第五話 姉の思春期
第五話 姉の思春期
わたしの誕生日を祝った晩餐会から三週間が過ぎた。
貴族としてのお披露目はどうやら大成功だったみたいですでに何件もわたしと婚約したいとの申し出まで着たみたいだ。
ただ、母さんとしては6歳になったばかりの大事な目に入れても痛くないほど可愛い息子をどこの馬の骨とも知れない女に嫁がせるなんてもっての外らしく婚約の申し出は全て断っていた。
この世界には写真がないのでお見合い用に描かれた肖像画を何枚か見せてもらったが、どの女の子もだいたい10~16歳の美少女でこんな可愛い女の子とイチャイチャ出来るのかも知れないと思ったのだが残念だった。
お見合いの肖像画の女の子たちはみんなとても可愛いく地球だったら超人気アイドルにだってなれそうなほどの子ばかりだったが、この世界ではあれくらいの容姿の女の子は平凡な部類の容姿に入るらしい。
どうやら、この世界はそんなところも異世界のようだ。
わたしとしては嬉しい限りだけど。
まあ、母さんは肖像画は実物の3割増しよとも言っていたが。
そして、どうやらそんな地球より飛び抜けて容姿レベルが高い世界でもわたしは傾国の美貌を持つ男の娘なのだそうだ。
家格として明らかにスタッカート伯爵家と釣り合いが取れないほど高貴な家からも婚約の申し出が来たほどにはわたしの容姿は優れてるらしい。
だが、母さんとしては跡取りである姉さんはともかくわたしには恋愛結婚をして幸せになってほしいそうだ。
自分が亡くなった父さんとは政略結婚で禄に恋愛ができない青春を過ごしたのをたいそう悔やんでいるらしく自分の子供にはそうであってほしくないらしい。
もちろん、貴族としての旨味がある結婚だったらうれしいとは言ったが。
そして、週に何枚かのお見合い用の肖像画が送られてくるようになった我が家では、現在何の因果か姉さんの思春期が始まっていた。
「エルニ。私、剣の練習で汗かいちゃったんだけど、一緒にお風呂入らない?」
えへへ、と微かに笑いながらわたしの腰に両手を回してくる姉さん。
最近では事あるごとにボディタッチをしてきて、特に胸や腰回りをさり気なく触ってくる。
「姉さん。わたしは別に汗をかいてないから一人で入ってきたら?」
「別に汗かいてなくってもいいじゃない。一人で入るのは寂しいからお姉ちゃんの背中をながしてよ~」
今みたいに下手くそな誘い方でわたしの裸をみようとしてくるのだ。
「しょうがないなぁ。姉さんがそこまでいうなら背中ながしてあげるよ」
「え、ホントっ!?」
姉さんは私の四つ年上の10歳だ。
このくらいの年頃なら姉弟でお風呂に入るのも珍しくない。
「じゃあ、お風呂にいこっか?」
「う、うん。ごくり」
前世では撫子道という花嫁修業のための特殊な修道を修めていたわたし。
その修行内容は、母・妻・一人の女性として立派に家庭や社会で活躍出るように技術や知識や教養などを身につけること。
古くは平安時代の貴族の女性に教えられてきた内容を明治の文明開化の折に新しい時代に相応しい形で編纂・改革された。
近代撫子道は、母として役割に重きを置く櫛灘流、妻として役割に重きを置く夜霞流、一人の女性として社会で活躍することに重きを置く色花流の三大の流派に分かれて、明治以前の古式撫子道とは区別をされる。
前世の私は戦後以降初めて三大流派を全て最高位まで極めた人間として大和撫子協会から唯一位を授かっていた。
そんな私は、仕事して女性の権利の拡大・現代教育・社会での活躍の推進のために色々奔走していた。
その中には若い女性の性教育・恋愛教育などもある。
女性が幼い内から正しい性知識・適切な恋愛のお作法などを教える為に、小学生~高校生の女の子たちとさまざまな交流をしていた。
その交流の一環として女の子たちとお風呂や温泉に入るような事もやっていた。
もちろん、こんなのは普通の男性がやったらセクハラや青少年健全育成条例ですく逮捕になるようなもんだろう。
しかし、当時から何処からどうみても女性にしか見ない絶世の男の娘だった私は、この手の類のバッシングや訴追は一切受けたことがなくむしろ社会から好意もって受け入れられてきた。
解せぬ。
そんなわけで、小さな女の子裸なんて見慣れているわたしはチェルシー姉さんの裸くらいなんともないのだ。
けっして邪な気持ちでお風呂に入るわけではないんだ。
「姉さん。お湯気持ちいいね。」
「あ、ああ。え、エルニ。き、気持ちいいね」
お風呂で湯船に浸かりながらわたしの裸をガン見して今にも鼻血を吹き出しそうなほど顔を真赤にしている姉さんをみながら、そう思った。
異世界生活、始まったコレ。
そう思った。
第五話了。
もちろんエルニは邪な気持ちなどありませんとも、ええ。