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第6話 ━窮地━

今話ですが、そこそこグロいシーンがございます。苦手だ、という方は注意してください。

「またコイツらか!」


 空共達は今、狼のような魔獣の群れに囲まれていた。洞窟に入ってからはそれほど時間が経っていないはずなのに、この魔獣の群れとは4~5回程度遭遇している。最初に戦ったスケルトンが、それ以降は1体でうろついているのを隠れてやり過ごしたっきりだったのを考えると、異常とも言える回数だ。

 しかも、脚が発達しているのか壁や天井まで使って縦横無尽に動き回る上、1体に注意を向けると他の個体が襲いかかるという優れた連携をしてくるために、正確な狙いを定められない。結果、周囲一帯に無差別な範囲攻撃をするしかない。消費量の多い大規模攻撃魔法の連続使用により、空共の魔力は普段の日常では考えられない程の速さで削られて、その反対に疲労がドンドン溜まっていった。


「消費が多いからなるべく控えたいんだが……」


 そう呟いてファシュナを背に庇うと、彼女に当たらないよう細心の注意を払い…


「しょうがない、一発だけ。『風刃ふうじん』!」


 空共が叫ぶと、無数の風の刃が魔獣の群れに向かって撃ち出される。それは、今にも飛び掛かろうとしたもの、様子を伺っていたもの、咄嗟に避けようとしたもの、その全てを平等に切り刻んだ。

 斬撃の嵐が止んだ後、八つ裂きというレベルを通り越して細かくなった魔獣の残骸が散乱していた。風が吹き散らしたせいであちこちに血の染みが出来ていた。


「うっ……」

「だ、大丈夫、です、か?」


 いきなり膝をついた空共に、ファシュナは心配そうな声を掛けた。


「……大丈夫、ちょっとふらついただけだ。」


 しかし、言葉とは裏腹に彼はあることを危惧していた。


(どうも普段より魔力の消費が多いな。この世界に来てから魔法の効率が悪くないか? それに、ファシュナの言ってたことも気になるしな……)


 そんなことを考えながら歩いていると、今までよりも広い空間に出た。それまで洞窟内を照らしていたコケ類の明かりも照らしきれていないようで、少々薄暗い風に感じる。


「キャッ!?」


 そんなとき、唐突にファシュナの悲鳴と金属音が聞こえた。


「どうしたっ!? 」

「ご、ごめん、なさい。何か、に、つまづいちゃって」


 どうやら魔獣などではなく、ただ転んだだけのようだった。


「気をつけろよ。それにしても、さすがにこれだけ暗いと少し危険だな」


 空共は警戒を解いて明かりを用意する。魔力粒子の消費を抑えるために、無用の長物となっている携帯のライトを付けた。それでファシュナの足下を照らしたところ、刃の折れた剣が落ちていた。


「なんでこんな物が?いや、この洞窟のことが噂になってるぐらいだ。ここに入ったハンターあたりの持ち物だろう。折れたから捨てていった、ってところだな」


だがしかし、剣と反対側の壁際を照らしたとき、衝撃的な光景が目に飛び込んできた。そこにあったのは、上半身と下半身が離ればなれになった男の死体だった。


「うっ……げほっ、かはっ……」

「これはきついな。ファシュナ、大丈夫か?」

「はあ、はあ。……大丈夫、です…」


 大きく広がっだ血の跡と、露出した内臓。あまりのことに耐えきれず、ファシュナはその場にうずくまって嘔吐してしまった。

 彼女が落ち着くまでの間に、この惨状の原因を探るため、少しでも手掛かりがないかと死体の周りを探る。


「構えた盾ごと真っ二つか。ん?この鞘の装飾、さっきの剣と同じ……あれはこいつの剣だったのか。」


 そうして色々調べていく内に、空共はあるものを発見した。


「これは、手帳?なんでこんなところに?……ああ、ポケットが切れて落ちたのか。」


 中を見ると、簡単な日記とメモが書いてあった。その内容は……


〔洞窟調査一日目〕

ラグナ洞窟で目撃された大型生物とやらの調査の依頼が入った。情報の信憑性は低いが、万が一のためにと『フォワード』最強の俺たちのパーティーが指名された。とは言えラグナ洞窟はスケルトンやロウズ程度の魔獣しか居ない。大型生物というのも、ロウズの変異種辺りだろう。

