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手のひらの花びら 5

前を歩く怒っているイケメン。その後ろをロザリーに手をひかれて、歩く私。

とりあえず持って来いって言うから、刀を持っては来たけれど。

こんなもの要らないよね‥‥



広い所に出ると、整理されていない訴えが聞こえる。

「人間が攻めてきたんだよ」

「違うだろ。近くの町の何人かが森の中に進入してきています」

「だから攻めてきたんだろ」

「今休戦中だろ、攻めてないって」

セイと一緒にいた妖精がもさもさの毛が生えた獣の妖精達に囲まれていた。

口々に訴える言葉に彼は戸惑ってる。確かシンジュってロザリーは呼んでたよね。


「あ〜。ロザリー。ほら皆の話、聞いてあげてよぅ」

「話ぐらい聞いてやれないのか‥‥」


ロザリーの姿を見つけ、かけられる役立たず丸出しのシンジュの言葉にロザリーが頭を抱えた。


「ほら、王が来たぞ。簡潔に報告するんだ」


シンジュの周りにいた、もさもさ妖精達の中の、厳つい男の人がロザリーを指差す。

厳ついけど‥‥白い耳が生えてるのが違和感があった。カワイイ‥‥かも


「ニンゲンがいるよ」

「王様が奴隷連れてる」

「やだ、側に行きたくない」


遠くで囁かれる声。

私に対しての言葉なのよね。

ロザリーは私を見上げて「ごめんね。気を悪くした?」と気づかって言った。

私は無意識に首をふり、嘘をつく。

想像してなかった訳じゃないけど、側に寄りたくないは正直辛い。

ここでは、人間だと言うだけで、最下位なのだ。


「ニンゲンが木を切ってる」

「兎も取られた」

「なんでニンゲンがいる?」


ニンゲン。ニンゲン。

って言葉が聞こえるたび、刀を握る手に力がこもる。


感じられるのは悪意。

その思いが怖くて、声の主を目で追ってしまう。


「敵に帰れって言わせればいい。あいつニンゲンの姫様なんでしょう」


離れた場所で聞こえる騒ぎ。

ロザリーはそれを睨み付け「勝手な事を‥‥」と漏らす。苛立つ彼から、花の匂いが強くなった。

花の匂いはロザリーの香り‥‥男の子に香水なんて、似合わないけど、

今香るこの匂いは、ちょっとだけ落ち着く。

彼もリラクゼーションにつけているんだろうか‥‥


「王なのだから怒るな。だが、彼等の案は悪くない。奴隷に指揮系統が整っているとは思えないが、約束は約束だ。私たちは停戦中だし、まずは対話で解決する。人間が相手を説得して、奴等が帰れば王にだってその方がいいだろう」


厳ついもさもさ妖精がロザリーの横に立ち、彼の意見を伝えると、ロザリーの視線は彼に向けられた。


「彼女はそんな為に来たんじゃない!!」


ロザリーの怒鳴り声に、静かになる周りの声。

私の事を心配して言ってくれるんだろうけど、私もびっくりしたよぅ。


一瞬の沈黙を破ったのはシンジュ。

軽い口調でロザリーの背後につくと、

「でもね。でもね。ほおっておいたら、彼女の意味すらなくなるんじゃない?」

僕のセイ君貸してあげるからさあ〜と耳打ちしていた。


厳ついもさもさ妖精が言うのは正しい。

誰かが説得して、帰ってくれたら。問題はない。

私一人だと怖いけど、セイと一緒なら大丈夫かも知れない。


「ロザリー。私、頑張るわ」


出来るだけ周りに聞こえないように小さい声でロザリーに言うと、彼は青い顔をして「だめだ!」と言う。


「大丈夫。お話合いに行くんでしょ。バレるようなヘマはしないよ」


正直、今この場所でニンゲンって言われる時間が嫌で、この場所から逃げ出したかった。

苛立つ理由は約束違反。問題は侵入者が排除されなきゃ収まらない。だけど、妖精達は手が出せない。行って争ってしまったら何のための休戦なのだろうってな事になるんだろうね。

だから、カースティ姫が交渉をするのだ。

相手は人なんだもの、それに相手にとったら私は姫なのだから、言うことを聞いてくれるかも知れない。


「そんな事じゃなくて」

「そーなんだ。偉いね〜エストリアのカースティ姫」


シンジュが目配せしてその名を語る。

あぁ、覚えろって事か。


「でも、また逃げちゃダメだよ」


行くとこないんだから、逃げるわけないでしょ!

