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俺が主人公だったのは過去の話  作者: 無頼音等
フリーターのお仕事編
6/19

フリーターは朝に目覚める

 ――俺の朝は、基本的にメリーの【コール】から始まる。


 『もしもーし! 起きてますかー? 私メリーさん。今、貴方の家に向かっているの!』

 「……おはよう。朝っぱらから元気だな」

 『だってケイスケとお話できるんだもん! テンション上がって欲情しちゃうよ!』

 「……今すぐテンション下げろ。じゃないと家には入れないからな」

 『はいはーい。了解しましたー』


 遠隔会話スキル【コール】。

 このスキルがあれば、今のように登録した相手といつでも何処でも話すことが出来る。

 まあ、俺の世界で普及していた携帯電話みたいなもんだな。おまけに声が直接頭に響いてくるから、朝の目覚ましには最適なんだ。

 こうして俺は起床し、寝巻きから適当なズボンとシャツに素早く着替える。そしてこの後は一階のリビングに降りて、いつものように朝のモーニングコーヒーを淹れるわけだ。勿論ミルク入りで。


 「……ん? んん!?」


 ところが、今日に限ってコーヒーを淹れる為のカフィ豆が切れているようだった。何処かにストックが無いかと探してみても見つからない。

 ……う、嘘だろ? あの一杯が無いと働く気になれないのに……!

 俺は両手両膝を地面について溜息を吐いた。

 しょうがない。メリーがやって来たら、久々にドリップさんの所に足を運ぶか。


 「わきゃああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 「お、流石はメリーだ。タイミングばっちりだな」


 とある変態の不法侵入を防ぐ為に、家の扉には俺が作成した防犯アイテムを仕掛けてある。

 これぞ盗賊破りのトラップアイテム『守るんデス』だ!

 【ピッキング】を発動した者に雷系のダメージを与えるという、至ってシンプルな効果だがその威力は絶大。

 例えレベル150越えのメリーであってもこれに耐えるのは不可能だろう。

 俺は自作アイテムの出来に満足して笑った。

 え? メリーがどうなったかって? ……気絶してたけど、見た目に問題は無かったから大丈夫だろ。







 ロンディアは王城を中心として広がった円環状の都市だ。

 そして都市の中央部にある王宮区以外には、隔たりとなる壁が存在しない。

 簡単に言えば、貴族も庶民も同じ区画内で暮らしているということだ。

 だから貴族の館と庶民の家が隣同士、というシュールな光景もこの都市の中では珍しくない。

 他にも色々とごちゃごちゃしていて雑多な街並みが形作られている。その光景はある意味、この都市そのものが一つの迷宮のようだ。

 これはまさしく、「強さが全て」という理念を持っているからこそ成り立っている構造だろう。

 強い奴は尊敬されるし、弱くても努力している奴は応援される。そして弱いままでも平気なフリーターは影で色々蔑まされている。……嫌な社会だ。

 とにかく、強さの前では貴族も庶民も関係ない。身分なんて些細な問題なのだ。

 そういう理由でこの王都には王宮区と国民区、という二つの区画しか存在しない。


 「やれやれ。如何にも野蛮そうな庶民ですわね。同じ女性にしては品位が欠けていますわよ?」

 「何馬鹿なこと言ってんの? どうせ皆ケダモノじゃない。好きな相手に欲情して合体したら品位なんてクソ喰らえだよ。貴族様はそんなことも分からないの? 馬鹿なの?」

 「に、二回も馬鹿と言いましたわね!? 貴方の方こそ馬鹿っぽいじゃないですか! 訂正なさい!」

 「残念でしたー! 私はエルフに並ぶ英知の魔法種族、精霊なんですぅ!」

 「精霊……あ、思い出しましたわ! 貴方、半年前にわいせつ行為に及ぼうとして捕まった性犯罪者ですわね!」

 「えへへ! そんなに褒めてもケイスケは渡さないよー」

 「褒めてないし、誰のことを言ってますの!」


 ……まあ、いくら強さが重視された社会と言っても、貴族と庶民の間で諍いが起きないわけじゃない。

 たまには品位がどうのこうのっていう理由で、喧嘩に発展することもある。

 というかあのクソ精霊は何やってんだコラァアアアアアアアアアアアアアア!


 「どうもすみませんでしたぁ!」

 「ぎゃふん!?」

 「な、なんですの!? 一体誰なんですの!?」


 俺は迷わずメリーにバックドロップして、全力で貴族の女に謝罪した。

 それが功を奏したのだろうか。彼女は俺の名前を聞いた後に、ギルドに俺指定の依頼をすると言ってくれた。誠意ってやっぱりどの世界でも大事なんだなぁ。

 そんなことを考えていたら、メリーが涙目で俺を睨んできた。


 「……ぶつかってきたのはあっちの方なのに」

 「え? ああ、えっと、ごめん」

 「キスしてくれたら許す」

 「……間接でもいい?」

 「……仕方ないですなぁ。じゅるり」


 どうやらさっきの諍いの原因は相手側にあったらしい。いつも問題を起こすのはメリーの方だったから、ついメリーだけを責めてしまった。

 こいつが泣く時は本気でショックを受けている時だ。これは俺の方が悪い。

 まあ、間接キスくらいならこれから行く場所で何度でもやらせてやるさ。限度を超えたら強制終了させるけど。

 

 「えへ! えへへへ! えへへへへへ……!」

 

 隣を見るとメリーの様子が何処かおかしくなっていた。

 何も知らない人が見たら……いや、こいつの変態性を知ってる人が見ても、薬でラリッてるヤバイ女にしか見えないだろうな。他人のふりでもしておくか。

 こうして俺達は、ロンディアの一角でひっそりと経営している喫茶店『黒猫屋』を訪れるのだった。


王都の構造はお菓子に例えるとドーナツみたいなものです。

真ん中の穴の部分が王宮区。輪になっているドーナツ本体が国民区となっています。

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