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たとえ自分の物でなくとも 12

シュークルの所を通りすぎ、あれあれ?って思ってる間に全線に戻ってくると、異様な光景が目にはいる。

シンジュが獣の妖精に取り囲まれていた。

一回、どっかで見たことあるけど、もう忘れた。

異様なのは、それよりも、その呼び方だ。


「シンジュ様」

「シンジュ様」


ひぁぁぁ。なんか「様」付けでシンジュが崇められるように呼ばれてるように聞こえてくる。

めっちゃ違和感ありまくりで吐きそうなんだけど我慢しよう。

だって、あのシンジュが様つけなんだよ。

王様を小馬鹿にし、大体側にいるんだから、平凡ではないのかなって今さら思うけど、いつものあの態度に『様』って呼ばれる気配はない。


「解ったから。じゃあ、まずね、皆離れてね。詩を使うよ」


たくさんの声が重なりすぎて何を言ってるか分からない獣の妖精達の言葉。それに優しく返す彼。

ロザリーに邪魔にされているシンジュとは少し印象が違うかもしれない。

吐きそう‥‥ってのは言い過ぎか。



「ウタ?」


そういえば、前もレタルとかユーノが言ってたような‥‥


「ねぇ、ウタって何」

「カエデも早く離れて、ほらほら」


ユーノは私の質問に答える気は無いようで、手を引いて離れようと促す。なんなんだよ。あんなにわらわら集まってたっていうのに、シンジュの周りで爆弾でも破裂するかのように獣達は散り散りに逃げ出して(しかもすっごい距離)耳の部分を押さえていた。

とりあえず一定位置まで離れてユーノに促されるままに同じように耳に手を当てる。


獣の妖精達が離れた事で、シンジュの姿が頭から足の先まで見ることが出来る。

彼は、シュークルとユーノが助けた樹木の妖精をお姫様抱っこしていた。

余裕そうに笑い、手元の妖精に向けられてる視線が静かで、なんかいつものシンジュとはちょっと違う雰囲気に、ドキドキする。

確かに今の感じなら『シンジュ様』かも。


シンジュは小さな樹木の妖精に口づけするように顔を近づけ、耳元で唇を動かす。こんなに離れてるのだから聞こえやしないけど、あれって超小さな囁きだよね。聞かれたくない話でも、眠ったままの樹木の妖精にしていたのかしら。

こっそりときめくぐらい穏やかな表情で何かを伝えてる。

美形なシンジュ様。抱き抱えた小さな可愛い女の子(両方ともの性別の概念は無視して)その姿はホントに愛の告白のような‥‥。


「終わった‥‥かな」


ユーノの声は手を当ててもよく聞こえる。近いってことだけど、耳栓だって怪しい効果なのに、両手で防いだだけが、全く無駄って証拠だ。


「あーやっぱり耳いいやつはこの距離でも無理だな」


その声は何を指してるのかわからないけど、視界に入る範囲の獣の妖精で誰かが不利益を被ったのだろう。

よく見れば耳じゃなくて、口元やおでこ辺りを押さえている妖精もいる。

さすがにあんなところに耳はないだろうから、聴覚を阻害してる行為ではないはずだ。


「シンジュは何をしたの?」

「さあ?」


ユーノは怪訝そうな顔をして、首をひねる。


「さあって、ああなるのを知ってんでしょ」


納得できないのは私の方だって。何でユーノがそんな顔するんだよ。

頭を押さえ痛みっぽいのを訴えてる獣の妖精を指差してユーノに伝えるが、首をふって否定する。


「樹木の言葉は上位すぎて俺らはわかんないの。ましてや詩なんか、効果が理解できるわけがない」

「さっきも言った。ウタってなんなのよ」

「詩は詩だよ」


当たり前すぎる質問をするなって、一瞥された。ユーノに‥‥


だ・か・ら!

