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役者はそろった

三十七、役者はそろった

 辺りも暗くなり始め、ようやくお祭りが活気を呈してきた。露店には、食べ物はもちろんのこと、キャラクターのお面、ヨーヨー掬い、カブトムシやクワガタまで様々なものが売られ、通る人たちを引きつけてきた。


 航と博仁も、露店から漂う美味しそうな匂いには我慢できず、焼きそばや綿菓子に舌鼓を打って楽しんでいる。参道には大勢の人が詰めかけ、神社の境内にも人が溢れていた。町内のお祭りだと馬鹿に出来ない人の多さだ。


 航は、真奈美がやって来るのを今か今かと待っていた。『手を握る大作戦』。作戦という程でもないが、航にとっては大一番の勝負である。この夏一番の思い出にするべくたてた『大作戦』。しかし、肝心の真奈美が来なくては話にならない。本当に真奈美はやって来るのだろうか?航は少し不安になっていた。


 そんな心配を航がしていると、不意に博仁が大きく手を振り始めた。何かに気付いたらしい。

 「おーい、こっちこっち」

 すると、浴衣姿の由紀と真奈美が人混みから顔を出した。


 由紀はピンク色の地にきれいな花柄の浴衣だった。小柄な由紀が人目を引くくらい大きな花柄の模様である。


 真奈美は水色の地にこちらもきれいな花柄の浴衣だ。ほっそりとした真奈美が一層際立っている。


 由紀がお辞儀をしながら言った。

 「こんばんは」

 博仁が言った。

 「こんばんは。きれいな浴衣だな」

 由紀が意地悪そうに言った。

 「きれいなのは浴衣だけ?」

 博仁が慌ててフォローする。

 「も、もちろん中身もさ」

 由紀が笑って答える。

 「うふ。ありがとう」

 真奈美が言った。

 「この浴衣、今日のために由紀と二人で買いに行ったのよ」

 航が言った。

 「とてもよく似合うよ」

 「ありがとう、渡辺君」


 博仁が由紀に言った。

 「今来たところか?」

 由紀が答える。

 「うん、そうよ」

 博仁が言った。

 「じゃあ、まず腹ごしらえだな」

 由紀が言った。

 「まずは一通り歩いてみないと。腹ごしらえはその次よ。ねえ真奈美?」

 真奈美が答える。

 「うん」

 博仁が提案した。

 「俺たちも一緒に行こうか?」

 由紀が言った。

 「そうねえ、せっかくだからエスコートしてもらおうかな」


 こうして、航と博仁、由紀に真奈美と、四人でお祭りを散策することとなった。すると、博仁が航の近くに来て耳打ちした。

 「二人きりになるのはもう少し後な」

 「ああ、わかった」


 これで役者はそろった。後は作戦を実行するだけだ。航は胸の高鳴りを抑えつつ、お祭りを散策した。


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