第二話
「おはよう、父さん母さん」
「おはようレン。まず寝癖を直してきなさい」
そう言われ髪を触る。確かに跳ねている。
これではみっともないな。
洗面所に走り髪の毛の根元を濡らす。この体になってからは寝癖がひどく。毎日こうしている。
しかし便利な世界だと思いながらスイッチを押す。これは電気と言うものらしい。前の世界には存在しなかったものだ。壁に出っ張りがあり、それを押すだけで天井の備え付けられている照明が点灯する。
髪をぬらし、ついでに顔も洗っておく。石鹸を泡立たせ顔につけてこする。蛇口をひねると水が出てくる。その水で泡を洗い流す。これも便利だよな。前世ならば川で洗うか、水を汲んでくるかしか方法がなかったよな。水が流れるのを止めるため蛇口をもう一度、今度は逆の方向にひねる。
これで綺麗になった。
すぐに居間に向かうそこにはさっきと違い父さんが座って新聞を読んでいた。
「おはようレン」
「おはよう父さん」
いつの間にか母さんだけでなく父さんも席についていた。今日の朝刊を読んでいる。日付は二千二十年四月一日、新聞紙の名前は『今日のルクサリオ』、この国一番の新聞である。父さんは真ん中辺りを読んでいるので一面が良く見える。一面はどうやらあの連続魔法殺人事件らしい。
「最近は物騒になってきたなー」
俺の視線に気付き一面を見直す父さん。
父さんが一面を読み始めたので俺は見えなくなったので、テーブルにあるパンを持って食べ始める。
「何か知っているの?」
「いや。だがちょっと頻繁になっているから警備を増やすらしい。なんで夜はたまに出かけなければならん」
そう、ここで俺の家族を紹介しよう。
父さんの名前はレッド・フォルティンガー。職業は警備員、というか騎士だ。この国を守る騎士様をやっている。正直強い、一応自分の隊を持っているらしい。階級は騎士小隊長らしい。
「確かに怖いわね。ちょっと外出を控えようかしら?」
こっちが母さん。母さんの名前はフィリア・フォルティンガー。職業は主婦、副業でちょっとした薬を作っている。もちろん危ない方の薬ではない、傷薬とかそんな類のものである。昔は治癒術師だったらしい。
「いや大丈夫さ。俺が守ってやるからな」
「ふふ。あなたったら」
まだまだ新婚ラブラブな感じを出している。
これでも子供が俺を含め二人いるのだ。
「おはよう、お兄ちゃん!」
それでこっちが俺の妹シャーラ、マイ・ラブリー・エンジェルである。
二歳下。ちなみに夢は母さんのような治癒術師になることらしい。
「おはよう」
そして俺がレン。16歳、見習い魔法使い。本当は父さんが騎士なので俺も騎士になりたかったのだが、あまり剣の才能はなかったらしい。どうやら母さんの血を濃く継いだそうで魔法使い向きだったのだ。結局前世と一緒である。
逆に妹は魔法使いになりたかったのだが、父さんの血を継いだそうでガッツリ騎士向きである。剣に関しては俺とシャーラが戦ったら俺が負けてしまう。だが純粋な戦闘であれば別である。
「さて、ごはんにしましょうか」
◇◆◇◆◇
「ごちそうさまでした」
母さんにそう言い皿を台所まで運ぶ。それに続いてシャーラも自分の皿を運び流し台に置く。
後ろを振り向きシャーラの顔を見る。顔が綻んでしまう。対するシャーラは意味がわからないような顔をする。俺はタオルを取りシャーラの口元を拭く。
「ほーら、急ぎなさい。学校初日なのだから遅れてはダメよ!」
「「はーい」」
タオルをキッチンの台に置き部屋に走りカバンを掴み玄関に行く。同時に妹も来る。
今日から俺はルクサリオ魔法学園の高等部の新入生である。シャーラはルクサリオ騎士養成学園の中等部の二年生である。後輩ができると言ってウキウキしていた。
「それじゃあ行って決ます」
「いってらっしゃーい」
母さんに見送られ通学路を妹と一緒に歩く。実は魔法学園と騎士養成学園は同じ敷地内にあり校長も同じ人物である。普通は仲良くやるものなのだが、あまり仲は良くない。ってか悪い、この上なく悪い。聴くところによると毎年行われる学園祭や各種大会では闘志を燃やしているらしい。くだらないけど競争相手がいたほうが実力は上がるものだ。
「お兄ちゃん、着いたよ」
俺は大きな門の前で止まる。その中には色々な生徒が歩いており、木々は花を咲かして吹き乱れていた。風が吹くと花びらが落ち綺麗な吹雪となる。
ここからまた新しい人生が始まるんだ。前とは違って平和で俺も戦う必要性がない。
――前世では歩めなかった道を歩んでみよう――
それが俺の願いであった。
だが、早速それが崩れかけていた。
「やっとみつけたぞ!ロドリック・カブライン!」
俺は反射的に振り向いてしまう。
そこには銀髪で髪の毛の先に緩いウェーブがかかった女の子がいた。おそらく俺と同じ年齢のように見える。だが問題はそこでは無かった。こいつは俺の前世の名前を知っている。汗が流れ始める。
「もしや私を忘れたのか?私の名はアルテリア。貴様が殺した魔王だ!」
忘れるはずがない。いや忘れられる訳がない。
魔王アルテリア、最悪だ。こいつも来ていたのか。ここで戦闘になったりでもしたら大変だ。まだ俺は全盛期の半分の力さえ取り戻していないのに。
なので俺はもっとも有効的かつ卑劣な手段を使う。
「あの、誰ですか?」
「は?」
他人のふりである。
これで何人もの変人を避けてきた!案の定アルテリアは口をぽかんと開けている。よし逃げるぞ。俺はシャーラの背中を押し校門をくぐり行こうとする。
「あ、ちょまっ、待て!嘘をついても無駄だぞ!私は知っているんだからな!」
後ろから何やら声が聞こえるが知らない知らない。
妹にあの人は誰か聞かれるが、ただ一言。
「変な人だよ。関わっちゃ駄目だよ」
シャーラと別れ魔法学園の校舎に向かうが、まだ後ろからやつはついて来ていた。
俺は後で気付く、校門の前で壮大なフラグを建ててしまった事に。
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