これって特訓?それとも…
六、これって特訓?それとも…
次の日の日曜日、航が待ち合わせの駅前に行くと、既に博仁が待っていた。上下ウインドブレーカを着て、小さなリュックを背負っている。靴は陸上用のシューズみたいだ。これじゃ、山登りに行くというよりは、まるで陸上の練習に行くような格好だな、と航は思った。
「おはよう」
航が博仁に挨拶をする。
「おっす」
博仁が味気ない返事をした。
「それじゃあ、行こうか」
航が博仁を促し、駅の方へと向かおうとすると、博仁が航を呼び止めた。
「ちょっと待って」
「どうしたんだよ」
航が理由を尋ねる。
「後二人お客さんがいるんだよ」
「お客さん?」
誰が来るのかを、航が聞き返そうとしたその時、博仁が手を挙げて叫んだ。
「いたいた!こっちこっち!」
航はその視線の先を見つめた。なんと普段着姿の由紀と真奈美がいるではないか?!二人ともハイキングに行きような格好で、こっちに駆け寄ってくる。航は何故二人がここにいるのかわからずに混乱していた。
航が博仁に詰め寄った。
「何で二人がここにいるんだよ」
すると、博仁がしてやったりの顔で答えた。
「だって、応援団がいたほうがお前もやる気が出るだろ?昨日偶然櫻木に会ったから、良かったらって誘ってみたんだ」
航が独り言のように呟く
「そんなこと…。これじゃまるでデートだぞ」
博仁は特段気にするようでもなく、答えた。
「いいじゃないか別に」
航は段々と緊張していくのを感じた。特訓の前の武者震いではなく、真奈美とこうしてデートらしきもの(と航は思っているが、これは完全に初デート)をする前の緊張だった。航は特訓どころではなくなる予感をしていた。
すると、駆け寄ってきた由紀が博仁に声を掛ける。
「遅れてごめんね。待った?」
博仁が答える。
「いや、俺たちも今来たところだから」
真奈美が航に声を掛けた。
「おはよう、渡辺君。今日は特訓なんだって?頑張ってね」
「うん…」
航は声にならない返事をした。
「それじゃあ、行こうか」
博仁が皆を促し、駅の方へと向かった。
大仙山までの道中は、和気あいあいとした雰囲気だった。テストのこと、部活のこと、友達のこと、好きな芸能人のこと等々。博仁と由紀が話の中心になり、真奈美と航がわきから相槌を入れる、そんな光景だった。航は真奈美と話をしたい、と思ったが、結局恥ずかしくて言い出せずにいた。
そうこうしているうちに、電車は大仙山の入り口に到着した。いよいよ特訓の始まりである。