それがなんだって聞いてるんだよ。




私たちがウタ論議にはなってないけどをかましている間に、シンジュは動き出す。

その後をついていくように、獣の妖精達はぞろぞろと同じ道を辿って行列を作っていた。


「皆、何処に行くの?」


私たちもその列に加わってるので正しくは、私は何処に行くの?ってユーノに聞いてみる。


「多分、あの方の木だよ」


あの方って、シュークルが言った『あの方』と同じならシンジュが抱っこしてる小さな樹木の妖精の事だろう。

でもね『あの方のき』って意味はわかんない。


相変わらず不親切なユーノの言葉。

無視とかじゃなくて、説明はちゃんとしてくれてるんだろうけど、さっぱり分からない。

常識が足りないのは、辛い。




しばらく歩いた所で、細身の低めの木の前で、行列は止まった。


「たぶんあれが、あの方の木なんだよ」


ユーノが低めの木を指差して説明を付け加える。

これが、『あの方のき』

『き』は木の事だったみたい。ちょっと考えたら想像がついたよね。

少し足りない自分の頭が嘆かわしい。


『あの方の木』それは、根元に近い部分がえぐられるように折れていて、シンジュはその部分に向けてしゃがみこむ。


「可哀想に、元から引き剥がされたんだね」


シンジュがそう言って、あの方を折れた木の幹に押し付ける。

いや、それってば痛いだろう。

とげとげした部位がぐっさりしそうで‥‥


でも、押し付けた顔は、ぐっさり刺さる事もなく木の中に溶け込むように消えた。

とけて、消えた?

木はなんにもなかったかのように、トゲトゲした部分が消えてしまってて、折れてる部分も無くなっていた。


これって、あの方が木に戻ったから治ったって感じ?

そもそも、あの方が取り出されたから、この木は散々な目に合ってるって事なのかしら。



ねえ‥‥樹木の妖精って‥‥何?






■ ■ ■





シンジュ様がレタルとユーノを呼び寄せて、私はポツンと一人きり。



にさせてもらえるわけなく――――ユーノはしっかりシュークルに見張りを頼んでいた。


「シュークル‥‥」


そういえば、あれからシュークルと話は出来てなかった。

ユーノの側にはずっと居たけど、シュークルの側に居る時間は重ならなくて。

セイと仲良くしてるのをシュークルが怒ってるからってユーノから聞いてたから、ちゃんとそこは、ねぇ。


「あのニンゲンと一緒に帰れば?」


第一声がそんな話。

なんだか知らないけど、やっぱり怒ってらっしゃるようです。


「どうして?」


ただ、セイとお話してたダケなのに。

なんで、ここまで機嫌を損ねるのかしら。

言葉が、拗ねた感じなら、こう。私よりアイツが良いのね的な子供っぽい感情なんだとあんまり気にしないけど、なんかちょっと違う。

ユーノが教えてくれた通り、セイが人間って事がダメなのだろう。

シュークルは性格的にネチネチしてないから、きっと大丈夫って思い込んでたけど、やっぱり獣の妖精だから私達とは仲良くするのは難しいと考えているんだろうか。

私が人間だって気づかれたら、やっぱり仲良くしてもらえないのだろうか。


「苦手なんだろ。無理して外を知らなくても大丈夫だよ」

「無理だなんて」

「無理してるよ。血の臭いに感情が高ぶってる」


そりゃ、平常心だなんて言わないわ‥‥目の前で人が死んだのだもの。でも、無理するほど我慢はしてない。


「今すぐ、目の前の生き物を切り裂きたい欲望の目」

「は?」

「バラすまで、私も気がつかなかったけど‥‥きっと自分を押さえるのに必死なんだね」

「そんなわけないでしょ」

「気がつきたくないから、無理をしてるんだよ」


目の前で人間がバラバラになったのが楽しくて、それを嬉しいって思ってる自分を否定したいから、嫌いだって嫌がってるわけ?

シュークルが言うのは、なんて遠回しな感情なのだろう。

そんなめんどくさい私が隠れてるってシュークルは言うのだ。


「だから、知ってしまう前に帰ればいいんだ」


シュークルが私の思考に割り込むように「帰れ」と言う。

帰れ帰らないより、そもそも、そんなわけない。

自分だって他者だって、傷つくのなんか見たいなんて思ってないわ。

そんな変態な思考もってるハズがない。







「それとも。知りたい?」


シュークルが鎌を私に向けた。

その目は怒っているような、悲しんでるような‥‥感情は良く分からないけど、真剣にこちらを見てる。


「抜きなよ。確かめてやる」


いやいや、冗談でしょう。って私の本当の心もこれからどうしようか、分かんなくてあたふたしてるときに追い詰めるように武器を向けられる。

追い詰められてるのかしら。

全く冗談なんかに思えない。


「シュークルと打ち合えるなんて強さはないよ」


刀持ってるけど、これはロザリーが持っとけって言ったから肌身離さず持ってるだけで、武器として所有してるつもりは無い。

こう、なんでかな、この世界は直ぐに暴力的な要求をするんだろう。

セイも木刀とはいえ‥‥あれだし。


「強い、弱い。したくない、無理。そんな話は関係ない」


彼女の言葉の最後に殺気を感じて、後ろに下がった。


目の前を鎌が通り過ぎていく。

ぎゃあぁあぁぁ――何するんだよこの子は!!


