おじいさんとたぬき
むかし、むかし、あるところにおじいさんが一人さびしく暮らしておりました。
今日もおじいさんは一人さびしく食事をしていると、トントン、トントン、と玄関を叩く音が聞こえてきました。
「はて、だれか訪ねてきたのかのお?」
おじいさんは玄関を開けました、しかしそこには誰もいません。
外は雪がしんしんと降っています。
「わしの勘違いじゃったのかのお……」
おじいさんは残念そうに言って、扉を閉めようとしました。
すると、「待ってください」と声が聞こえてきました。
おじいさんが声のした方を向くと、そこには一匹の子だぬきがいました。
「親とはぐれて、道を歩いていたら雪が降ってきたんです。雪が止むまででいいんです、どうかここで温もらせてくれませんか?」
とても寒かったのでしょう、子だぬきの体はぶるぶる震えていました。
「いつまでも、おったらええ。外は寒かったじゃろうに。さあ、中にはいりなさい」
子だぬきはペコリとおじぎをし、おじいさんの家に入ってゆきました。
おじいさんはまず雪でぬれた子だぬきの体をふいてやり、あたたかく、おいしいごはんを食べさせてあげました。
子だぬきはお礼にとおじいさんにいろいろなお話をしました。
たとえば地蔵に化けて人間からお供え物をもらったとか、隣の山のキツネの子供と化かしあいをしたとか……
子だぬきの話をおじいさんはうれしそうに聞いていました。
しばらく子だぬきの話を聞いていると、再びトントンと玄関を叩く音が聞こえてきました。
おじいさんが扉を開けると、そこには女の人がいました。
「ここにうちの子が来ていないでしょうか?」
女の人が尋ねました。
「人間の子はしらんのお、たぬきの子なら来ておるのじゃが……」
おじいさんが答えると、子だぬきが「おかあちゃん!」と言って女の人に駆け寄っていきました。
女の人は子だぬきを見るとホッとした顔をして、みるみるうちに毛むくじゃらになっていきます。
なんと女の人はたぬきが化けていた姿だったのです。
「本当にありがとうございました。このお礼は何といったらいいのか……」
「いいんじゃよ、わしも久しぶりにたっぷりと誰かと話せてうれしかったしのお」
母親だぬきは深々と頭を下げてお礼を言い、子だぬきを連れて雪の中に消えてゆきました。
その日からおじいさんの家には毎日、客が来るようになりました。
客といっても人ではなくたぬきなのですが。
たくさんのたぬきがおじいさんの家にやってくるようになったのです。
たぬきたちは、山で採ったキノコや山菜、川で捕った魚なんかを持ってきておじいさんを喜ばせました。
そして、いろいろなものに化けたり、街でみた演劇をおじいさんの目の前で演じたりして、楽しませもしました。
おじいさんはもうさびしくありませんでした。
ある日おじいさんが病気にかかりました。
たぬきたちは人に化けてお医者さんを連れてきました
お医者さんはおじいさんの病気は治すことができないといいました。
たぬきたちはとても悲しみました。
それでも、たぬきたちは一生懸命おじいさんの看病をしたのです。
山で採った薬草をおじいさんに飲ませたりもしました。
しかし、おじいさんは死んでしまいました。
おじいさんは幸せだったとおもいます。
たくさんの家族に見守られながらこの世を去ったからです。
たぬきたちはおじいさんの家で一晩中泣きました。
次の日、たぬきたちは自分たちの住む山に帰って行きました。
おじいさんの亡骸をつれて……
たぬきたちはおじいさんがさびしがらないように自分たちのすみかの近くにおじいさんのお墓をたてたのです。
もしたぬきのすみかの近くにお墓があれば、そのおじいさんのものかもしれません。
おしまい
拙い文章で読みづらかったかもしれませんが、最後まで読んでくれてありがとうございます。