俺がまだ主人公だった頃の話
プロローグのプロローグ。所謂「はじめに」ってやつですね。
――俺がこの異世界を旅していた頃、間違いなく俺がこの物語の主人公だった。
異世界の神秘に幾度も触れ、迷宮に赴き、危険と対峙した。
不慣れな剣を装備して、凶悪な魔物と日々激戦。
時には仲間に助けられ、時には俺が仲間を助けた。
楽しい日々。辛い日々。嬉しい日々。悲しい日々。
そこには出会いがあった。偶然と奇跡があった。辛い因縁があった。
魔法に憧れ、英雄を尊敬し、冒険に夢を見た。
間違いなく全ての中心に俺がいたんだ。
俺こそがこの世界の主人公だった。
だけど、未来永劫主人公でいられる奴なんているわけがない。
俺もまたその一人だ。
願いは叶えられず、夢は覚め、冒険は終わりを迎えた。
そうして俺は平凡な日常を普通に暮らす……モブキャラになったんだ。
就職しないで、ギルドに紹介してもらった仕事で小銭を稼ぐ。
今の俺はそんなフリーター生活を続けている。
だからはっきり言おう。
【二刀使い】はもういない。
*****
星の数ほど散らばっている幾多の平行世界。
そのうちの一つ、地球。
その世界に住んでいた一人の少年は、ある日別の平行世界に落ちてしまった。
空から迷宮が降り注ぐその世界の名は、『アースヴェルト』。
そして……。
元の世界に帰る為、『アースヴェルト』に数々の伝説を作った二刀使いの名は。
ケイスケ……と言った。