 ともかく、この依頼を達成すれば結婚資金が貯まる。帰ったらすぐに結婚しよう。待っていてくれ、マイハニー。


「1日目の日記から酷い………」


 空共は手帳を読む手を止めて頭を抱えた。


「立派な死亡フラグが………」

「しぼう、ふらぐ…?」

「……なんでもない。お、こいつは」


 空共はペラペラと手帳をめくっていたが、途中のページで手を止めた。そのページには、洞窟の入口からここまでのものと思われる手書きの地図があった。


「これでこの……ラグナ洞窟か、抜けられるな。これ、ちょっと貸して貰うぞ」


 空共は男の死体に手を合わせた。


「アキトモさん?何を、しているん、です、か?」


「これか? 俺の世界の祈り方だ。それにしても……この文面から……」


 空共は周囲をライトで照らす。


「やっぱり……こっちも中々酷い有り様だな」


 ライトの光の先には3つの死体が次々と浮かび上がる。そのどれもが目の前の死体と同じように酷く損傷していた。


「ファシュナ、辛いなら見ない方が良い」

「いえ、大丈夫、です」


 空共に習って、ファシュナも手を合わせる。


「よし、出発しよう。出来れば武器でも在れば良かったんだが……地図が手に入ったのは嬉しい誤算だったな」


 その瞬間、気配を感じて空共は今まで歩いて来た通路を振り返った。そこにいたのはこれまで遭遇してきたのとは明らかに異なる、巨大な魔獣だった。


「何なんだコイツ?」


 鋭く尖った牙、発達した脚の筋肉、それらを見ると確かに何度も撃退してきた狼の魔獣、手帳によると『ロウズ』というらしい、とそっくりだった。


(戦えるか?……魔力粒子はそろそろ限界だな。逃げるぐらいなら……なんとかなるか)


「ファシュナ、隠れていろ。俺が時間を稼ぐから、合図したら一気に逃げるぞ」

 

 細かく震えながらもファシュナは小さく頷くと岩陰に走っていく。空共のことを気にする余裕もないようだ。


「さて、せめて隙ぐらいは作らせてもらうぞ」


 ファシュナが巻き込まれない位置まで離れたのを確認し、先制攻撃を仕掛けようとする。射撃魔法を使おうと右手を構えたと同時に大型ロウズも動き出す。爪が迫ってくるのを見て攻撃するのを止め、回避する。


「くっ。『ブースター』!」


 足の裏から風属性の魔力粒子を吹き出して、バク転で距離を取る。着地して、闇属性の魔力粒子を凝縮した弾丸を攻撃直後の大型ロウズの顔に向けて放った。着弾して煙が立ち込め、それに紛れて接近を試みる。『ブースター』で飛び上がり、上から『ヤミノコブシ』で殴りつけるが、腕の前に大型ロウズの顔が大顎を開けて待ち構えていた。


「ツッ!」


 咄嗟に『ブースター』を掌から放ち、辛うじて避けるが、背中を牙がかすって浅く傷つける。空き共はその痛みで、着地時に体勢を崩してしまった。


(くそっ、魔道具マジックツールでもあれば……)


 魔力粒子の消費が激しくて一瞬視界が歪んだ。その小さく、しかし致命的な隙を大型ロウズは見逃さなかった。巨大な爪が今度こそ空共を捉え、吹き飛ばす。鉄壁シルドで防御したので、男の死体と同じになるのは避けられたが、爪が食い込み背中を傷つけた。空共はその勢いを利用して、再び距離を取った。苦手な光属性の『ヒール』を使って傷を治す。


「?……アイツ、何やってんだ!」


 空共の視界に、大型ロウズの後ろからこっちに走ってくるファシュナの姿が入った。何の工夫もせずにただ向かってくるだけ。そんな無防備な獲物が見逃されるはずがない。大型ロウズがゆっくりと振り向く。獣の眼光に射竦められてファシュナの足が止まった。


「早く……早く逃げろ!」


 朦朧とする意識の中で空共は叫び、ファシュナはその声に弾かれたように一度空共を見て、背を向けた。彼女は逃げようと走り出すが、一歩遅かった。背を向けたときには既に、大型ロウズは十数歩分の距離を詰めていたのだ。背後の気配を感じてファシュナが振り返ろうとした瞬間、大きな爪が振るわれて彼女を切り裂き、吹き飛ばし、血飛沫が飛び散った。


「ファシュナーーー!」


 空共の絶叫に答える声はない。叫び声はむなしく洞窟の壁に反響を繰り返すだけだった……

ありがとうございました。感想やブクマ等、して頂けたら嬉しいです。

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