第1話 ━転送━
ネット小説初投稿です。色々突っ込みどころは有ると思いますがちょっとでも見て頂けたら幸いです。
23世紀━━そう言われたらどんな印象を受けるだろうか。科学の進歩した未来都市?世界中が平和?ロボットが一般家庭にも普及している?
どれもちょっとだけ間違ってる。
現在西暦22XX年、科学の発展は………魔法世界を現実の物にした。
21世紀の後半に当時のアメリカ、グランドキャニオンにそこそこのサイズの隕石が落下。ただの隕石だったらニュースになるだけで終わっただろう。せいぜいオカルトめいた噂が広がるくらいか。しかしこの隕石は世界の姿を180°変えてしまった。
隕石の落下地点で当時の科学では説明不可能な現象が次々に起こったのだ。『重力が小さくなった』や『止まることなく水が涌き出て来た』『鉄の柱が生えた』などが有名なところだろう。
この隕石に対して全世界から研究者が集められた上、多額の費用と最新鋭の機材を潤沢に注ぎ込んでの解析・研究が行われた。
その結果、隕石の中からとある粒子が発見されたがそれはとんでもない代物だった。高いエネルギーを秘め、その変換効率はなんと99%以上。
しかし、この粒子の特筆すべき点はそんなところではない。最大の特徴━━それは物質や現象に干渉し、超常的な変化をもたらす。つまり『魔法』を発生させるという性質である。隕石の周りで起こった現象はこの性質によるものだった。そのため、この粒子は魔力子と呼ばれるようになった。更にこの粒子をわずかでも取り込んだ人間は体内で魔力子を作れるようになり、それを媒介に魔法を使うことも個人差はあるが可能となった。さらに、魔力子は遺伝子のように受け継がれることも証明された。
『魔法は現実の物になる』
そんなニュースが世界中に広がるのにはほとんど時間がかからず、また、魔法が普及・発展するのもあっという間だった。
そして現在……電気やガス、石油等に代わり魔力子が主要エネルギーとなり、魔法は中学校から学び始める基礎技能となった。
しかし、魔法の普及は問題も引き起こした。例えば攻撃魔法による殺傷事件の多発・幻惑魔法による麻薬に似た脳への作用への依存症などの犯罪件数は魔法が広まってからのおよそ半世紀間上昇し続けている。
「『我々に必要なのは魔法の利点と欠点をより深く理解し、悪用を許すことなく、世界の利益と平和のための手段として魔法を扱うことである。』っと。こんなところか?最後のまとめが若干雑になったが……成績に直結するレポートでもないし、こんなもんか。それにしてもなんでウチの学校って紙とペンの手書きのレポートしか認めてないんだ?」
日が暮れて来たのにも関わらず灯りも付けずに課題らしきレポートをまとめていた黒髪の少年━━多田野空共はそうぼやいた。
課題をやっているのだから学生なのだろうが、鋭い目付きと暗い部屋に良く似合う静かな雰囲気は学生という人種には相応しくないものだった。
「だよな。魔法が広まる前でさえ紙媒体は時代遅れだったらしいじゃん? せいぜい国立図書館ぐらいか? こうやって普通に使ってるなんて、ある意味レアな体験だよな~」
まったくだ、とでも言いたげに口を出してくる茶髪の少年 ━━池華輝は空共と正反対の明るい雰囲気を纏っていた。対照的な性格であったが2人はかなり親しい友人である。むしろ空共にとっては輝が唯一の友人なのだった。
3年前━━多田野空共15歳
この時代にはすべての人類が生まれながらにして魔力子を持っており、それは通常10~12歳までにはほとんどの人が自在に操れるようになる。いわゆる魔力覚醒というやつである。しかし、空共は15歳になっても魔力覚醒が起こらなかった。クラスの中でも未覚醒なのは彼だけだったので、よくあることだがイジメの対象のなってしまった。しかし、そのイジメがある悲劇を引き起こすきっかけとなった。
魔法を使えない空共を不良グループの4人組が袋叩きにする。そこまではすでに日常の光景となっていたがその日だけは違った。蔑まれ、痛めつけられたことに対する怒りや復讐心といったマイナスの感情が膨らみ、空共の意識は飛んだ。
意識が戻った時、最初に彼の目に入ったのは黒い魔力を纏った上に血で染められた自身の拳、それと血だらけで倒れている不良たちの姿。
空共の魔力覚醒の瞬間だった。
意識が飛んだ後、魔力覚醒が起きて常識では考えられないほどの魔力がオーラのように空共を包んだという。と同時に彼は無意識の内に不良たちに殴りかかった。覚醒したばかりで加減が効かなかったこともあり、空共は意識を取り戻すまで止まらなかった。
不良たちは全身骨折に留まらず『全身に大火傷』『激しい光を見て失明』『両足が凍傷で壊死』などで重症だった。もちろん原因は空共の魔法、彼は通常1人は1~2属性しか持たないところ『火・水・土・風・光・闇』の全属性を持っていた。さらに魔力量はチート級。その凶行と特異性から『怪物』『化物』と呼ばれ、孤立していった━━
「て言うかレポート終わったんなら久々にどっか行こうぜ~?お前ここ数日そればっかやってんじゃん」
「どうせメシ食いに行くかゲーセン行くかだろ。こないだみたいなのは嫌だからな?」
空共は輝に騙されてナンパに付き合わされたことを思い出して顔をしかめた。
「それよりも、いつまでウチにいる気だ? 帰らなくていいのか?」
「ウチの親何にもしないくせに俺の行動ばっか縛ってくんだよ。お前みたいな一人暮らしが羨ましいわ」
「お前も化物になれば親から離れられるぞ?」
そう言う空共の顔には陰が浮かんでいた。
「……悪ぃ」
化物と呼ばれるようになってから、親からも距離をおかれた目の前の友人を見て輝は自分の発言を謝罪した。
「気にするな。それよりメシ食いに行くだけなら付き合う。さっさと行くぞ」
━━この外出が少年の運命を変えることになった━━
2人は話をしながら大通りを歩いている。
「知ってるか? 最近話題になってる失踪事件」
「何人も行方不明、ってやつだろ?原因は分かってないって」
「それがさ、事件があったって場所の近くで魔法が使われたって噂があるんだよ」
「バカいうな。転送魔法とかなら5~6人は必要なはずだろ? そんな人数なら十数人も失踪してるのに姿も見られてないし、魔力も検知されてないのはおかしい」
「どんだけ警察使えねえんだって話だよな」
大通りを出て細い裏路地を歩いていると、何かに固められたかのように突然、空共の動きが止まる。
「オーイ、何やってんだ?」
自分と友人の距離が離れていることに気付いた輝が空共に声をかける。しかし、気付くのが遅かった。空共の足元が急に光りだし、いつの間にか複雑な紋様の魔法陣が地面に現れていた。
「何だこれ!? どうなってるんだ!?」
憔悴した空共の声が聞こえた次の瞬間、光は収まり、空共の姿も消えていた。
「何が起こったんだ……」
━━そこから少し離れた路地の陰━━
「良かった、やっと成功した。頼んだよ、魔法使い君」
何者かがそう呟く。裏路地から離れて歩き出すと、中学生ぐらいの身長が青年ぐらいに変わった。
物語は始まった。誰にも、止めることはできない………
読んで頂きありがとうございます。月に1~2回程度を目安に更新していくつもりです。