特訓開始!
七、特訓開始!
四人は、大仙山のふもとに到着した。ここから頂上までロープウェイも併設されていて、登山を楽しむ人、ハイキングを楽しむ人、山の景色を楽しむ人、いろいろな人が詰めかけている。予想通り大勢の人で賑わっていた。
「さてと、じゃあ山登りに行きますか」
博仁が皆に声を掛ける。すると、航が博仁に聞いてきた。
「永井さんたちも男坂で登るの?」
「そうだった。櫻木たちはどうする?女坂で登るか?」
博仁が二人に問いかける。
「私たちも男坂で登るわ。こう見えても、体力には自信があるのよ。ねえ、真奈美?」
由紀が真奈美に声を掛ける。
「うん」
真奈美が大きく返事をした。
「それでは、出発!」
博仁が号令をかける。皆、博仁に続いて山登りを開始した。
大仙山は、六合目くらいまではなだらかな傾斜が続いていて、車でも登ってくることが出来る。しかし、六合目以降は意外にきつい登り坂が待っている。特に男坂は所々に険しい道があり、ハイキング気分で来た者を後悔させるほどだ。四人はまず六合目を目指し、山登りを始めた。
初めは博仁と航、その後ろに由紀と真奈美がペアになり山を登っていたが、しばらくすると、前に博仁と由紀が、後ろに航と真奈美が並んで歩くようになった。航にとっては、真奈美に話しかける大チャンスである。航の胸は、山登りの疲れ以上にドキドキしていた。
しばらく真奈美と並んで歩いていると、真奈美の方から航に話しかけて来た。
「渡辺君、特訓なんてすごいね」
「うん…」
航が俯きながら答える。
「地区大会って再来週の日曜日でしょ?私、部活休みだから応援に行くわ」
「えっ、本当?」
航が驚いた顔つきで真奈美を見た。真奈美は航の方を見て微笑んでいる。
「うん」
真奈美が大きく返事をする。
航は心の中でガッツポーズをした。真奈美が応援に来てくれる。こんなに頼もしいことはない。きっと、いい記録が出るに違いない。
航はこれからの特訓のことを忘れて、一人陽気な気分になっていた。
六合目まで到着すると、博仁が航に向かって言った。
「航、特訓はこれからだからな。まず、お前は先に行き全力で山頂まで登ること。当然休憩は無しだぞ。俺たちは後から登っていく。山頂に着いたらすぐに山を下りてきて俺たちと合流し、そして皆で山頂を目指す」
航は少し血の気が引いた。
「もしかして、俺、二回も登るのかよ」
博仁が当たり前だと言わんばかりの顔で答える。
「そうだよ。じゃなきゃ特訓にならないだろ?あと、山頂での休憩は十分だからな」
「マジかよ」
航が呟く。
「がんばって」
由紀と真奈美が航に声を掛ける。
その声を聞いて、航は気を引き締めた。
「よし」
航が気合いを入れて呟いた。
「じゃあ、準備はいいか?よーい、スタート!」
博仁の合図とともに、航が全力で歩き出す。明らかにここまでとは違う速いペースだ。
「がんばれよ~」
博仁が大きな声で声援を送る。航は片手を挙げて、声援に応えた。
「それじゃあ、俺たちもマイペースで山頂に向かいますか」
博仁が二人に声を掛ける。
航は何故こうなったのか、未だにわからないまま、ただ山頂だけを目指して登っていた。