこちらに名前を書いてください」
渡された羊皮紙にカウンター備え付けのペンで名前を書く。
「あ、すみません。この文字……」
おっと、つい日本語で書いてしまった。というか、俺はこの世界の字、読めるけど書けないんだよな。『言語理解』は微妙な部分で不便だ。仕方ない。
「ファシュナ、俺の分も頼めるか?」
「ハイッ、任せて、下さい」
この子、俺が振らないとアクションないんだよな。とは言え、何かするたびに頼むのもあれだし……
悩んでいる間に書類手続きは終わっていた。
「はい。それでは少々お待ち下さい」
「あっ、そうだ。すみません、これなんですけど」
奥に行こうとする職員さんを引き止めて、ラグナ洞窟のハンター(の死体)から(勝手に)貰った手帳を渡した。
「これ、ラグナ洞窟の中で拾ったんですけど」
「……? 手帳ですか?……え、これ………まさか……すみません!これの持ち主は!?」
「残念ですが、発見したときには既に四人とも……全滅していました」
俺がそう告げると、職員さんは泣き出してしまった。声を上げないのはギルド職員としてのプライドといったところか。まあそんな安い言葉じゃないだろうけど。それよりも……
「あの、大丈夫ですか?」
「ヒグッ、ウッ……すみません。今…代わりを、エグッ、呼んできます……」
それだけを言い残して職員さんは奥の方に引っ込んでいった。名前を書いた羊皮紙も、ハンターの手帳も置き去りにして。
俺達は、困ったような顔を見合せることしか出来なかった。
「先程は私の同僚が失礼しました。この先は私がご案内させて頂きます」
「あの、さっきの方は? この手帳を見てもらってから様子が……」
「本人から聞きました。……その手帳の持ち主はおそらく、彼女の婚約者だった人です」
婚約者か……
フラグの概念を持っている俺だけが、内心頭を抱えている間にハンター登録は次に進んでいた。職員さん(二人目)有能。
アキトモさんにファシュナさんですね。書類は確かに受け取りました。では次に、これに血を付けてください」
職員さん(二人目)は小さな石片を差し出した。
「血…です、か?」
このタイミングで初めて、ファシュナが自分から質問をした。
「はい、これは『識別石』といって、ハンターカードに組み込んで身分証にするための物です」
おお、中々ファンタジックなのが出てきたな……この世界、魔法無いんじゃなかったか?地球での魔力子式セキュリティシステムと同じようなやり方じゃないか。
「ほんの少しで大丈夫です。こちらの針をお使いください」
渡された針を手の甲に軽く刺して、滲んだ血を識別石で拭った。すると、灰色だった識別石が赤くなった。隣を見るとファシュナの方も同じように変化していた。
「これで登録は完了です。カードを作成するのでしばらくお待ちください」
5分程待っていると、職員さん(二人目)が戻ってきた。
「お待たせしました。これがお二人のハンターカードになります」
ハンターカードは青っぽい大理石のような見た目だった。
「右下の識別石に触れるとカードが光ります。身分証明を求められたときはそうしてください」
そんなんでいいのかよ、とも思うがギルドに認められているだけで怪しい人物ではないと判断されるらしい。
「それとこちらが、新人ハンターのためのギルドからの支給品……」
カウンターに、鞘に収まった2本のナイフが置かれた。
「『ギルドナイフ』です」
武器も用意してくれるのか。あれ?支給品ってことは……
「これ、返却する必要とかありますか?」
「いえ、ご自由に使って頂いて結構です」
「ありがとうございます」
これで武器を買う手間が省けたな。
ハンター登録終了。後は予定を終わらすだけ。資金集めにハンター的なことも……
「それとですね……」
え、まだあるのか?