第7話 ━脱出━
遅くなりました。m(__)m
……助けになりたかった……
親族以外で唯一、私のことを救ってくれた、あの人の。
生まれてから、ハンターや、魔獣から、逃げて、隠れて、深い山や荒野を転々とする生活……
そしてある日、ハンターに見つかって…両親が……殺されて、自分だけになって。
また逃げて、また見つかって…何度となく繰り返して……ある森に逃げ込んだとき、遂に追い詰められて、もう終わりだと思って、諦めて…………助けられた。
見たこともない力で瞬く間に3人のハンターを倒してしまった。父の形見のローブを着ていて、私が獣人種だと分からなかったかも、と思い、不安だったけど正体を明かしてみた。そうしたらその人は驚いて気絶してしまった。初めての反応で、私もおろおろしてしまった。何か出来るわけでもなかったけれど、ほっとくことも出来なかったので、その人が目を覚ますまで待っていた。……そんなことをしたのも、初めてだった。
しばらくして、その人が目を覚まして………また驚かれた。やっぱり獣人種のことは嫌いなんだ、ローブを着てたから人類種と勘違いしただけだったんだ、そう思ったけど……何故か私は自分が獣人種だとバラすような質問をしてしまった。リスクを負うことにしかならないのに。だけど、返ってきた答は
「俺はこの世界の人間じゃないから」
今度は私が驚く番だった。嘘をつかれているのかと思ったけど、嘘にしてはあまりにもバレバレだったし、それに、助けてくれたときに、見たこともない力を使っていたので、私は信じることにした。
そして、助けられた代わりとして街まで案内を頼まれ、その人……アキトモさんにこの世界のことを色々と説明する内に、『神話』の話になって、途中で、父と母のことを思い出してしまい、私は泣いてしまいました。気付かれないようにしたつもりでしたが、隠しきれてはいなかったようだった。ただ…アキトモさんはそんな私を、慰めてくれて、更に街に着いてからも一緒に来て欲しいと誘ってくれた。
いきなりだったけど、とても嬉しかった。
流石に今日中に街まで行くのは無理だったので野宿することになった。アキトモさんと寝る、ということで、ちょっとどぎまぎすることもあったけど、洞窟に入るまでは何事もなくて安心できた。アキトモさんから貰った、異世界の食べ物も美味しくて夢中になってしまった。
次の日、私達は街に行くために洞窟に入った。中では、スケルトンやロウズといった魔獣が次々と襲ってきたけど、アキトモさんは簡単に蹴散らしてしまった。
ここまで、私は守ってもらうばかりで何の役にも立っていなかった。アキトモさんは気にしてないようだったけど、私は少しでも力になりたかった。そして、進んで行く内に大型の魔獣と遭遇した。最初は、アキトモさんに言われるまま、隠れていた。だけど……だけど、アキトモさんはその魔獣に苦戦していた。さっきもロウズの群れと戦った後、調子が悪そうだった。それを見た私は、考える間もなく走り出していた。何故そうしたかは分からない。
………だけど、魔獣と目が合って、情けないことに、足が止まってしまった。アキトモさんの「逃げろ!」という声が聞こえて、後ろを向いてそのまま……逃げた。力になりたいという思いより、怖いという思いの方が大きくなってしまい、どうしようもなかった……
だけど、いつの間にか、魔獣に追い付かれて、そして………………
━━洞窟内━━
「ファシュナーーー!」
空共の声が洞窟内に響いた。
「くそっ!」
空共は『ブースター』を使ってファシュナの近くまで全力で走った。大型ロウズは背を向けていたので、運良く攻撃されずにその脇をすり抜けることが出来た。しかし、足を止めたと同時に再び大型ロウズの牙が迫る。空共は間髪入れず、飛びそうな意識を押さえて魔法を使った。
「『ブラックアウト』!……うっ、『陽炎』!」
