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たとえ自分の物でなくとも 13

いつもの道。

私は何も考えなくても足が覚えている道をまっすぐ歩く。

家に帰る道。


通いなれたその道で、向い合わせのお婆さんに軽く挨拶をした。


「こんばんわ」


はて、今は『こんにちは』でなかろうかと、真上の太陽に疑問に思うが口にはしない。


「こんにちは」


後ろから、そんな私の疑問に答えるように、違う声で挨拶がされる。


「こん‥‥にちは」


挨拶された相手に失礼の無いように振りかえると、辺りは真っ暗で、自分の言葉に躊躇する。

暗闇の中でも相手ははっきりわかり、白くぼんやりしたものが車イスに乗っていた。

なんとなく怖いと思ってしまった恐怖に早足にその場を立ち去ろうとすると、手や足に絡み付いてきた枝葉が邪魔をする。

それは引っ張ると、無抵抗に引き抜ける。

いや‥‥邪魔ではなくて、一緒に行きたいと絡み付いてきたのか。




――――目が覚めると、レタルに抱えられて森を歩く。


「正気が戻ったか」


その横でセイが二本の刀を持って見上げる形で問いかけた。


「目は覚めたけど‥‥痛っ」


なんか気を失ってたのを(居眠りしてたのかしら)レタルとセイに見つけてもらった‥‥的な話なのかしら。

それにしても、何故か右側全体が痛い。


「俺もあんたも骨は折れてない。時間がたてば治るだろう」

「骨って、セイと私に何があったの‥‥」


みしみし体の奥が痛い原因に、さらっと怖いことを言われてしまい、動かすのを躊躇する。躊躇できる余裕があるなら、軽傷だってわかりそうなものなのだけど、奴隷契約がどこまでフォローしてくれてるかわからないじゃない。


「あの獣の女と‥‥」

「私が黒の悪魔を叩き伏せた、その下敷きになっただけだ」


はぃ?

なんでそんなシチュエーション?


疑問を思いっきり表情に出して二人を見るが、セイもレタルも基本的には必要事項を自分本意で報告するタイプの男だ。無駄な話だと本人が線を引くと、後は何聞いても話さない。

だから、これも、沈黙。

これは自分で思いださなきゃ、内容は永久に闇の中だ。


そもそも、私は何をしてたんだっけ?

車イスから逃げてたのは、夢か。

懐かしいおうちへ帰る道、こんな森なんて似ても似つかない。いや、景色だけ記憶の誤りで、森の中に車イスがあったとして、足元はボコボコ、進行するための道はバリアフリーなんて親切設計ではない。

だから、あれは夢なのだ。

ってか、なんとなく怖くて嫌な気分だったから、ただの夢だって決めつけておきたい。

久しぶりにみた元の世界が、怖い感じってのは夢でも嫌なのだが。


じゃあ、私は、何をしてたのか?


逃げてる途中に、ボコボコの地面に足を取られて‥‥転がって?

逃げてた。誰から?


