私も恋をしたみたい
十六、私も恋をしたみたい
ある日の昼休み、櫻木由紀は教室の窓から校庭を眺めていた。校庭では、クラスの男子が他のクラスの男子と入り乱れて、所狭しとサッカーをしていた。由紀はそんな姿をぼんやりと眺めていた。
そこに親友である永井真奈美がやって来た。由紀と真奈美は部活こそ違うが、とても気の合うクラスメートである。一年生の時から同じクラスの二人は、何でも言い合える親友になっていた。
真奈美が由紀に声を掛けた。
「最近、こうして校庭を眺めていることが多いね」
「そうだね」
由紀がはっきりしない口調で答える。
「何かあったの?」
真奈美が由紀に問いかけた。
「別に何もないよ」
由紀が素っ気なく答える。
「そうかなあ。なんかいつもの由紀らしくないよ」
真奈美が由紀に聞き返す。
「そう?」
由紀は変わらず素っ気ない。
そして、二人はしばらく並んで窓辺から校庭を見ていた。すると由紀が突然、何か真剣な眼差しで真奈美に聞いてきた。
「ねえ、向井君ってどう思う?」
「向井君って、同じクラスの向井博仁君?」
「そう」
「どう思うって…」
真奈美は返答に困った。突然のことでどう言えばいいのかわからなかったからだ。
「向井君って、優しい所があるじゃない?」
由紀が真奈美の方に向かって言った。
「そうねえ。友達思いの所はあるよね。この前の山登りだって、渡辺君のために考えたみたいだし」
真奈美が空を見上げながら答える。
「そうなのよ。それに結構男らしい所もあって…。小学校のときはやんちゃな男の子にしか見えなかったのに」
由紀が校庭に目線を移しながら言った。
「もしかして、由紀、向井君のこと好きなの?」
真奈美が直球で尋ねる。
「…うん…。最近気になりだしちゃって…」
由紀が口ごもりながら答えた。
それは、山登り特訓の帰り道。駅から家まで博仁が由紀を送ってくれた時のことである。博仁はまず、由紀に今日の礼を言った。
「今日は付き合ってくれてありがとうな。航もかなり張り切っていたし、特訓は大成功だよ」
「でも、渡辺君のためにこんなメニューを考えるなんて、優しい所があるじゃない?」
「まあな。航とは親友だからな」
「ところで、渡辺君はどうして今度の大会で、三位以内に入りたいの?」
「さあな。まあ、人それぞれ目標があっていいじゃないか」
「まあ、そうだけどね。そう言えば向井君は特訓しなくて良かったの?同じ大会に出るんでしょ?」
「俺は特訓しなくても、常に実力を出せるタイプなの」
「へえ、本当?」
「本当さ。じゃあ、今度の大会見に来いよ。俺の華麗な走りを見せてやるから」
「じゃあ、楽しみにしているわね」
そして、由紀を家まで送り届けた博仁は、『じゃあな』というと走って帰って行った。
「何か二人きりで話したことなかったから、緊張しちゃったんだけど…。向井君気を遣ってくれて、いろいろ話しかけてくれたんだ」
由紀が校庭を眺めながら言った。その目は、校庭でサッカーをしている博仁を追いかけていた。
「へえ、優しんだね、向井君」
真奈美が相槌を打つ。
「そう、見かけはやんちゃ坊主なんだけどね。走って帰る後姿がなんか男らしかったなあって」
由紀がクスっと笑いながら言った。
真奈美は由紀を見ながら、向井君とならお似合いの二人だな、と思っていた。




