第4話 ━変化━
今回はキリのいいところで切ったので短めです。そのぶん次話は全力で書かせて頂きますm(__)m
「この、洞窟をぬけると街の、近くの街道に、出ます」
「やっとここまで来たか」
「ただ……」
「?」
「この洞窟、あの、えっと……出る、って…」
「幽霊でも出るのか?」
「それも怖い、ですけど……ここ、不気味な声、とか、巨大な影、とかを見たと、ハンターの人が、言ってた、のを聞きました……大怪我した、って人も、いる、そうです…」
「なるほど、迷宮攻略か………ここを通る以外の道はないのか?」
「…すみません。あるかも、しれないです、けど…分からない、です…」
「ここに着くまで何も起こらなかったからな……霊的な何かならともかく、魔獣とかなら戦っておいた方が良いかもな」
この世界には魔法は存在しないが、魔獣と呼ばれる生物は存在する。ただし、『魔法を使う獣』ではなく、しいていえば『邪魔な獣』といったところか。人に対して非常に狂暴で、ときには群れで街を襲ったりする。その行動原理はよく分かっていない。
「だが……今日はやめておこう。もうそろそろ、日が暮れそうだ。洞窟には明日の朝入ろう。」
二人が洞窟の前に着いたときには既に太陽が傾き始めていた。空共にとっては、数日間の徹夜など何の問題もないが、急いでいる訳でもないので余裕を持って行動することにしたのだ。
「野宿……ですか?」
「仕方ないだろ。 別に変なことは考えてないぞ?」
「え、えっと……あの、その……あ! 洞窟の近くは、危ないと思って!」
顔を赤くしながらそう答えるファシュナ。空共は “赤い顔ばっか見てる気がする、何回目だこれ”とか“ここまで早口で喋れたのか、意外とこっちの喋り方のが素なのかもな…”等と思いながら、ファシュナの質問に答えることにした。
「 大丈夫だ。俺だってこんなところで無防備に雑魚寝するつもりもない、ちゃんと考えもある」
そう言って、空共はベルトのポーチから小さめのビー玉ぐらいの物を3個取り出して地面においた。不思議そうにこちらを見てくるファシュナを横目に、それに魔力粒子を流す。と、大型のテントと寝袋が2つ現れる。テントの中に寝袋を並べ、最後に複雑な模様が描かれた紙を置き、万一の備え兼仕切りの結界を二人とテントの周りに張った。
「これだけやれば十分だろ。あとは食い物、何かあればいいのに……」
ここまでの道中、キノコや果物といった『森で遭難したときに現地調達できる食材』がまったくなかったのである。川があったから水は心配なかったが、その川にも魚はいなかった。
「ん、これは。……ジャーキーか。転送される前に買ったヤツ」
パックにはちょうど2枚入っていた。空共は1枚取って、残りをパックごとファシュナに渡した。
「口に合うかは分からんが、俺の世界の食い物だ。こんなのしかないが、まあ何も無いよりはましだろ。」
ファシュナは受け取ったジャーキーを見つめ、遠慮がちにかじり付いた。
「……! おいしい。 こん、なの、初めて、です……」
そう言う彼女の顔に浮かんだのは、陰のある笑顔だった…
(ずいぶん大変な思いをしたんだろうな。俺も化物呼ばわりはされたが……それでも…こいつには敵わないんだろうな…)
空共は心情を悟られないように、平静を装ってファシュナに声を掛けた。彼女の持っていたジャーキーはすでに無くなっていた。
「明日は洞窟に入るんだ。さっさと寝よう。」
そう言って空共はテントに入る。中は不透明な壁でしっかり二部屋に別れていた。その片方に寝転んで空共は考えていた。
(俺、この世界に来てから……いや、ファシュナに出会ってからか…かなり、喋ってるよな。久しぶりだ………輝といたときもこうはならなかった。)
ふと横を見ると、結界の向こうから寝息が聞こえてきたが。
「ううっ……お父さん、お母さん…」
突然、寝息が泣き声に変わった……
「……対人スキルだけはどうしようもないな、俺は」
こうして異世界の最初の日は終わった。
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