とは言えない。

私はお姫様なのだから。


森の獣の妖精達の話を、厳ついもさもさ妖精がまとめてくれた。

町の近くの森に、人間が三人、斧を持って侵入してきた様だ。

彼らは兎を捕まえたり、木を伐っているらしい。

休戦に不服派ではなく、何にも考えてない住民が開拓し、食料を確保しにきたと判断される。


らしい。



私はシンジュの言うとおり、セイと現場に向かう。


「ごめんね。こんなのに付き合わせて」


無表情で前を歩くセイに声をかけた。


「あんたはお人好しだな」

「あなたも‥‥でしょ?」


シンジュに言われたからって律儀に私についてこなくても良いのに。

お人好しって言うか、真面目なのか。


「仕事だ」


振り向かないまま、彼は言い放つ。

単語な言葉が心に突き刺さるが、返してくれるだけ親切なんだろぅ。


「妖精の森はあんたには辛いと思うが、人間の街に逃げるところは無いから‥‥」

「王に聞いた。殺されちゃうんだって私たち」

「解ってるならいい」


沈黙‥‥


そして、さらに、続く沈黙。

たった二人きりだと言うのに、かなり、重い沈黙。

いや。これから楽しい事は起こらないのは分かってるけど、もう少し弾む話題はないのかしら。


ロザリーとなら、何かしら話が出来たのに‥‥



「いたぞ‥‥」


セイが言う先に人間を見つけた。

彼らは木を切り‥‥小さな獣の屍を吊るしていた。

肉の塊から落ちる赤い線。何かの儀式なんだろうか。

見たことない残酷な光景に表情が歪む。


「大丈夫だ。あんたは俺が守る」


セイが背中を押してくれる。

さっさと追い払って、部屋に帰ろう。

息を吸い込んで、前を向く。差し出されたセイの手に刀を預けて、人間たちの前に歩き出した。


「私はエストリアのカースティ。ここは妖精の領域です。争いが大きくなる前にお帰りなさい」

出かけにシンジュがかっこよく決めてね。って教えてくれた言葉を、頑張って偉そうに言ってみる。


「はぁ。何いってんだ」

「そんな事承知の上だ。誰だカースティって」

「聞いた事あるぜ、妖精に嫁にやられた姫さんがそんな名前だ」

「あぁ?嫁に行ったらあっち側なのか」


おっさん三人が敵意丸出しで大きな声を出す。

お姫様って、肩書き全然役にたぁってない!