ああ、そうだ。シュークルを怒らせてしまったんだ。

で、向けられる鎌から逃げようとして、刀を‥‥


「ねぇ。セイ。刀返して?」


もしシュークルを斬っていたなら刀を見たらすぐわかる。


「自力で歩ける場所についてからだ」


普段から自分の刀は、自らが管理するものだとか言ってるセイなのに、なぜか今は渡してはくれない。

確かに、レタルに担がれた状態で刀になんて抜いたら、えらい迷惑になるのは理解してないけど。


「今すぐに確かめたいの」


青ざめて放心する前に、大丈夫って、大丈夫だって、確認したいよ。


「何を」


嫌な汗が体の芯からにじみ出るのを押さえ込んで「刀に、シュークルの血がついてないか」と言葉にした。




「覚えてるのか」


驚いた表情で私を見上げてセイが止まる。

でも、レタルは歩みを止めないものだから、彼との距離が少し離れてしまう。


「確認させて‥‥ぇっ」


気持ち大きめな声をだしたら、脇腹がかなり痛い。


「する必要ない。なぜなら、あんたが心配するようなことは全くない」

「だったら、確認して安心できるじゃない」


どんどんと離れていく距離に、声を大きくするたびに痛みをこらえなきゃならない。

レタルを無視して二人で会話してるのが悪いんだろうけど、普通、会話つづけてる相手が止まったりしたら、気を使って一緒に止まったりしないかい。普通‥‥。


「ほら、あんたの刀はこのとおりだ」セイが鞘から引き抜いて私に向ける。セイがいうとおり赤い色なんて全くない。


「レタルさんとセイの記憶はつながらないけど、シュークルが怒ってたのだけは気になってて」


シュークルはいいかがりにも近い勘違いを言葉にし、そして私を殺す勢いで追い詰めにかかった。本気で命をむしりとろうってわけじゃないと思うんだけど、あのまま何もしなければ、手や足は付け根から刈り取られたようにバラバラになってたと思う。死なないけど、生きられない姿にされたくなくて。

たぶん、私は抵抗した。

でも、そんな彼女とユーノは居なくて、セイと一緒にレタルに殴られ、負傷した‥‥らしい。

そこの所が意味がわからないのだけど。

もしかして、シュークルとの事は妄想だったり‥‥して。


「知らぬとはいえ、王の妃に剣を向けたのだ、私も含め厳重な処罰対象だ」


妄想じゃないって事をレタルが言う。

知らないんだから仕方ない(のか?)事に処罰って。頭固すぎ。


「処罰とかはしなくてもいいと思うんだけど、彼女は無事? なんだよね、側には見えないけど、あ、ユーノもいない」

「‥‥後々、時間が合えば姿も見れよう」


少し機嫌の悪そうな声でレタルが言った言葉が引っ掛かり「時間?」と問いかけてしまった。

言ってしまった後で、嫌な予感に後悔する。


「ニンゲンを殺してしまっただけでなく、こんなことがあったとなれば、とりあえずは王に直接報告する義務がある。城に私が戻るのなら、一緒に帰るのは必須だ」


王に、直接報告する。

後ろめたい事はたぶんないハズなんだけど‥‥。

体が拒絶してる。


「報告は‥‥」

「既に間接的には伝わってるんだよ。今更隠してもロザリンドには筒抜けって話」


「シンジュ‥‥サマ?」

「何、その他人行儀な呼び方。気持ち悪いよ、お姫様」

「だって。獣の妖精の皆様はそう呼ぶんだもん」


獣の妖精を演じてるのだから、周りに合わせて「様」をつける。呼んでる私が違和感はんぱないのに、呼ばれてる本人はもっとだろう。


「獣の‥‥はぁ。ああ、そういうこと。また適当な悪巧みを考えたね。さすがニホンジン、想定外な発想だ」


クスリとバカにしたような笑いとトゲのある言葉がイタイイタイ。

シンジュにしたら珍しく嫌みな言葉が気になった。


「レタル。まとめてる獣たちを集めてよ。話を聞いて整理してから帰ろうと思う。その間にお姫様も歩けるようになるだろうし」

「人は集めるが、そんな簡単な怪我では‥‥」

「知らないの? ニンゲンてさ丈夫なんだよ。それに、城まで担いで帰ったらさ、ロザリンドが大激怒するんじゃない」


それはそれで楽しそうだけど、と付け加えシンジュはレタルの視線をかわす。


不自然。

私から見てもその態度は変だもの、レタルだって気づかないわけがない。


「了解した。すぐに集めよう」


でも、レタルは何も言わなくて、そう言って私を地面におろす。

ゆらゆら揺られてた所為と、痛みで力の入らない足元が簡単に崩れる。

まっすぐ立てない私にセイが手を貸してくれた。



「今の‥‥」


過保護に担いでいた私を(よく考えたら「下ろして」だの問答はしてなかったけど)何も言わず下ろす行為は、私がセイと同じだと認識したからではないか。


ロザリーが隠していた奴隷契約のこと‥‥私が契約者だって気づかれてしまった?


