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臆病な僕は 2

前と同じ場所で座り込んでいるセイを見つけた。


「おかえりなさい〜」


考える前に声に出す私。

一緒に帰ってきたのにそれはないだろうって?

だって私よりも後で城に帰ってるんだからおかえりなさいでいいでしょ。


そんな違和感いっぱいの言葉に特に反応もなく(これは軽くムシだと思う)、彼は匂いに反応した。


「香でも焚いてたのか?」


この素敵な匂いに反応するとは、セイ君は女性の扱いを分かってらっしゃる。


「あー。王の香りなのよ、いい匂いでしょ」

「染み付いた血の臭いを隠すのはちょうどいい」


前言撤回。

口に出してないけど‥‥。

嫌な事を言う人だね、お部屋では上着脱いでるもん。


そんな事を言われると途切れてしまう会話。

もっと言葉のキャッチボールはうまく出来ないのかしら。

会話は出来てるよ、

私が素手でへろへろボールを投げ、彼が剛速球で投げ返すぐらいの会話は‥‥。


他の話題はと、ああそういえば‥‥


私はセイの左手に握られている刀を見て思い出した。


「そうだ。丁字油とか持ってない?」

「手入れ‥‥か」


森で使っちゃったんだもの。

しかも水浸しにしちゃったし。

手入れしなきゃ刀が錆びちゃうのに、ここには手入れの道具がない。

五年も愛用している彼なら、なんか持ってるはずだ。


「濡れたのは乾燥させれば良いけど、油はなんとも出来ないし、ほっといたらさびちゃうよう」

「あんたの刀は、模擬刀か?」

「居合刀だけど」


居合いに使うから居合刀。

多分女子高生が持つんだから真剣なんてこたぁないと思うけど。

先生が身長が低い私のために造ってくれた。

通常規格より短いし軽い。

模擬刀って言ってたような、忘れたなあ。


でも何故そんな問いかけ?


「居合いをするのか」


黙ってうなずく。


「居合いだって真剣使っていてもおかしくない。だが、その割りには軽いし固い。鋼とは違う良さだ、未来では刀に何を打ち込んでいる?手入れが必要である時点で鉄だとは思うが」


また難しい事言ってる。

饒舌なのは難しい話だけ。

知ってて当たり前の内容なんだろうけど、わからん。


「さぁ?」


だってー。

練習用に木製の居合刀と一緒に、先生が用意してくれただけだもん。


「そうか‥‥油だったな。待ってろ」


返事に残念そうなわけでもなく、

あんまり変えない表情のまま立ち上がるとどこかへ行って、直ぐ戻ってきた。

彼の部屋はこの近くなのだろうか?


「椿油?」


渡されたのはそんな名前のきれいな色の油。


「香油みたいな物だが、ここで俺が手に入れられるのはこれぐらいだ」


えー香油ーーー?

なにそれー。


「大丈夫なの?」


不安げに聞いてみるが、冷たく返してくる。


「俺の刀は錆びた事はない。まぁ真剣じゃなく俺は模擬刀だから、あんたのに合うかわからんがな」

なんてったって材質がわからないのだから、判断しようがないだろう!的な事だろう。

自分の持ち物を理解してない自分が悪いと言うわけですね。

無いものはしょうがない。

使わないで錆びるのなら、使って錆びるのも一緒だよぅ。


と言うことで、

刀を鞘から抜く。

手入れしないで乾燥させたから、滑りが悪い‥‥気がする。

いつもしてるように布で古い油を拭き取る。

濁った油分が布に染み込むが、思った通り量は無い。

カスッカスだったわけだよ。可哀想に。


借りた椿油を片手に持つとセイが「使え」と布を押し付ける。


いや、気持ちはありがたいんだけど、状況見てよ。

手は二本しか無いんだから、三個目の品物は持てないんだけど。


「手出して?」


そう言うと素直に手のひらをこちらに向けるセイ。

私はその手のひらに椿油を乗せ、差し出された布を回収し刃にあてる。

セイの布はすでに油が染み込んでいて補うように更に油を注いだ。

開封したと、同時に柔らかい香りがする。

油自体に匂いがするんだ〜。

なるほど、香油!



