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第三話 カインズの法則

第三話 カインズの法則。


 三年前のあの日。

 

 わたしの記憶が始まった時からすでに、エルニ・アストルテ・スタッカートは月詠瑛歌としての記憶と人格をその身に宿していた。


 わたしとしての自覚が生まれた時にまずしたことは、かあさんと一緒のベッドでぐずりながら眠ることだった。


 寝ているときは、大好きなかあさんに抱きしめられて眠ることで、言葉では表わしようもない安心感に包まれていたのだけれども。翌朝、かあさんのベッドで目覚めた時にはすでに月詠瑛歌としての記憶と人格を思い出していたから、薄い夜着を着て下着が透けている妙齢の絶世の美女(金髪)の胸に顔を埋めている状況に思わず反応してしまいそうになったよ。


 幸いなことに三歳の身体は性のセの字も知らなかったので、事無きを得たのだけれども。



//・・・・・・//


 わたしと言う自我が目覚めてからしたのは大人の精神での現状把握だった。


 わたしはサルヴァート大陸のリンカード王国、スタッカート伯爵領の長男として産まれた。

 家族構成は30歳程の金髪絶世の美女の母、スーア・ミルクホル・スタッカート伯爵に四歳年上の母に似た金髪美人さんの姉、ミルニア・チェルシー・スタッカート。

 父親は既に亡くなっていた。


 また、白真珠の間で神じーさまが言っていた転生ボーナスもおそるおそる確認した。


 寝室の姿見で確認したわたしの容姿は、背中まである白銀の絹ざわりの長髪。神々が心気を惜しげも無く注いで創りあげたかの様な、美しく可愛らしい気品ある顔立ち。瞳は吸い込まれそうなブルーサファイアだった。


 どう見ても、完璧に美しい最高の男の娘でした。しかも、前世のわたしにちょっと似てるし。うぅっ。

 

 鏡の前でうなだれる姿も絵になっていたよ……。


 しかし、期待していたモテモテ人生が早くも座礁してしまったと思っていたのも束の間。

 その後の三年間で貴族教育を受け、異世界常識を知ったわたしは衝撃の事実に驚愕を覚えた。


 なんと、この世界は見事なまでに女尊男卑で、地球とジェンダー・アイデンティティが真逆だったのだ。


 このことを説明するには、四百年前に起こった魔導革命から説明しなければならない。


 当時のサルヴァート大陸には魔法と呼ばれる不可思議な力を扱う人々がいた。

 しかし、それは特別な少数の人々に直感的に行使されるだけで、技術や理論の体系化と分析はなされていなかった。

 だが、サルヴァート大陸の西にあるカルヴァル列島で産まれた魔導学、通称魔学が貿易相手のサルヴァートの各国に流入した。

 魔法の体系化や原理や発展系の研究という概念が花開いたのだ。

 もちろん、カルヴァルでもすでに行われていたのだが、カルヴァルとサルヴァートでは人口も経済規模もまるで違うので、サルヴァートの豊富な資金力と人材で大々的に研究開発が行われ、その発展の速度はカルヴァルの比ではなかった。

 これが世に言うサルヴァート魔導革命。


 時は進み、その百年後。

 ある一人の魔学者の研究により、世にパラダイムシフトが起こる。


 それまでのサルヴァート各国では、家を継ぐのは一家の男であり、女性は結婚したら家庭に入るといった男尊女卑の世界であった。

 しかし、魔学が発展し世の力は武力ではなく魔力に重きを置かれるようになっていた。

 そのような時分にカインズという学者が、人間の魔法資質は主に女性から受け継がれるという遺伝の法則。後にカインズの法則と呼ばれる研究結果を発表した。

 その研究は、それまで一家の長男がその血脈を守るという価値観を一掃し、優れた魔法資質は女性によって受け継がれるという新常識を産み出した。

 そして、それを真摯に受け止めた力ある貴族たちは、優れた魔法資質を持つ女性を一家の長に据えるという施策を実行していった。

 それにより力をつけた女性たちは女尊男卑の仕組みを作り、世の中に女性が力を振るい、男は家に入り家庭を守るという価値観が育まれていった。


 そうして、現在のカルヴァート大陸を含む世界各国では、女性の(前世で言う)男性的嗜好化、価値観化が進行していった。


 カインズの法則の発見から三百年後の現在。

 女性はわんぱくで良い、女性は男より(魔)力が強い、男はおしとやかが良い、男は女性に守ってもらう。などの価値観。

 さらに、女性が前世の男性並みに性欲を持っている。女は思春期を迎えたらエロいことしか考えなくなる。男性は女性に比べ性に慎ましい。という生態が形成されている。


 もちろん、ジェンダー・アイデンティティが入れ替わったからと言って、男性が弱くなったわけではない。

 今でも男は女性より優れた身体資質を有しているし、女性の方が魔力が強いが総合的な強さでは男女にそれほどの力の差は無い。

 しかし、有力な貴族果ては王族までもがその実権を握るのは女性という社会では、どうしても女性優位になってしまう。

 魔学の研究発展も著しいため、すぐれた魔法資質を持つ女性が凡百の魔法資質の男性を戦場でなぎ払うことが多くなっていた。

 たとえその魔法資質の差がそれほど開いていなくとも、少しでも魔法に長じることが戦力の差を大きく開けてしまうのだ。


 また、男性と女性の見た目も前世とそう変わらないが、この世界の女性たちは筋肉質で背の高いイケメンにはあまり興味を示さず、可愛らしい男性、(前世でいう)女性らしい男性を好む傾向がある。


こんな長々と説明してしまったが、わたしがこの事実を知った時の感想は一言に尽きる。


わたしの時代が、きたーー!! 


 前世では、撫子道という花嫁修行のための特殊な修道を極めていたわたし。

 世界お嫁さんにしたいランキングでぶっちぎりの王者であったり、女性としては完璧、男としてはゼロ点と言われたり。片思いしてた女性に告白したら、潤んだ目で「お姉さま……」と言われたり。小学校入学と同時に、PTAと職員による「第一次月詠瑛歌対策会議」が開かれ、男子児童として扱うか女子児童として扱う喧々諤々の議論が行われたこともあった。


 呪われた属性である「男の娘」を37年間貫いてきた。

 男性からは結婚を申し込まれ、女性からは憧れのお姉さまとして敬われ。妹はとっくに結婚して三人も子供がいるのに、わたしは未だ童◯……。


 ついに……、ついにわたしは女の子とチュッチュしたりイチャラブできる!!


 これぞ我が世の春だぁ!

 

 神じーさま、ありがとうこざいます。こんな楽園に転生させてくれて。

 

 そして、明日はわたしの六歳の誕生パーティーがある。


 うふふ、たのしみだなぁ。くすっ。


 第三話了


第三話投稿です。

かなり浮ついた話になっていますが、これからシリアスも増える……かも?

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