相手の視界を黒く染め上げて封じる『ブラックアウト』、空間を揺らめかせて身を隠す『陽炎』どちらも魔力粒子の消費が大きい魔法、だが今の空共にとってはどうでもいいことだった。
作り出した僅かな時間で、空共はファシュナを診た。真っ二つになった男達の姿が頭をよぎったが、それを振り払う。彼女は出血こそ酷く意識もなかったが、その傷は背を切り裂かれただけで済んでいた。その代わり、着ていたローブが激しく破れている。どうやら強靭な素材で作られたローブのおかげで致命傷は免れたようだった。
「とは言え、このままじゃ……頼む…保ってくれ。『ハイヒール』!」
光がファシュナの傷を包んで癒していく。しかし、八割がた傷を塞いだところで光は消えてしまう。低適性なのに全力で魔法を使ったため、光属性の魔力粒子が尽きてしまったのだ。更に悪いことに、隠れていた空間の揺らぎも消える。もう火属性魔法も使えない。
(残ったのは、水・土・風・闇の4属性。……アレを使えば逃げられるか?だがリスクが大きすぎる。ミスったら……)
その瞬間、空共は一度ファシュナを見る。
「……だからって、躊躇してる場合じゃないな!」
空共は残り少ない魔力を振り絞り、この窮地を脱する切り札を切った。
「『重力!』」
そのとたん、何かにのし掛かられるかのように大型ロウズが地面にめり込み始めた。
「こいつもオマケしてやるよ。『氷蝕』!」
今度は、大型ロウズの足下からだんだん氷が広がり、その体を呑み込んでいった。が、本来は対象を完全に氷漬けにするはずの氷蝕は、大型ロウズの四肢と体の下半分を凍らせて止まった。
「やれやれ、水と土、使い切っても威力はこれだけか……さっさと逃げねぇと」
空共は未だに意識がないファシュナを抱えた。俗にいう“お姫様抱っこ”というヤツだ。自然にそうなったのだから仕方ない。
空共は急に動く自由を奪われて混乱している大型ロウズを尻目に、ハンターの手帳にあった地図のページを広げ、出口(ハンター達からすれば入口)に向かい『ブースター』を最大出力で使って走り出した。彼が駆け抜けた後には土煙が舞っていて、その速さを示していた。
通路に出ると、コケ類の明かりでも問題ない視界に戻った。また、途中で魔獣に遭遇することも予想していたが、ハンター達が来るときに全滅させていたのか、アレだけいたロウズの一匹とも出会わずに進むことが出来た。
(まだか……早く……抜けないと……)
急激に失われていく体力と魔力粒子とそれにつれて朦朧となる意識。空共が焦りを感じるにはその2つで充分だった。
だが、希望の光は唐突に現れた。出口だ。空共は洞窟の中の勢いで外へと飛び出し、そのまま倒れ込んだ。…もちろんファシュナが下にならないように、背中から。
「……あ、あれ?ここは……うっ…」
その衝撃で彼女は意識を取り戻した。だが、傷は治りきっていなかったので、少し体を動かすのも辛いようだった。
「……起きたか……とりあえず……もう大丈夫、だ…………説明、欲しいだろうけど……明日にして、くれ……」
そう言って空共は眠りに落ちていった。ただし、結界を張るのだけはしっかりとやっていた。
(また、助けられちゃった……どうにか助けになりたいって思ったのに……)
そう考えながら、ファシュナもいつの間にか眠っていた。
━━地球━━
「やっぱり、ラグナ洞窟も大変な感じかな。『フォワード』の武具屋に渡したアレ、ちゃんと彼等の手に渡るといいんだけど。それに、彼に説明するのは転送した僕の役目だろうし。何にせよ僕が帰るためのマナが溜まらないと……あーもうこっちのマナは使いにくいっ!こっちの世界に馴染みずきだよー」
男の手には鏡が握られていた。空共とファシュナの行動をこれで見ていたようだ。男は一通り騒いで呟いた。
「……迷惑だとは思うけど、僕達にとっての切り札は君なんだ。頑張ってくれ。」