どうしましょう
三十四、どうしましょう
その日の夜、博仁と真奈美のことで混乱していた航は、もう一度真奈美の言葉を反芻していた。
『由紀と向井君て、お似合いかなあ』
『二人、いいカップルになるといいな』
最初の言葉は、自分よりも由紀の方が博仁には合っているのではないか、という真奈美の自信のなさから来た言葉だと推測できる。そして、由紀も博仁のことが好きなのだ、ということだ。
次の言葉は、自分は身を引いて、親友の由紀に幸せになってもらいたい、という真奈美の願望から来た言葉だと推測できる。すなわち、真奈美は由紀のために身を引いたのだ、ということだ。
しかし、真奈美はまだ、博仁のことが好きなのかもしれない。表面上は、二人を応援してはいるが、本当の所は博仁のことが忘れられずに、一途に思っているのかもしれない。もしそうだとすると、とても厄介である。真奈美の心の奥に閉じ込めた思いと戦わなくてはならないのだ。どうやって戦えばいいのだろうか?
航は頭をフル回転させたが、いい考えは思いつかなかった。
すると、不意に航のケータイが鳴った。博仁からだ。
航が電話に出る。
「もしもし」
電話口から博仁の声が聞こえた。
「もしもし、俺だけど、今大丈夫か?」
航が尋ねる。
「大丈夫だよ。どうしたの?」
博仁が慌てたように聞き返す。
「どうしたのじゃないよ。どうだった、帰り道?」
航は平然と答える。
「別に普通に話をして、家まで送って、さよならしただけだよ」
博仁と由紀、そして真奈美のことなんか話せはしない。お前のせいで俺は大変な思いをしているんだぞ、と言いたい気持ちをぐっと抑えた。
博仁がさらに聞いてくる。
「それだけか?」
航が平然と答える。
「それだけだよ」
博仁が航を突くように聞いてくる。
「手ぐらい握ったりしなかったのかよ」
航が答える。
「しないよ」
博仁が残念そうに言った。
「いくじなしだなあ。せっかくのチャンスだったのに」
意気地なしで悪かったな。こっちはお前のせいで大変な思いをしてるんだぞ。航はそう言いたい気持ちを抑え、答えた。
「まだ手を握られるような仲じゃないよ」
博仁がせかすように航をつっつく。
「早くそういう仲になれよ」
お前がいなければな。そう言いたい気持ちを抑え、航が答えた。
「自分のペースでやるよ」
電話口の向こうで何やら納得した博仁が言った。
「まあいっか。それが航だしな」
何が俺なんだよ。そう言いたい気持ちを抑え、航が答えた。
「用はそれだけか?」
「そうだよ。気になってな。じゃあ、またな」
そう言うと、博仁は電話を切った。全く人の気も知らないで、と航は心の中で思った。そして、航はゆっくりと深くため息をついた。