一言ぱぁーんって言い放ったら「すいませんでしたー」って退散するかと思ってただけに、睨まれ威嚇されるこの状況。

開拓しにきた村人って言うなら、もう少しか弱い、草食系な人物想像するじゃん。

目の前の三人は普通に、怖そうな、がらわるいおっさんだ。

どうしよう、後どうしたらいいのかわからない。


怖じ気ついてセイを振り替えろうとすると、手を捕まれ侵入者に引き寄せられた。

「ただ、姫さんにしたら奇抜なかっこだなぁ。まるで踊り子じゃないか」

「どうせ、そんなかっこで、毎晩よろしくやってるんだろ」

手を捻りあげられ、動きを封じられ。抵抗できない。

そんな私の足を見て、今の言葉だ。

そりゃスカートが短いのは分かってるけど‥‥

気持ち悪い。

何なのだろう。

「姫さん使ってさあ、城から謝礼とかもらえないかな」

「やめ‥‥」

やめて離してと言いたかったが、一人が口を押さえてきたため、言葉がしっかり出ない。


唯一動かせる目をセイに向ける。

とりあえず、何とかして欲しいと思う。


「交渉の余地は無いな‥‥どこの世界にもルールを破るやつはろくな人間ではない」


ため息をついて私の方へ歩み寄るセイ。彼の右手は柄に添えられている。


「何いってるんだ」そう言った相手の手が一瞬で消えて無くなる。

そのまま驚く暇もない内に頚部から鮮血が吹き出す。


セイは刀を抜いていた。


「こいつ、黒の悪魔だ!」残った男が声を上げると、私から手を離す。

自由になった私にセイは預けていた刀を投げつけた。

「あんたも刀を抜け、飾りじゃないんだろ」


飾りじゃないけど、あなたのように使った事なんてない。


抜くって事は、

そういうことなんだよね。


「よくも殺りやがったな悪魔が!!」


振りかざす斧。こちらに向けられた悪意に、無意識の内に刀を抜いた。




■ ■ ■



森の外に近い小川で、セイは私についた血を洗う。


「あいつらの弱点は血液だ。側に居る以上、出来るだけ血の香りは消さなきゃならない。剣の師にかえり血を避ける技術は教わってないか」


私の周りの小川が赤い血で紅く線を引き、水の色の透明に消えていく。


「血が出る相手なんて切らないもの‥‥」

「まさか人を斬ったことが無かったとは‥‥」

「私が‥‥殺したの」


殺した‥‥戦争してるのだから、あってもおかしくない話だ。

でも、自分は傍観者でありたいと、望んでた。


こんな形で世界に加えられるなんて、なんて酷い話だろう。

でしゃばって『対話する』などと言わなければ良かった。

停戦を無視して侵入する奴等に会話が通じるはずがないと気づくべきだった。

武器など携帯しなければ良かった。

ロザリーの言うことを聞いていれば良かった。


彼の事を思い出すと、涙があふれでる。


悔しくて、怖くて、色んな負の気持ちがわき出て、涙が止められない。


「あんたはやってない。俺がやったんだ」


確かに、相手には二本の刀傷。どっちが彼で、どっちが致命傷なんてわかんないし、関係ない。


しっかり覚えていないけど、刀で人を斬ってしまったのだ。


「俺が殺したんだよ」


セイはもう一度そう言うと、頭を撫でてくれた。

子供をあやすように、

濡れた冷たい手が頂点から肩に降りてくる。



服のまま水の中に入って、髪や肌に着いた血液は多分綺麗に落とした。

制服が黒に近い紺であるため衣服に着いたのは落ちたのかわからない。

首元から少し覗かせる、白いシャツには奇跡的には着いていない。

丁度そこには、障害物があったのだ。

記憶は無いけど、私の癖。

首から胸元を手や刀で庇う。

きっと今回もそうしたんだろう。




足が重い帰り道。


私は侵入者の凶器を二本持つ。

当然これも川の水で洗った後だ。

セイも凶器は回収している。

さらに生臭い皮袋を片手で持ってるの。

中には何が入ってるのなんて、言わなくても想像できる。


彼は言わないし、私も聞かない。


私と彼は、あの人達と争った事実はない。

むしろ彼らは森には入ってない。

‥‥ということに、するのだろう。


それが、彼の仕事。

私の仕事は失敗だった。




■ ■ ■




集落につくとセイは凶器を私から回収した。


「また逃げたなんて思われるのも面倒だ。まっすぐ城へ向かえ」

「あなたは、行かないの?」

「用が済んだらな」


そう言って、ロザリー達が居る場所とは違う方へあの荷物を持っていく。

中身が想像通りなら、ロザリー達には見せられないだろうし、当たり前だろう。


そういえば、私ってば、思った以上に度胸がすわってるんだなって、こっそり思う。

あんな光景、遭遇したら吐いちゃったり、泣いちゃったり‥‥あぁ、泣きはしたっけか‥‥。

でも、思ったより冷静で何だか怖い。

心がおかしくなってしまったのかも‥‥。



城に、帰りつくと色んな視線を浴びる。知らない誰かなんてどうでも良い。

ロザリーに報告しないと。



「ロザリー‥‥」

「大‥‥丈夫?」


ロザリーは私の姿を見て、一瞬顔をしかめる。


「お姫様。何その匂い、いや、無理だ。無理!」


シンジュが口元を抑えて逃げ出した。

見ればシンジュだけではなくて、何人か口元を押さえてる。


「お前は失礼だな!」ロザリーは、シンジュを怒鳴り付けるとぎこちない笑顔を私に向ける。


そう言えば、セイが言ってたっけ。

ロザリー達は血の匂いがダメなんだって。

私から、さっき殺してしまった男の匂いがするんだろう。


「ごめんなさい‥‥」

「なぜ、謝るの?」


「だって‥‥」


だっての後が続かない。


ロザリーの言うことを聞かなかったこと。

苦手な血の匂いをつけていること。

人間を殺してしまったこと。

謝る事はたくさんある。でも、そのどれも言葉に出来なくて、もっと他にもあるんじゃないかって頭がぐちゃぐちゃで、ただ泣くしかできなかった。




「大丈夫じゃなかったんだね」


そう言うとロザリーはそっと抱きついてきた。

周りが初めて嗅いだ花の匂いに包まれる。ロザリーの優しい香り。


「ダメだよ。苦手なんでしょ!」

「僕の匂いの方が強いから気にしない」


彼が血が苦手なのはわかってる。

でもその香りから離れたくなくて、自分から抱擁を解けなかった。

膝を折って自分からロザリーを抱き寄せる。



涙は止まらないけど

この匂いにほっとする。


「気にしない」なんて言う言葉が嬉しくて。




彼の優しさがたまらなくて、


胸が、すごく痛い。


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【××× A good child, so do not imitate ×××】
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