誕生日会 その二
三十、誕生日会 その二
乾杯で始まった博仁の誕生日会は、和やかな雰囲気で進んでいった。博仁がケーキを食べながら言った。
「このケーキ美味いな。なあ航?」
航が頷く。
「うん」
由紀が答える。
「そうよかった。ねえ真奈美?」
真奈美が言った。
「上手く出来て良かったわ」
航は、なんとかして真奈美と話がしたかった。真奈美との距離はおよそ一メートル。この一メートルが近くて遠い距離だった。何を話したらいいか、わからなかったからだ。そんな航を余所に、博仁は由紀と会話を進めていた。その会話に真奈美も加わっていた。
博仁が言った。
「こんなふうに誕生日を祝ってもらうのは久しぶりだよ」
由紀が博仁に尋ねる。
「家ではお祝いとかしないの?」
「しないね。何か恥ずかしくないか?家族に祝ってもらうのって」
「別に恥ずかしくなんかないわよ。誕生日なんだから」
「男はそういうの恥ずかしいんだよな。なあ航?」
航がケーキを食べながら頷く。
「うん」
「女子はこういうお祝い大好きよ。ねえ真奈美?」
真奈美が答える。
「そうねえ、結構好きかも」
すると、由紀が真奈美に尋ねた。
「そう言えば、真奈美の誕生日ももうすぐじゃなかった?」
博仁が真奈美に向かって言った。
「永井も八月生まれかよ」
真奈美が応える。
「うん。八月の三十日よ。夏休みの終わり」
博仁が言った。
「夏休みの宿題で、ラストスパートをしているときか。それは大変だな」
「だから誕生日会とかしたことが無くて」
「そしたら俺たちがやってやるよ。永井の誕生日会。なあ航?」
航が身を乗り出して賛同する。
「うんうん。やるやる」
真奈美が笑いながら言った。
「いいわよ。宿題のラストスパートで大変でしょ?」
博仁が首を振って答える。
「今年は二十九日までに終わらせるさ。なあ航?」
航が大きく頷く。
「うんうん」
真奈美が応える。
「ありがとう。そしたら私もやってもらおうかな。誕生日会」
由紀が言った。
「じゃあ、決まりね。皆、八月の三十日は空けておいてね」
航が一番に応えた。
「うん」
すると、真奈美が笑いながら言った。
「渡辺君、さっきから『うん』しか言ってないよ」
三人が大声で笑い出す。一人航だけが、真っ赤な顔をして縮こまっていた。
こうして、楽しい誕生日会が過ぎていった。




