こんな感じです
二、こんな感じです
航の恋心は誰も知らなかった。親友である博仁も、この時はまだ気が付かなかったくらい、航の恋心は秘めたものだった。航は真由美と目を合わせることなく、只々教科書を眺めていた。本当に眺めていただけだった。
「真奈美、あっちに座ろうよ」
由紀が真奈美に声を掛ける。
「あ、うん」
真奈美が由紀について、奥の方の席へと向かった。
二人がいなくなると、博仁が航に声を掛けてきた。
「櫻木ってホントきついよな。あれでよく学級委員なんてやってられるよなあ」
「うん、そうだね」
航が半分上の空で答える。
「ああきついと、男子は敬遠するよなあ、なあ、どう思う?」
博仁が真奈美たちの方を見ながら、航に問いかける。
「うん、そうだね」
航が半分以上、上の空で答える。
「お前、ちゃんと俺の話聞いてる?」
博仁が航の顔を覗き込みながら問いかける。
「うん、そうだね」
航が完全に上の空で答える。
「聞いてねえじゃんか!」
博仁が航を小突いた。
「痛っ」
ようやく航が顔を上げて、博仁の顔を見た。その時、博仁の肩越しに、奥の席に座っている真奈美たちの姿が見えた。二人で何やら談笑しているようだ。時折こちらをチラリチラリと見ている。真奈美の視線を感じただけでも、航はドキドキしてしまった。航はすぐに目を伏せてしまった。
そんな航に博仁が突っ込みを入れる。
「お前さっきからおかしいぞ。あれー、もしかしたら…」
「もしかしたらってなんだよ」
航が博仁に言い返す。
「お前、櫻木のこと好きなのか?」
博仁が真奈美たちに聞こえないように、小さな声で聞いた。
「ちげーよ」
航が全力で否定する。好きなのは由紀ではなく、真奈美の方だ。
「それじゃあ、永井の方か?」
博仁がもう一度、小さな声で聞き返す。
「ちげー…」
航は否定しようとしたが、否定しきれなかった。博仁の肩越しに真奈美の姿が見えていたからだ。
すると、博仁が航の隣の席に座り、航に耳打ちした。
「お前、永井のこと好きなのか?はっきり言えよ」
「…うん…」
航が小さく呟いた。
「そっか、そういうことか」
博仁が一人で納得している。
「誰にも言うなよ。絶対に。秘密だからな」
航が博仁に念を押す。
「お前が永井のこと好きだったとはなあ。全然気が付かなかったよ」
博仁がまた一人で納得している。
かくして勉強の時間は終了し、博仁による航の尋問タイムへと向かうのであった。