俺に子供はいないはず
「…そんな目で俺を見るな」
「そんな事言ったって不潔なお兄ちゃん。イカガワシイことをしちゃったんでしょ?」
「ああ、お母さんは、こんな無精な息子を育てた覚えはないのよぉぉぉ」
「待てよ!これ、俺の子なのか!?俺の子になっちまってるのか!?」
おいおいと号泣する母親と、まるで俺を汚れ物の様な目で見る妹が、そこにはいた。
ただいま、と入るや否や、幼女を見たこの2人。
2人で盛り上がった結果は以下だ。
不純異性交友を行った俺が、女に子供を産ませた。
今まで育ててきた女は、何か理由があって手放し、俺が育てることになった。
だから、連れてきた。
何から何まで間違いだらけなんだが。
俺の正論を聞きもせず、目の前で2人は喜劇を繰り広げている。
「ねぇ、お兄ちゃん。どこの女に産ませたの?お兄ちゃんに全然似てないから、母親似かなぁ?」
「あらそう?この辺、お母さん似だから、やっぱり息子の子よ?」
「ええー!?そうかなぁ?」
「だから、俺の子じゃねぇってんの」
「んー…でもさ、独特な目の形してるよね?」
「そうねぇ、きっとこの辺りは母親似なのねぇ」
「えいっ」
妹にぷにっと頬を触られる幼女。
「きゃあああああ、ぷにぷにー!」
意味の分からない悲鳴を上げる妹に対し、何をされても一言も発しない幼女。
俺はなんだか違和感を感じつつ、妹の手を跳ねのけ、言う。
「だから、俺の子じゃない」
「またまた冗談はダメよ、お兄ちゃん」
「冗談を言ってるのは、お前達の方だっ!」
「パパぁ、おばちゃん達怖いよぅ」
「誰がパパだ!!!!!」
思わずツッコミを入れ、はて、と俺は耳を疑った。
パパ?パパと言ったか?この幼女。
母と妹の顔が、やっぱりね、と言いたそうにしているのは、この際、気にしないでおこう。
「パパぁ、おなかすいた~」
俺の脚に抱きつく幼女。
にやりと不敵な笑みを妹や母親に見えないように浮かべ、わざとらしく口を開く。
「ねぇ、パパぁ、お・な・か・す・い・た!」
「あらあらあら、お腹空いちゃったのね、待ってて、今、おばあちゃんが作ってあげるわ~」
「私も、私も手伝うー!」
そう言って、2人はパタパタとキッチンに姿を消した。
しーんと静まる玄関。
そんな玄関に取り残された俺と幼女。
「…だから、誰がおばあちゃんだ」
俺は1人、呻く。
あれだけ散々罵っておいて『おばあちゃん』と発言する母に疑問を感じてしまうんだが。
なにはともあれ、理由はどうあれ、孫という存在は、嬉しいものなのか?
その場から動けずに立ち尽くしていると、がちゃりと後のドアが開き、そこには驚いた顔の父親が居た。
そして――…。
「ああ、帰ってたのか。ん?お前の子か?」
父よ、あんたまで俺をそんな目で見てたのか。
そのセリフに俺は脱力してしまう。
俺の家族は、誰ひとり俺を信用してないらしい。
「おじいちゃん!」
「待て――!!!!!」
父に飛びつこうとする幼女を制し、俺は父を見上げる。
「なんだ、いいじゃないか」
受ける気満々だった父は、手を広げたポーズのまま、俺にそう言った。
「いや、俺の子じゃないし」
「しかし、今、おじいちゃんと」
「こいつ、おじいちゃんしか言葉知らないんだっ!」
「パパはアホです、おじいちゃん」
俺は。
俺の努力を尽く踏みにじる幼女の行動に、絶句した。
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