たとえ自分の物でなくとも18
危ないって言われても、危険だって騒がれても、私ってば分かってなかった。
だって今まで危ないって、危険だって言われて、そのとおりだったことってなかったじゃない‥‥
あ、人の町に連れていかれた時は怪我とかしたっけか。
まぁでもね、なにかあっても気がついたらセイがなんとかしてくれて、結局ちょっと疲れただけだったし‥‥。
稽古だって、セイの殺気は怖かったけど、ちょっと気が抜けなかったぐらいで、、戦うってこんなものなんだって軽く思ってた。
こんなに。
こんなに怖いだなんて、思ってなかった。
痛いって怖いって、助けてって‥‥金属の音に混じって聞こえてくる。耳をふさいだって悲鳴は遠慮なく隙間から入り込んでくる。それは人間か妖精か、どっちかなんてわからない。
何で、こんな場所に居るんだろう?
城から出たいってわがままを言ったから?
危ないかも知れないって言うシンジュの言葉を信じてなかったから?
ゼンセンにたどり着く前に異質な匂いがする。
なにかが焦げる嫌な感じとか。
「ヤバい匂いが充満してるよね‥‥僕はこれ以上近づきたくないなぁ。セイ君見てきてよ」先に進むのを嫌がるシンジュに指示されてセイが先に行こうとする。
「まって私も」
置いていかれたくなくて、セイに声をかけた。
「お姫様はここでお留守番しようよ」
その行為をシンジュが止める。
シンジュが嫌な匂いだなんて一つしかない。
それが誰で原因がなんなのかはわからないけど、いっぱいいっぱい胸騒ぎがする。
だから確かめたくて、シンジュを置き去りにしてセイの走っていった方へ向かった。
いや、セイとはとっくにはぐれていて、私は自分を知ってる場所に走った。
そこは知っていた場所と姿を変えていて最初はよくわからなかった。
そりゃ一日にも満たない時間ふらふらと居ただけの場所をしっかり覚えているだなんておこがましい。
でも知っててもきっと気がつかないぐらい、
破壊されていた。
踏み固められた広場だった場所は、地面が抉れ、守るように囲っていた樹は倒れ、草地は焦げていた。
「これって‥‥」
なんだろう。
的確な言葉が思い付かない。
むかし映画とかでみた景色。
なにかが爆発して、そこら辺が吹き飛んだ的な。
映画は‥‥なんだっけ、戦国時代ものとか、外国の白黒のやつとか、あと有名なSF‥。
いろんな所でみた記憶がある。
そう。どれにも共通するのは、『争う』場面。
違うのは逃げ惑うエキストラさんが居ない事。
戦ってるエキストラさんが見当たらないだけ。
みんな何処に行ったんだろう。
ふらふらと知ってる誰かを探そうとして瞳を動かすと
「危ない! 避けろ!!」
誰かの怒鳴る声が聞こえてとたんに痛みが襲ってきた。
痛みの方向を目だけを動かして見たら、地面が抉れて異臭がする。痛む左足は黒く煤だらけになっていた。地面も少し焦げているように見える。
何が起こったのかは想像できなくて、どうすればいいのか頭も体も理解出来なかった。
「姫、何で帰ってきた!? ‥‥じゃない、早くここから動かないと」
視界を見知ったキャラメル色毛並みが埋める。
声はユーノだと直ぐに理解できた。
「ユーノ‥‥」
「足は痛むだろうけど、とりあえず逃げるのに走るよ」
そう言って彼は私の手を引いて走り出した。
嫌な匂い、わからない場所、戸惑う頭は抵抗もせず、引かれた手に素直に従う。唯一知っていた存在の彼に従わない理由は無かっただけだが、いつもの私ならきっと質問責めにしてユーノの機嫌を損ねていたに違いない。
■ ■ ■
気がついたらユーノは彼女の手をつかんで走っていた。
一日に近い、ほんの数時間前に恐ろしいと心の底から震え、自ら距離をとった相手をだ。
荒らされた前線にぼんやり立つ、汚れても逃げだす様子もないその姿は、小さな迷子が迎えを待っているように見えた。
昔の自分の姿と重ねてしまい、怖がった事実を忘れる。違うのは待っている立場から迎えに行く立場に変わっていること。
王の妃を危険な場所から救い出せる立場にあること。
王の役に立てるだけで、ユーノには普段以上の勇気が湧いてきた。本来ならば近寄り難い相手も、危険な場所も、湧いてくる勇気が危険回避能力を鈍らせる。
ユーノは怖がりだ。
なによりもなによりも自分の体が大事。自分の命が一番大事。
先の小さな事件。王の妃がかかわっているから大した事のない話しでも「話を聞いてくる」「指示をもらう」って行ってしまったレタルが王の下から帰ってくるまでに、前線は前方からの攻撃を受けた。
『前方からの攻撃を受けた』までしかユーノは分からない。
遠距離の投石に火薬がのった攻撃に地面はえぐれ、周りは燃え始め‥‥。
相手を特定し潰す為、戦士は前方へ進行して行く。
こんな場合、いつもなら近くに居るティコはレタルと出かけたまま。
ユーノやシュークルは本来ならば持っている機動力で相手の情報をいち早く探ってくるのが本来の戦い方だ。そう、本来なら、、
ユーノは皆とは逆方向に走って逃げたのだ。
だから、見たことしか知らない。
飛んでくる投石が壊した足場から少しでもマシな道を選び、できるだけ標的にならないように森が生えている場所へ進む。
荒され、誰も居ないその場所でふらふらと歩く楓を見つけ手を引いた。
卑怯であろうと大事な命だ。
逃げ出さなければユーノなど、息を吸う暇も与えられず、飛んでくる石に押しつぶされるに違いない。
「姫‥‥なんで戻ってきた。城に帰るよ」
「ユーノ‥‥」
崩れた岩が重なり合って壁のようになった場所で少し落ち着くとユーノはぽそりと小さな声で言う。
視線は楓からはずさない。逃げる時も今も、彼女の動きを見張る。
汚れた足からは特に血の臭いはしない。
かばって走る姿からは痛めていることは分かったが、走れないほどではない。森の中を歩くのは問題ないだろう。
「無理」
「無理ってなんだよ」
立ち上がらせようと手を取ると、眉間に皺を寄せて拒絶を表情にだす。
「ロザ‥‥王様達がお城の中に閉じこもってるから中に入れてもらえない」
「はぁ? 姫は妃なんだろ、傍においておくのが普通だろ」
「私は‥‥人間だから。入れてもらえない」
「人間だから‥‥‥‥傍においてもらえない」




