よくできました
三十三、よくできました
由紀の家からの帰り道、真奈美と二人きりになった航はひどく混乱していた。
真奈美は博仁のことが好きなんじゃないのか?
それなのに由紀と博仁がお似合いなんて言って、どういう事だ?
いいカップルになるだなんて、博仁のことを諦めたのか?
航は頭をフル回転させて考えたが、答えは出ず、さらに混乱するだけであった。
すると、不意に真奈美が航に尋ねてきた。
「そう言えば渡辺君、最近家の近くで渡辺君が走っているところを見かけたよ」
不意の問いかけに、航は一瞬凍りついたようになったが、すぐに真奈美に答えた。
「え、あっ、うん。トレーニングで朝晩あの辺りを走っているんだ」
「トレーニングしてたの?すごいね。がんばってるね」
「今度の大会では、絶対に三位以内に入りたいからね」
本当は真奈美に会うためだなんて、口が裂けても言えない(航の心の思い)。
航が真奈美に聞いた。
「見かけたのなら、声かけてくれたらいいのに」
「だって一所懸命の顔つきで、あっという間にいなくなっちゃうんだもの」
そっか、走りが速過ぎて声を掛けてくれなかったのか。次回からはもう少しゆっくり走らないといけないな(航の心の思い)。
真奈美が言った。
「私もトレーニングしなくちゃいけないのかなあ」
「今度の大会はいつ?」
「秋の新人戦よ。九月の終わりかな」
「夏休み中も部活はあるんだろ?」
「あるけど、それだけじゃちょっと物足りなくて」
いい感じになってきたぞ。とりあえず博仁のことは置いておこう。今はこの会話に全力投球だ(航の心の思い)。
航が真奈美に尋ねた。
「もしよかったら、一緒に走る?」
「うーん。私走るの遅いから、渡辺君のペースについて行けないし。私に合わせたら、渡辺君トレーニングにならないでしょ?」
目的は真奈美に会うためなんだから、ペースなんて遅くてもいいのに。けれど、トレーニングという建前上、遅いペースじゃ辻褄が合わないし(航の心の葛藤)。
真奈美が言った。
「私は私で、何かトレーニング方法を考えるわ」
「俺で手伝えることがあれば、いつでも言って」
「ありがとう」
そうこうしているうちに、真奈美の家に到着してしまった。この辺りは航にとって見慣れた景色である。
真奈美が言った。
「送ってくれてありがとう。またね」
「うん、またね」
そう言うと、航は自分の家へと駆けだして行った。
一人になった航は、当初の混乱も忘れて楽しい気分になっていた。今日はまずまず楽しい会話が出来たぞ。自信を胸に航は家路へと着いていた。




