帰り道に
三十二、帰り道に
そうして博仁の誕生日会も楽しく過ぎ、お開きのときとなった。帰り際、博仁が皆に向かって言った。
「今日は俺のために集まってくれて、本当にありがとう。ケーキ美味かったよ」
由紀が言った。
「次は真奈美の誕生日ね。二人とも忘れないでよ」
「忘れないよ。八月三十日だろ。なあ、航?」
航が大きく頷いた。
「うん」
博仁が航を突っつく。
「航、永井を家まで送ってやれよ」
真奈美が言った。
「いいわよ。そんなに遠くないし」
航が慌てたように言った。
「送る、送るよ」
「悪いわよ」
「悪くなんかないよ。それに何かあったら大変だし」
「そう?じゃあ、お言葉に甘えて」
すると、真奈美が航の隣に寄って来た。その距離わずか数センチメートル。この夏一番の近さだ。航は胸の鼓動を抑えることが出来なかった。
その反対隣では、博仁が航の腕を突いている。『うまくやれよ』、そう言っているようだった。
博仁が言った。
「じゃあ、またな。バイバーイ!」
「バイバーイ」
そう言うと、博仁が家の方へと駆けて行った。博仁の後姿はあっという間に見えなくなっていた。
真奈美が言った。
「それじゃあ、私たちも、ね」
航が頷く。
「あ、うん」
「じゃあね、由紀」
「バイバーイ、またね」
そして、航と真奈美は並んで由紀のうちを後にした。
帰り道、航はどんな話をしようか、思案していた。真奈美の家まではおよそ二十分。二人きりのこのチャンスを逃す手はない。
航が真奈美に話しかけた。
「今日のケーキ美味かったよ。永井のアイデアかい?」
「ありがとう。今日のケーキは由紀のアイデアよ。私は手伝っただけ」
「お菓子はよく作るの?」
「クッキーくらいならたまにね。由紀はよく作るみたいだけど」
「そうなんだ」
航は二人きりで緊張してしまい、中々会話が続かなかった。これ以上何を話したらいいのかも思いつかない。すると、真奈美の方から意外なことを話しかけて来た。
「由紀と向井君て、お似合いかなあ」
航は一瞬、何のことかわからなかった。博仁と由紀がお似合い?真奈美は博仁のことが好きなんじゃないのか?
混乱している航を余所に、真奈美が続けた。
「二人、いいカップルになるといいな」
これは、真奈美が博仁のことを諦めたということか?それとも別の意味があるのか?航はますます混乱していた。
真奈美が航に問いかける。
「ねえ、そう思わない?」
「そ、そうだね」
航は全く意味が分からずに、ただ頷くだけだった。




