妾は竜女じゃ!
「で。なんだって?」
「何度、言わすつもりじゃ!妾は、竜女じゃ!竜と対を成し、竜の半身ぞ!竜が眠っておるのに、妾だけ森を抜け出す訳にはいかぬのじゃ!」
それは確か10回目…くらいの、確認だった。
俺は、こんな森の中にいてもアレだからと、幼女の手を取り歩き出そうとしたのに、この「竜女じゃ!」と言ってる幼女は、竜が寝てるから森から出たくない、と言い張った。
俺には、悪いことをして両親に叱られたくなく、家に帰りたくない言い訳をしているにしか聞こえないんだが…。
「でもおかしいのじゃ…妾が目覚めておるというのに、竜は眠ったまま…なぜこんなことが起こってるのじゃ?やはりこの人間か?……むぅ、見るからにアホじゃ、それはないと思うのじゃが…」
なにかブツブツ言っている…おまけに馬鹿にされたような気もするが…それを無視して俺は、幼女を抱き上げた。
「な…!無礼者!なにをする!!」
「うっさいなー。街へ行くんだよ、家を教えろ、連れて行くから」
「お主はアホか!妾に家族なぞおらぬ!妾の家族と言うべき存在は竜のみぞ!それも知らぬとは、なんたる愚かさ!おろせ!おろすがいい!妾は竜の傍から離れてはならぬのじゃっ!竜よ!目覚めたもう!我が半身よ!竜がおらねば、妾は生きてはいけぬ!」
しっかし力の強い子だなぁ、などと感想を抱きつつ、幼女が叫ぶ言葉に関心を持たず、俺は暴れる幼女を連れ、その場を立ち去った。
暫く歩いていると、あんなに騒がしかった幼女が、今度は気味悪い程静かになっていた。
流石の俺も心配になって幼女の顔を覗く。
「不思議じゃ…生きておる…」
「なんだそりゃ?当たり前だろ」
「なにが当たり前じゃ、愚か者」
頬っぺたをぶぅーと精一杯に膨らませ、俺を睨む幼女。
まぁ、なんだ。
これはこれで可愛いと思ってしまった俺は、犯罪者予備軍なんだろうか。
「…そうか。そういうことなのじゃな?」
「なにがだよ」
「聞け。お主が、妾を目覚めさせた」
「いや、俺、完全にお前に触れる前で、起こす直前だったんだけど?」
「喧しい。黙っておれ。よいか?お主が妾の前に現れたから、妾は目が覚めてしまったのじゃ。それはつまり、お主にはなにか、こう、そう、言うなれば『使命』があると、感じるのじゃ」
「なんだよその使命って。お前を連れて行って親御さんに叱られるのを止めることか?」
「…お主、あれだけ妾に話させおったのに、忘れたと申すのか?」
「あ~…竜が眠ったままがどうのこうので…」
「そう、それじゃ」
半目で睨まれ、俺は思わず先ほどまでこの幼女が言い訳していた内容を言ってみる。
すると幼女はうんうん、と頷き。
「竜と離れて妾は生きていけぬ。しかし、妾は生きている」
「?」
不思議な言葉に俺は眉を寄せた。
生きていけない…?
そういや、あの暴れてる時もなんかそんな事を言っていたような…。
「うむ。お主は竜になるやもしれぬ」
「……は?」
あまりに唐突なことに俺は、またしても絶句した。
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