誕生日会 その一
二十九、誕生日会 その一
航と博仁が由紀の家に着いたのは、三時少し前だった。真奈美は既に先に来ていて、二人でケーキを作っているらしい。由紀の家に着くと、ケーキを焼いているらしい、いい匂いがしてきた。
博仁が言った。
「いい匂いだなあ。これは期待できそうだぞ」
そして博仁が玄関のチャイムを押すと、中から由紀が出て来た。
「いらっしゃい。どうぞ中に入って」
「お邪魔します」
博仁と航は揃って応接間へと通された。家の中はケーキのいい匂いが充満していた。
すると、台所の方から真奈美がやって来た。
「こんにちは。もうすぐケーキが焼き上がるから、ちょっと待っていてね」
それからすぐに、由紀が冷たい麦茶とお菓子を持って応接間へとやって来た。
博仁が由紀に聞いた。
「今日、おばさんは?」
由紀が答える。
「買い物に出掛けているわ。夕方には戻って来るとは思うけど」
「誰もいないのか?」
「お兄ちゃんは部活だしね」
真奈美が由紀に聞いた。
「そろそろいいんじゃない?」
由紀が時計を見る。
「そうねえ、そろそろかな。じゃあゆっくりしていてね」
由紀はそう言うと、真奈美と二人で台所へと消えて行った。急に手持無沙汰になった博仁が、航に言った。
「せっかくのチャンスなのに、何も話さないのかよ」
「これからゆっくり話をするよ」
「本当か?」
「本当だよ」
それからしばらくは、二人とも無言だった。台所の方からは、由紀と真奈美の楽しそうな話し声が聞こえる。
博仁が言った。
「どんなケーキなんだろうな」
航が答える。
「分かんないけど、匂いは最高だよ」
「俺、このケーキのために、お昼ちょっとしか食べてないんだ」
「俺もだよ」
それから少しして、ついに由紀と真奈美がケーキと紅茶を持って台所からやって来た。とても美味しそうなスポンジケーキだ。
真奈美が言った。
「苺のデコレーションがないのは、勘弁してね」
博仁が答える。
「苺なんかなくても、すげー美味しそうだよ。なあ航?」
航が頷く。
「うん。超美味しそう」
そして、由紀がケーキを切って、皆に取り分けた。中には生クリームとフルーツがサンドされている、見た目も綺麗なフルーツケーキである。
由紀が言った。
「それじゃあ、向井君、誕生日おめでとう!」
「おめでとう!」
皆、紅茶で乾杯をする。
博仁が応える。
「どうもありがとう」
こうして、楽しい誕生日会が始まった。




