ランチタイム
九、ランチタイム
「よし、じゃあ戻るか」
山頂での休憩を終えた航は、大きく息をつくと、今登ってきた坂道を戻って行った。博仁たちは、どこまで登って来ているのだろうか?きっと三人で登山を楽しみながら登っているんだろうな。そんなことを考えながら、道を下っていった。
しかし、航の予想に反し、博仁たちはかなり速いペースで登って来ていた。博仁たちを出会ったのは、九合目付近まで降りた頃だった。
航が博仁に声を掛ける。
「かなり速かったな。もっとゆっくりかと思っていた」
博仁が答える。
「櫻木たちが、休憩なしで頑張ってくれたからな」
真奈美が由紀に向かって言った。
「由紀、あともう少しだよ。がんばろう」
「うん」
由紀が息を切らせながら答えた。
それからは、四人揃って山頂を目指した。山頂には素晴らしい景色が待っている。航は真奈美にその景色を見せてあげたい、と思いながら歩みを進めていた。
ようやく四人は山頂に到着した。
「やったあ、特訓終了~!」
航が大きな声で叫ぶ。
「航、まだ帰りの下りが残っているんだぞ」
博仁が航に釘を刺す。
「大丈夫大丈夫。登りに比べたら、下るのなんて楽なもんだよ」
航が大きく背伸びをしながら答える。
「向井君の言う通りよ。最後まで気を抜かないの」
由紀が博仁に同調し、航を戒める。
「わかったよ。それよりこの景色最高だろ?」
航が眼下に広がる雄大な景色を指差す。
「この景色を見ながら、お昼にしようよ」
真奈美が皆に声を掛けた。
四人は山頂の端っこの方の岩こぶに座り、お昼を摂ることにした。朝から休憩なしでここまで登ってきたので、お腹はペコペコだ。
「私、皆の分も作ってきたの。よかったらどうぞ」
真奈美が手作りのサンドイッチを広げる。
「うまそー」
博仁が早速一つ、サンドイッチを摘まんだ。
「うまい!」
「渡辺君もよかったらどうぞ」
真奈美が航に声を掛ける。
「うん…。ありがとう」
俯きながら、航も一つサンドイッチを摘まんだ。
ここで真奈美の手作りのお弁当が食べられるなんて、夢にも思わなかった。特訓に来てよかった。航は心の底からそう思った。