実力はこんなもん
四、実力はこんなもん
予想通り、今日の英語のテストは散々だった。これじゃ新型のスマホは諦めざるを得ないだろう。航はほんの少しだけ後悔した。博仁とファストフード店で別れた後も、航の頭の中は今度の地区大会のことで一杯だったからだ。
しかし、テストが終わってしまうと、もうスマホのことは頭になかった。今度の地区大会は一か月後だ。三位以内に入ったら真奈美に告白をする。そう考えただけでも、航はドキドキしてしまう。
航の今までの実力は、地区大会なら八位入賞くらいが妥当なところである。三位以内となるとかなりハードルは高い。なにしろ航の地区には、全国大会に出場できる逸材が一人いて、こいつが断トツに速いからだ。こいつを除くと、実質の残っている枠は二枠だけ。かなり厳しい戦いになるのは、初めからわかっていた。
航はテストが終わると、すぐにグランドへ行き、トレーニングのアップを始めた。そこに博仁がやって来た。
「おお、気合が入ってるなあ」
博仁が航に声を掛ける。
「まあな」
航は博仁の方を見ずに、黙々とアップを続けた。
博仁が航に耳打ちする。
「永井のためにも頑張らなきゃな」
すると、航が博仁に詰め寄り囁いた。
「絶対に秘密だからな」
「わかってるよ」
博仁が両手を上げてこたえる。
「じゃあ、アップが終わったら、一本計ってみるか?」
博仁が航に問いかける。
「うん、頼む」
航がアップをしながら答えた。
そして、アップが終わり、航が千五百メートルのスタートラインに立つ。
「よーい、スタート!」
航は今まで以上に気合が入っていた。地区大会で三位以内に入るためには、自己ベストを二十秒近く縮める必要があるからだ。今までの走りでは到底無理なタイムである。航は、博仁が飛ばし過ぎと思うくらい最初から飛ばした。そのせいか、中間ラップは自己ベストを大幅に更新していた。
「おお、いい感じだ。このまま突っ走れ!」
博仁がスタートラインから応援する。航はただ前だけを見て懸命に走った。
後半はさすがにバテたのか、千二百メートル過ぎから失速してしまった。それでも自己ベストを八秒も更新している。
「頑張れ!」
博仁の応援にも熱が入る。ラスト二百メートル。航は懸命にスパートをかけた。今までにない感覚が航を襲う。これはいいタイムが出そうだ。航はそう確信していた。
「ゴール!」
博仁が声を上げる。ゴールした瞬間、航は倒れ込んでしまった。練習でここまで自分を追い込んだのは初めてだ。
「どう…だった…?」
とぎれとぎれの声で、航が博仁に聞いた。博仁が驚いた面持ちで答える。
「すごいよ!自己ベストを十秒も縮めたぜ!」
喜んでいる博仁とは対照的に、航は十秒と聞いて少しがっかりした。自己ベストを更新し、今までにない感覚も得られたのに、十秒しか縮んでいないなんて。目標である三位以内に入るには、あと十秒も縮めないといけないのだ。
航は大きく肩で息をしながら、どうしたものかを考えていた。