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特訓行きます

五、特訓行きます

 その日から航は懸命に練習をした。放課後だけでなく、始業前の朝練も、帰宅してからの夜練もこなした。そのおかげか、一週間もすると自己ベストに近いタイムを、コンスタントに叩き出せるようにはなった。まあ、本気を出せばこんなもの、といった感じなのかもしれない(今までが本気じゃないだけかも)。しかし、あと十秒の壁はとてつもなく高かった。


 そんなある土曜日のこと。博仁が航にある提案をしてきた。特訓をしに行こうというのだ。

 「特訓って何だよ?」

 航が博仁に尋ねる。

 「特訓っていうのはな、スペシャルな練習のことだよ」

 博仁が真面目くさった顔で、自慢げに答える。

 「そんなことは知ってるよ!だから何だよ」

 航が博仁に言い返す。

 「まあまあ、そう怒るなよ。お前はいつも後半に失速するだろ?だから、スタミナと持久力をつけないといけない、と思ってな」


 確かに航は後半に弱かった。中間ラップまではかなりいいタイムなのに、後半千メートルを超えたあたりから、ガクンとペースが落ちるのだ。前半飛ばし過ぎ、と言われてしまえばそれまでだが、このハイペースでないと記録の更新は望めなかった。

 「だから、特訓って何だよ」

 航が少しいらいらしながら聞いた。

 「山登りに行こう!」

 博仁が肩手を挙げて言った。

 「山登り?」

 航が聞き返す。

 「そうさ、山登りさ。持久力の筋トレになるのはもちろん、高地トレの効果もあるし、忍耐力の向上にもつながる。正に心技体全て鍛えられるってことさ」

 博仁が自信満々で答えた。


 航は確かに一理あるな、と感心した。後半の失速を改善するには、後半まで続くスタミナと持久力、それに精神力が必要だ。山登りならこれらを克服できるかもしれない。


 満更でもない航の顔を見て、博仁は言った。

 「じゃあ、決まりな。特訓は明日の日曜日。場所は大仙山だ」


 大仙山はここから電車で三十分ほどの所にある、この辺りでは最も高い山だ。標高九百五十八メートル。近年は近場で楽しめるハイキングコースとしても人気があり、週末には多くの登山客が訪れる。また、頂上まではロープウェイも併設されていて、気楽に山を楽しむことが出来る、人気スポットである。


 航が少し渋い顔になりながら、博仁に聞いた。

 「大仙山じゃ、人が多くないか?特に週末はめちゃ混みだぜ?」

 すると博仁が、鼻を鳴らしながら言った。

 「その辺りはリサーチ済みさ。大仙山には男坂と女坂があって、人気があるのは女坂。主に初心者が通るんだ。男坂の方は、本格的な登山客だけ。こっちは日曜でもそんなに混んでないんだ」

 「ということは、急坂でトレーニングか?」

 航が恐々と博仁に聞いた。

 「当たり前だろ?じゃなきゃトレーニングにならないじゃん。それに、お前はダッシュ付の登山だからな」

 博仁が不敵な笑みを浮かべて言った。航が博仁を見ると、博仁がニヤニヤしながら航を見つめている。


 大変なことになりそうだ。航は心の中でそう思った。

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