たとえ自分の物でなくとも 17
神原清が彼女の側にいる。
集まってくる獣たち対策にシンジュが側に居させてるのだとは知っているが、見ていてあまり良い気分ではない。
彼女が周りの獣たちに遠慮して、僕たちの時間を提供した。そんな彼女の気持ちを無駄にしたくないから、獣たちの指示に戻る。でも、彼女から聞きたいことや言えてないことだって沢山ある。
それでも、これから僕は彼女から、しばらくの間離れて行動をしなければならない。
それはきっと短い期間なのだけれども。
いつまでって約束できない期間だ。
だから、彼女を守るために
監視をつけなくてはいけない。
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「母上と虫どもの杞憂であればいいが、もしかしたらまた戦争が起きるかもしれない」ロザリンドは彼女を混乱させないように言葉を選ぶように気を付けていたが、焦る気持ちがそれを邪魔した。
「だから、安全のため僕らはここへ幽閉される。本当はカエデも連れて行きたいのだけれど‥‥」
「もう。お姫さまは必要じゃない?」
城の中には楓を連れて帰れないとはっきり言わないせいか、彼女は先を読んだかのような質問をした。
争っているのが事実なのだとしたら、戦況が変わるに連れニンゲンの姫はロザリンドたちの足枷になるかも知れない。
その可能性も考えた。
「不必要だなんて思ってない!!」
「あ‥‥と。違うちがう。そう言う意味じゃないから、あ、でも。そういう意味か」
自分の中で納得すると楓は言いづらそうに続きを語る。
「‥‥お姫さまは少し窮屈だから、ロザリーが許してくれるならしばらくこのままでも大丈夫かなって、でも王様が許してくれても、側にお姫さまが居ないと問題になっちゃうなら我慢しなきゃだめだし」
「有事であれば基本は幽閉したままだとおもうよ。だから‥‥なんとかはできると思う。カエデが望んでいるのなら」
本当は、本当に有事であれば手の届く場所で安心したいだろう。誰が注意しても聞かず、つれ回すだろう。
でも、それは叶わない。
今は、普段連れ回していた事をよく思わない彼らは、ロザリンドが彼女を部屋に閉じ込めていると勘違いしている。彼女が部屋に居ない事は極一部の者しか知らない。
誰もそれを確かめないのだから。
毛嫌いした存在の姿がなくとも周りはしばらくしたら忘れてしまう。
だから、彼女が望めばロザリンドは外に出してやることは簡単にできた。
「部屋に居るって思い込んでいる内は許される。母も存在は確認しているのだから、混乱を招くような事はしないと思う」
そう、姫が突然消えた時とは話が違う。替え玉はみんなを騙して、必要な人物には存在をアピールしているのだから、なんとでもできるだろう。
そう‥‥
なんとでもできるから、彼女の望む答えは『可能』だ。
「ただ、僕が素直に許せないのは、あなたの安全が保証されないことだ」
有事だったら、彼女だけでなく、森のすべてが危うい。本来ならば全部、壁の向こう側に連れていきたい。
だが、有事だから、人質の意味は無くなり。
中にいることで安全が危うくなる。
特に人間である彼女は。
人間に向けられる敵意から逃げられない檻の中に閉じ込めることになる。
それならば、範囲が広い分、外の方が幾分かましだ。
まぁ、森の全てを連れていけない時点で、ただの杞憂で終わってしまうのだが。小さな衝突がもうすでに嫌なのだろう。
「外は、そんなに楽しかった?」
「えっ? ある意味自由だしね」
城の外であったことというと、言いがかりをつけられたり、命のやりとりをした光景が脳裏に浮かぶ。それを楽しかったとは楓は素直に認めたくない。
認めたくないが、それを、ロザリンドに向けて正直に話すほど頭の回転が悪いわけでもない(自称)。目の前の王は、嫌だった出来事など説明した時点で、激昂しながら無理にでも連れ戻すに違いないのだ。
「そんなに僕の側は‥‥」
ロザリンドはそんな彼女の葛藤を知らず、窮屈かと言葉尻を捉えて返そうとする自分の言葉を飲み込む。これでは、ただ彼女を追い詰めるだけだ。
きっと、「そんなことない」っていいながらも本心など打ち明けるはずもない。
どちらにせよ、この壁のせいで、帰りたいと望まれてもすぐには無理だろう。ならば、彼女の好きにさせていると思わせておく方が得策である。
条件をつける理由にもできる。
「カエデ。前の約束はおぼえてるよね」
楓が頷くのを確認して先を続ける。
「それにプラスして、今回はこれを連れていって」
そう言ってロザリンドはピンク色の綿毛を差し出した。
「かわいい。何これ」
物は何か解らず、素直に見たまま感想を楓が言うのを満足そうにロザリンドは、『綿毛』を渡す。
「これは、僕の一部‥‥『王の花』だ」
彼女の耳元で小さく伝える。
