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始まりの始まり

一、始まりの始まり

 「あーあ、明日もテストかあ」

 向井博仁はファストフード店の店内で、小さなため息をついた。博仁の向かいに座っている渡辺航は、独り言を呟く博仁を上目づかいにチラッと見ただけで、黙々とペンを走らせていた。


 「俺、英語苦手なんだよなあ」

 博仁が教科書とにらめっこしながら、また独り言を呟いた。

 「どうにも単語が覚えられなくてさあ」


 博仁と航は、同じ中学校に通う中学二年生だ。二人とも陸上部に所属しクラスも同じだった。どこか気の合う二人は、すぐに意気投合し、いつしか親友と呼べる間柄になっていた。


 今日と明日は、学校の中間テストが行われていた。成績は航の方がちょっとだけ(博仁の意見だが)上であり、いつも航が博仁に勉強を教える立場であった。そして今日、このファストフード店で勉強しようと誘ったのは博仁の方だった。一人だとどうにも勉強する気になれないらしい。どちらかというと一人で勉強するのが好きな航は、最初博仁の誘いを断ろうかと思ったが、親友である博仁の提案を無下にも出来なかった。そして、学校が終わってから近所のファストフード店に集合ということになったのだ。


 航は、今日終わった数学のテストに中々の手ごたえを感じていた。前夜の努力の成果だった。明日の英語もこの調子で頑張れば、過去最高となる点数を叩き出せるだろう。


 航がテストの点数に拘るには理由がある。母親とある約束をしたのだ。それは、今回のテストで平均点が八十点以上だったら、新型のスマホを買ってくれる、というものだ。中学生の航にとって、スマホの値段は大変大きな金額である。今回のテストだけでもがんばれば、新型が手に入る。それは航にとってこの上ない動機となっていた。


 二人が(正確には航だけだが)勉学に勤しんでいると、二人組の女の子たちが店内へと入ってきた。航は、横目で女の子たちを見てドキッとし、ペンを動かす手が止まった。同じクラスの永井真奈美と櫻木由紀だった。


 真奈美はほっそりとした体格だが、弓道部に所属しているスポーツウーマンだ。人は見かけには寄らない、ということを証明している。航は、一度だけ真奈美が弓を射る姿を見たことがある。それは、普段おっとりとしている真奈美とは別人のようであり、とても凛とした姿に目を奪われた記憶がある。


 由紀はクラスでも学級委員を務めている、しっかりした性格の女の子だ。容姿は小柄で柔和な顔立ちだが、こちらも外見に似合わず強気な性格で、時に厳しいところもある。


 「あれ?向井君たちじゃない?」

 由紀が博仁たちに気付き、隣にいる真奈美に声を掛けた。


 博仁も真奈美たちに気付いたらしく、航に声を掛ける。

 「あれ櫻木たちだぜ。学級委員もこんなところで勉強か?」

 航は何も言わなかった。ただ俯いて教科書を眺めていた。


 すると、ドリンクとポテトをトレイに載せて、真奈美たちが航たちの方へとやって来た。

 由紀が博仁に向かって言った。

 「こんなところで勉強してるの?」

 「こんなところで悪かったな」

 博仁が言い返す。

 「お前たちも勉強しに来たのか?」

 由紀がうっすら笑みを浮かべて言った。

 「まさか。私たちは息抜きよ。一夜漬けなんてしなくても、日頃から努力してますから。誰かさんと違ってね」

 「チェッ、言ってくれるよ」

 博仁が肩をすくめる。


 すると、真奈美が航の方を見て言った。

 「渡辺君も勉強しているの?」

 航が小さな声で呟いた。

 「えっ、あ…うん。こいつに付き合っていたんだ」


 実は、航は真奈美に密かに恋心を抱いていたのだった。

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