「ねえ、他の刃に使った布って使い回していいの?」


満足する所まで手入れを終え、鞘にしまってあげるとセイにお礼がてら聞いてみた。


「ダメだろうな」

「えー」

「だが、あんたは拭いた布で処理しようとしていた。それよりはましだろう」


彼の言うとおり。

拭った布の裏側で、新しい油を引こうとした。

だって、この非常時、きれいな布なんて沢山用意できなかったんだもん。

裏返せば大丈夫だって、刃に傷はつかないって、言い聞かせて〜。


ホントは駄目なんだよ。一回先生に怒られた人を見たことあるから知ってた。

知ってたけど仕方ないじゃない。


「油にしても布にしても、粉だって王に頼めば、なんとかしてくれるだろうに」

「だって、ロザリーに刀の事なんて頼みたくないもん」


なんとなく、武器の話を彼にするのは嫌だった。

布だって、手入れに使うなんて言えなくて、ハンカチって一枚、用意してもらったものだった。

困った事に、また嘘をついてしまっている。


「ロザリー?」

「あ、いや。こっちの話。

 でも、ありがとう。こんな話あなたにしかできなくて助かったわ」

「‥‥礼はいらない。刀の手入れは俺も当初悩んだからな」


セイが照れたように笑う。

珍しい。


じゃない。

この人笑ったのはじめてみたよ!

口角が少し上がった程度だけど、絶対笑ったの。


ただ、直ぐに戻る。

携帯あったら写メ物の出来事だ。


「居合いは独りで闘う業だったな」

「推定の誰かを想定するけど、演舞だし、闘わない」

「そんな技が実戦で役に立つとは」


ぶつぶつと小声で呟くセイ。

何いってるか聞き取れないけど、きっとよくない言葉だろう。


「何?」


なので、何を呟いてらっしゃるのか聞いてみた。


「いや。あんたの居合いが見たいなと思って」


な。なんですって!

無意識ないじめなんだろうか、軍人なんてプロじゃん。

プロに見せる技なんてあるわけない。


「見せれるほど完成してないし」


とりあえずヤンワリと断ってみた。

が、


「手入れした刀を使うのが嫌なら俺のを使え」


全然通じない。

この人、バカなの?


刀が問題じゃなくて、披露するのが恥ずかしいのですが、


それ以外セイは何も言わなくて‥‥


「使うなら自分のがいい」


根気負けした。

でも、制服だし、スカートだし、未熟だし、恥ずかしいんですけど。


「感想は言わないでよ。プロから見たら鼻で笑うレベルなんだから」


スカートだから、座礼は無しで。

少し身を屈めて左脇に刀を当てると前を向く。

相手は前方。

抜くと同時に急所を落とす。想像をする。

でも、まだ抜かない。

抜かずに倒せるかが大事。

でも抜かずに事なんて終わるわけがなくて、襲いかかってくる。

振りかぶってくる相手を想像して、身を屈めて刀を抜いて切り抜ける。


‥‥


なんて。

一通り、しちゃったよ。

これじゃあ見せたがりじゃん。


落ちた鞘を拾い、刀をしまうと、ゆっくりした拍手がされる。

流れなので、観客と大事な刀に頭を下げる。

が、やっぱり恥ずかしい。


「なるほど、切れがある」

「感想は、ダメ。聞かない。聞かない」


語りだしたセイの目の前で手を降って、耳を押さえて言葉を遮る。


「まったく。別人だな」


ふり続ける頭を上から右手で押さえつけられた。

何。この扱い。

痛い。痛い。


「だが、言わせてもらうし聞け。

 あんたの技や、殺気は正直素晴らしい。俺が身震いするほどだ。だが、敵は色んな方向から多彩な角度で攻めてくる。その想定はしてないだろう。

 後、人を斬ったらちゃんと血を払え」


誉めてくれたの?

貶してんの?

何言ったか聞き取れなかった。


頭。

痛いんだもん。

でも、とりあえず‥‥


「所感ありがとうございます?」


お礼だけは、言ってみる。

疑問符なのは、

何でお礼いわなきゃならないの的な反抗。


「聞いてないな」


だからバレた。

セイはため息をついて、私を解放する。


「まぁいい。時間があるときに組手の相手になってくれ」

「はい?何で?」

「俺が相手をしてほしいからだ。木刀は用意する」


勝手に相手になることが決定される。

どうせ断わったって聞かないのだろう。


時間があれば相手をすることに、ね。


でも、何となくセイの表情が軽くなった様な〜

気のせい?




椿油は香油じゃないです。正確に言うと。

でも、ツバキオイルってアロマは香油なのです。


作中の椿油はどっちなのかというと、楓さんの反応でアロマの方かな‥‥

んでも、アロマオイルなんか鉄に塗ったら錆びる気がする。


いや。駄目だろう!!

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【××× A good child, so do not imitate ×××】
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