「はな?」ロザリンドから差し出された綿毛は、彼女の知ってる「花」を形容していなかったため、繰り返す言葉は間違っていないかの不安が混じっていた。
「まだ種だから。見てて、開花させるよ」
少し震える声でロザリンドがそう囁く。
その少しだけ異質な声や、苦しそうな表情に一瞬だけ気を取られたが、開花した「はな」は楓の意識を釘付けにした。
綿毛が割れるように開くと中から小さな小人が顔を出したのだ。
「は‥‥な?」
語尾に疑問符をつけたままロザリンドに顔を向けると、不満そうな表情でそれを見つめている。
「‥‥色は失敗作だけどね」
小人は綿毛と同じ色をしていた。
「これは僕の耳の変わりをする。それだけだ。意識があるように見えるけど、これは何も考えないし感じない。肌身離さず側に置いておけば、あなたの音を知ることができる」
ほんわりとピンクの瞳は虚ろに前を見ているだけで表情はない。
ロザリンドの言うように、ただ無機質に前方を見ているだけだ。
「ずっと監視してるようで申し訳ないけれど‥‥」
「それってば、こっちとお話できちゃう感じなの?」
「そこまで有能じゃない。一方的に聞いてるだけだ」
その聞こえる音も、地面に足をついている時だけ、限定だ。
そこまでロザリンドは詳しくは伝えない。彼女を信じていない訳ではないが、重要な場面で隠されては意味がないからだ。
「それは残念です」
「?」
「だって、これでロザリーとお話ができるならね。何となく安心だったのに」
「安心?」
「お出かけはしたいんだけど、側に居て話を聞きたい時もあるんだよ」
「側に‥‥」
彼女の何気ない言葉に引っ掛かりロザリンドの思考がふらつく。
嬉しいけれど、限られた時間でこれだけは伝えなければならない。
幸せに頬を赤らめてる場合ではないのだ。
「これが花って事は誰にも教えちゃいけない。当然声を僕が聞いている事も」
自分の欲を満たすためにさらに保険をかける。
「シンジュにも伝えちゃいけない」
ロザリンド達は自分の意思で自らの子孫を作ったり、消したりする事ができた。成長するまでは不安定な存在だが、容姿も望むままに形作ることができる。だから、ロザリンドは大切に思う彼女に似せた子供を疑似的に作っていたのだ。
それは彼女には秘密の内に作られ、沢山消されていた。子供と言っても、動物のように大事に思う本能はない。彼にとってはただの道具、ただの気まぐれ。
だがしかし、王の遺伝子を持つ存在は不安定ながらも強い力を秘めている。悪意にも善意にも、無意欲でも利用しようと思えばなんとでもできた。ロザリンドはそれを理解していたし、本来は手の届かない城の外にだしていいものでもない。
シンジュにさえ秘密にしていたのは、罪悪感だけでなく、本能的に危険と感じたからだ。
「シンジュはおしゃべりだから?」
「そうだけど違うよ。誰にも言わないで」
おしゃべり‥‥シンジュの悪癖を表現するにはかわいらしい。彼女のかわいらしい表現にロザリンドは言葉に笑みを含めるが、最後の約束を破らないように、もう一度繰り返した。
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「ねぇシンジュ。樹木の妖精の言う『花』って大事じゃないの?」
「大事だよ。大事にきまってるじゃないか。なんでそんなこと聞くわけさ」
「だって誰も教えてくれないもの‥‥」
ロザリンドは壁の向こうへ帰っていったが、シンジュは戻ってきた。
そして一行は、前線に帰っている最中である。
帰りは、狼の迎えはなく、徒歩で森の中を歩いて帰る。獣の妖精達は、ニンゲンののろまな歩行に合わせる分けなく、先に現地へ向かっていた。
当然レタルも先発に混じっており、楓の側にはシンジュとセイだけしか居ない。
「早速約束を破ってるよね」
少し先を歩く二人ではなく、手元にある毛玉に向いて呟く。
話しかけても返事は無いけれど、必ず此方を向く。
見えてるかわからない瞳は乾燥を塞ぐためか、一定のタイミングでまばたきをする。よくみると、小さく揺れているのは風が吹いているからだけではなく、小人が自分を支えるためバランスをとっているのだと想像できる。もしかしたら呼吸をするタイミングで揺れるのかもしれない。
楓には、生き物の一つしか見えなくて、小さくて愛らしい姿に愛着を感じていた。
さらに、シンジュの言葉を素直に信じれば、大切なものを預けてくれたロザリンドの気持ちにも胸がいっぱいになる。
「お姫様。にやにやしてないで、早く歩くよ」
「にやにやなんて‥‥してない」
「もしかしたら、危ない所に行くかもしれないんだからね」
危険かどうかは前線にたどり着かなければ判断はできない。
先発者からの連絡がないのは、どちらととるべきか、シンジュは悩んでいた。
まだまだ続いてしまう17番でございます。
そろそろ展開しなきゃ。前線でだらだらしてしまいました。




