約束しました
三、約束しました
航は博仁に聞かれるままに、これまでのことを話した。
真奈美とは同じクラスであったが、それほど目立つ存在ではない真奈美のことは、初めは意識しなかった。また、真奈美は由紀と仲が良く、由紀と博仁は小学校で同じクラスだったので、由紀の方からちょくちょく博仁に話しかけてきていた。そのおかげで、航も真奈美と話す機会が何度もあったのだが、まともに話したことは今まで一度もなかった。
航が真奈美のことを意識し始めたのは、最近のことである。陸上部でのランニングの最中、通りかかった弓道場で、偶然真奈美が弓を引いていたのである。その凛とした姿に航は見とれてしまい、いわゆる一目惚れをしてしまったのだ。
話を聞いていた博仁が、航に詰め寄った。
「永井のどこが好きなんだよ」
「うん…。かわいいところかな」
航が下を向いて恥ずかしそうに答える。
「何か普通だなあ」
博仁がつまらなそうに言った。
「普通で悪いかよ」
航が言い返す。
「別にいいけどさ」
博仁がドリンクを飲みながら言った。そして、さらに航に問い質した。
「なあ、告白しないのか?」
航の顔が真っ赤になる。
「しねーよ」
航が真っ赤な顔のままで答える。
「なんでだよ、すればいいじゃん」
「だって、恥ずかしいじゃん…」
航が下を向きながら言った。
「別に結婚してくれっていう訳じゃないだろ?」
「当たり前だ!」
航が少し大きな声で、博仁に向かって言った。けれど、すぐに肩をすぼめて小さくなった。こんな話を真奈美たちに聞かれたら大変である。
すると、博仁が航に向かって言った。
「もしかしたら、永井もお前のこと好きなのかもしれないぞ」
「有り得ないよ」
「そんなの聞いてみなきゃわからないじゃん」
航は大きく首を振って言った。
「有り得ない」
すると、博仁が身を乗り出し、ある提案をしてきた。
「じゃあさ、今度地区大会があるだろ?お前の出る千五百メートル走で三位以内に入ったら永井に告白する、っていうのはどうだ?」
航が反論する。
「なんで三位以内に入ったらなんだよ。普通は逆だろ?」
「そんなこといって。お前だって、本当は永井に気持ちを伝えたいんだろ?」
博仁が意地悪そうに航に問いかける。
「そんなこと…」
航は口をつむんでしまった。本音を言えば真奈美と仲良くなりたいし、好きだという気持ちも伝えたかった。
「じゃあ決まりな」
博仁が楽しそうに微笑みながら、航の肩を叩いた。
「俺は何も言ってないぞ」
航が少しだけ反抗する。
「何も言わないのはOKの証。楽しみだなあ、地区大会」
航はどうしてこうなったのか、全くわからずにいた。ただ、明日のテストのことが頭から完全に忘れ去られ、地区大会のことだけを考えていた。