「大丈夫。レタルは何も話さない」

「何って」

「何が心配?」

「えっと、あの」


シンジュが言う、「レタルが何も話さない」の「何」を問いかけて、逆に「何」を問い返される。いや、何が心配つうと、色々あって、奴隷契約の事とか‥‥セイと同じニホンジンだ‥‥とか。


「あの王様は、どこまで自分で抱え込む気か知らないけど、大事な事は身近な人には教えておいて、口止めするって方法を覚えとくべきなんだよね」


確かにシンジュの言うとおりなんだと思う。

レタルや草のイケメンなんかは、見ている限りロザリーの側にいる時間は長い。

シンジュは全部知ってると仮定したら、同じ空間にいて片っ方は知らないって状況に、話すこととか、超気を使って疲れる。

獣の妖精のフリを考えたみたく、知ってるけど黙ってる戦法が一番楽だよ。

その辺はシンジュに同意だなぁ。


「作戦会議してる間だけお姫様は自由って事で、セイ君貸してあげるよ。遠くに行かないでね」


シンジュはそう言ってレタルの後を追いかけて行った。

取り残されるのは、私と支えてくれているセイ。

自由って言ったって、どこに行きたいとかないし。

むしろ、脇腹が痛くて歩くどころじゃない。これって直ぐに治るのかしら。


「とりあえず‥‥歩くのに手を貸して‥‥もらえるのよね」

「何処か行きたい場所があるなら補助はするが、動くのはあまり賛成しない」


歩く足になれってお願いに笑顔で承諾してくれるセイではない。

これってば、忠実にシンジュの「遠くへ行かないでね」を守ってるんだろう。

そう思うとなんとなく意地悪な私が顔をだす。


「シンジュ様の命令?」

「‥‥腹部の筋肉損傷と、臀部からの神経断裂の修復はいくら契約とはいえ安静にしたほうがいい」


何とはなしに抑揚の無い言葉が突き刺さる。怒ったような口調っていうの‥‥茶化した私に呆れてるんだろう。

神経断裂だの腹部の筋肉損傷だの、言葉が怖いのに淡々とそんなこと言わないで欲しい。


「もしかして、セイも痛いの?」


自分のことばっかりで気にしてなかったけど、俺もあんたも、骨は折れてないって最初に断ってた。私がこれだけ痛いんだもん、同じようにセイも痛いのかもしれない。


「痛みは問題ない。あんたを抱えて歩くほど回復はしていないだけだ」


そう‥‥歩くなってのは、私に――――じゃなくて、私達にかけられた言葉。

無理して私が動き回ったら、支えるためにセイも無理しなきゃダメなのね。

セイもそんなに負傷しちゃう何かは、結局わからないまんまで‥‥



「ねぇセイ‥‥何があったの?」



その質問にはセイは答えてくれなかった。





■ ■ ■




彼女と清が着いてこないのを確認すると、シンジュはレタルにたずねる。


「レタルは何処まで確認したの?」

「何をだ」


聞きたい言葉は、表面に出さない。だからレタルは分かっていても「何?」と聞き返すしかない。


「セイ君は話したがらないけど、お姫様ってちょっと変だもの。あれは個性的って可愛く言えるものなのかな?」


何があったのかは全く知らない。清は痛みに耐えながら彼女の刀を抱え、レタルが気を失った彼女を抱える。どう考えたって異常な光景の原因はその彼女。

後ろについてこっそり話を盗み聞きしていても、具体的な中身はさっぱりだった。


「彼女の個性‥‥あれがか」


レタルはそれを知っている。


「そんなにびっくりする事したの」

「黒髪の時点で想像していたつもりだったが‥‥目の当たりにして素直に驚いた。二人を発見した時には黒の悪魔は劣勢で喉元を斬られるのを防いでいた。刀を牽制する力が足りなければ、胴と頭は繋がっていなかっただろう。そんな状況なのだと最初は理解できず、王の妃に刃を向けている奴に制裁をと側方から打撃を加えてしまった‥‥」



森の中。獣が騒ぐので異質を確認しに歩く最中。

金属音が響く位置でレタルは異質な黒を見つけた。

黒といえば白を纏わせた王の妃だと認識したが、金属音から争っているのだと見えない情報に息を殺した。彼女は役にもたちそうにない細い金属の「刀」と呼ばれる不器を持っていた。あの音はそれに違いないと頭の中で補完する。


