誕生日会の前に
四十四、誕生日会の前に
そして、ついに八月三十日がやってきた。その日、航は朝から落ち着かなかった。苦心の末やっとできた似顔絵は、まあまあ良く出来たものであった。真面目過ぎず、ふざけ過ぎてもいない、どことなく味のある雰囲気に仕上がっていた。特に目元の感じが特徴をよくつかんでいて、可愛らしい真奈美を上手に表現している。
色塗りを一緒に行った博仁は、この絵を見て感心したように言った。
「上手く描けてるじゃないか。よく似てるし、完璧だよ」
それから二人で色塗りを行い、完成したのは昨日ギリギリになってからだった。
航は、改めて似顔絵を凝視した。真奈美によく似ていて、可愛らしく出来た、という自負はある。あとは、この似顔絵を真奈美が喜んでくれるといいのだが…。そんな不安を抱えながら、航は完成した似顔絵を丸めた。
しばらくすると、博仁が航の家へとやって来た。真奈美の誕生日会は午後二時から。プレゼントが似顔絵だけでは少し寂しいので、何か買ったものを一緒につけよう、という博仁の提案だった。これには航も賛成した。さすがにプレゼントが似顔絵一枚だけというのは心許無い。そこで、午前中に博仁とプレゼントを買いに出掛けることにしたのだ。
博仁が言った。
「プレゼントって何がいいかなあ?」
航が同じように言った。
「女の子の喜びそうなものって何だろう?ぬいぐるみとかかな?」
博仁が賛同した。
「ぬいぐるみはいいかもな。似顔絵と一緒に飾ってくれるかも」
航が思いついたまま言った。
「あとはアクセサリーとか?よくわかんないけど」
「服とかアクセサリーとかは選ぶのが大変だぞ。好みがはっきりと分かれるからな」
「男だったらすぐに思いつくんだけど」
「ぬいぐるみでいいんじゃないか?値段も手ごろそうだし」
「まあ、大抵のぬいぐるみは可愛らしいしな。じゃあ、そうしよう」
「駅前のデパートに売ってるかな?」
「売ってるんじゃないか」
こうして、博仁と航は、駅前にあるデパートへとぬいぐるみを買いに出掛けた。
デパートのおもちゃ売り場には、色々な種類のぬいぐるみが置かれていた。大きさも大小様々なものがある。
博仁が言った。
「航、永井の好きな動物はわからないのか?」
航が首を振って答える。
「残念ながらわからないよ」
「だめだなあ。もっとリサーチしないと」
「わかってるよ」
しかたなく、二人は犬のぬいぐるみを選んだ。無難な選択肢ではあるが、真奈美の似顔絵には最も似合っているとも言えた。
「あとは、これを渡すだけだな」
博仁が航に問いかける。
「うん」
航が力強く答えた。
準備は整った。博仁と航は、その時が来るのを待っていた。