獣の目で捕捉した光景は、シンジュの傍らにいるあの黒い男が彼女と同じ武器で襲いかかっていた。

金属音は牽制する音。

王の妃を守るため、奴を剥がしにかかる必要があった。


やはり、ニンゲン。誰も監視できない森の中で王に対して不利益となるシナリオを作ろうとしているのだ。


二人が相手に気をとられている間に、サイドの大樹に身を隠す。

黒の男を殺してしまえば、シンジュには何かを言われるだろうが彼女の安全は守られる。

いや、もしかしたら、シンジュの指示で彼女の命を取るつもりなのかもしれない。

シンジュは妃にニンゲンの姫をと提案した王の意見には反対はしなかった。だが、賛同もしていたわけではない、側にニンゲンを置く妖精として、やはり許しがたい何がが彼を使うのだろう。


矛盾してはいるが。


後者の意図は、自分にも理解は出来る。だが、王はそれは望まない。

彼がこちらに気がつく前に弾き飛ばすように体当たりを加えた。


「この様な場所で何をしている」


先程の予想が的中したとて、こいつは正直には話さないだろう。

わかってはいるが、何故かと問う。恐らく、自らが正しい行いをしているのだと自らが自覚したいからだ。


「あいつは‥‥あぁ。助かった」


彼は、自分の言葉など聞いておらず「あいつ」と彼女を目で探し、刀を構えたまま睨み付ける姿を見つけ安堵する。そして、自らに攻撃を加えた相手に礼を言うのだ。


「あのままだと俺がかっ切られてたか、俺が突き刺していたかのどちらかだった。彼女の動きは止める、あんたの武道信念に対して申し訳ないが俺の後ろから俺ごと彼女を気絶させてくれ。今のあいつに正攻法は時間の無駄だ」


一方的にそれだけを伝えると彼は彼女に斬りかかる。

だが彼女は、ぼんやり突っ立っているだけではなくそれをひらりとかわし懐に入り込むと彼の脇腹に持ち手を叩きつけた。

その動きは、身を守るための行動ではなく、相手の弱い部分を追い込み倒す行為。

特別な説明などされていないが、本能がそれを怯えた。





「あれは王の命を刈り取るため寄越されたものだと、考えたほうがいい」


つい数分前の内容を説明しながらレタルは体の奥底からくる怯えを感じた。


彼女の動向を監視する必要性の意味が変わる。

彼女の存在が脅かされてはいけない。その存在が交渉の手段なのだから。

彼女を自由にしてはいけない。その存在が王を脅かすのだから。

矛盾する内容が妖精サイドを追い詰める結論にしか導かれないのを自覚し、彼女の監視の手配を考える。


「‥‥そうなんだ」


自分と異なった見解を述べるレタルに驚きはしたものの、シンジュは素直に返事を返した。その結論はあり得ないと考えるが特に訂正させる必要はない。むしろ、そんな目で監視させる方法もありだろう。


「王は立腹されるだろうが、このまま前線に隔離するのもひとつの方法だ」

「また逃げちゃうからそれは却下。危ないってわかってるものを、ロザリンドに気付かせず好きにさせて、如何に王を守るか。が、僕らの仕事、難しいけどね」


レタルの案は王を護るのに一番適しているとはシンジュも思うが、王の性格上有効だとは思わない。

ただそれを否定するのではなく、レタルの勘違いを利用してやんわりと却下する。

カースティ姫は逃亡という前歴がある、城から抜けだせるのなら、さらに人間に近いこの前線なら姿をくらます可能性が高いということだ。

偽者の彼女に限ってそれはないと理解しているのは数人だ。


「さあて。事情聴取もがんばろうか」

「今回は何を探っている‥‥」

「うらぎりもの‥‥だったりして」








へーい提督。

最近、某ブラウザゲームにはまってるわたくしです。


そのせいじゃないけどね、久しぶりの更新になります。

いつも読んでくださる方、うっかり見てしまった方。

どうもありがとうございますです。



そろそろ王様切れなので、王様サイド行きたいな‥‥

とは思うのですが、次はひさしぶるあの方がちょこっと登場予定です。


またよろしくお願いします。

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【××× A good child, so do not imitate ×××】
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