「気づいてないなら、気がつかせてみたい。知ってて隠してるなら、化けの皮を剥ぐんだよ」


彼女が振り回すたび、大きな鎌が軽々と頭の上や、目の前をスライドする。

避けてるからこそスライドしてるわけで、ぼんやりつったってたら、自分探しが終わる前に命が飛ぶわ。


避ける行為は体が自然に逃げるから、このまま気を張っていれば問題ないけど、シュークルは適当に脅してるわけじゃなくて、私をバラバラにしようとしてる。

あの人たちみたいに。

処理されているだろう、妖精誘拐犯たちの死体を思い出す。



長い時間繰り返してたら私が持つのか‥‥自分に保証はできない。



「かぇ。えぇ! シュークル! 何やってるんだ」


ふりかえるとユーノだ。

速く、あのスピードで光速のごとくシュークルを止めてくれるに違いない。


「お前がバラバラにされるぞ」


は?


「何言ってるのよ。この状況でバラバラにされるのは私でしょ!」


冗談にも程がある、笑って「違うだろ」で終わる状況じゃないのは見てわかるだろうに、こいつはまた空気が読めない。


「できるなら、やってみろって話なの」


ユーノの言葉が彼女を煽り、振られる鎌のスピードも上がる。

また、この鎌が避けにくい場所を小刻みにかすってくるのでユーノとか周りとか気にしてる余裕がどんどんなくなる。

あんなに大きい鎌がどうやったらこんな蛇みたいにグネグネ動かせるのか教えて欲しいわ。

なんて言ってる間に。

足元は根っことか石が散在するから、うっかり背中を地面に叩きつけてしまった。平地でも足腰弱いのに、足場の悪いところじゃ色んなものが邪魔をする。

息を吸い込む器官がみしりと痛むがそんな事、気にしてられない。

起き上がろうと地面に着いた手の真横に鎌が突き刺さる。


「避けるだけで精一杯なのよ。これ以上したら本気でバラバラになるわ」

「‥‥だから。こっちはそのつもりだって言ってんだろ」


突き刺さった鎌からひんやり突き刺す空気に、上肢ではなく下肢を振り子に回転して起き上がる。

ゴリゴリ地面をえぐる音とともに、土と鎌が足のあった空間に舞い上がる。足をあげてなければざっくり掻かれていた。


この一振りは殺気を纏っていた。

シュークルはホントの本気で私を殺しにかかっているらしい。


返り討ちにはする自信は無いけど、これを止めないと、自分の命が危ないわけだ。


彼女の武器を落とさせなきゃならない。

よけるのも限界だから、武器の流れを刀で変えて‥‥刀を抜いて応戦しなきゃだめだ。



「ほら。その目だよ。やっぱり隠してたんじゃないか」


そうシュークルは笑うと、もっと痛い殺気をこちらに向ける。今までのは彼女も手を抜いていたのだろう。





■ ■ ■



「ほら。その目だよ。やっぱり隠してたんじゃないか」


シュークルが甲高い声を上げて楓を煽る。その声は少し震えているが、喜んでるのか怖がってるのか、彼女の飛んだ意識はよく分からない。

対している楓が刀を抜いて応戦しようとしてるのは、よくわかる。

武器を向けあい、双方の間で争いが始まる前に止めないと取り返しのつかないことになる。王の妃のニンゲンの姫はハートの一撃にも耐え、容赦なく命を喰う‥‥噂なんてユーノは信じてはいないけれど、ニンゲンの姫は、牡鹿の妖精を叩き潰せる力を持っている。命を喰うって話は、そこから来てるに違いない。

でも、楓は強いだろうかと出会う度、疑問が生じていた。


楓が強ければシュークルが危ないし、楓が弱ければ彼女が怪我をして、ユーノ達は王に処分されるかもしれない。

シュークルが怪我するのはどうでもいいが、楓を怪我させて王の機嫌を損ねるわけにはいかない。


いかないとは理解しているのだが‥‥。


ユーノの体を内部から何かが束縛していた。

シュークルの高揚と、よく分からない悪意が辺りを漂って、ただ恐くて足が動かない。

先ほどまで何事もなかったのに刀に手をかけて応戦体制をとった瞬間から、よく分からない空気を作っているのは恐らく彼女。

悪意の主が楓なのだったら、何故こんなに怖がる必要があるのだろう。ユーノは自分の足に問いかける。

楓が刀を抜くと足の緊張が解けた。だが、体は後退することしか望まない。


「なんだってんだよ」


楓を助けに行く必要があるって理解しているのに、逃げ出したいだなんて。建前と本能が一致しない悔しさが小さく口から漏れる。

見ている間にシュークルの鎌が弾き飛ばされ、楓が押し倒したシュークルに馬乗りになり刀を振り上げていた。一瞬で形勢逆転している。自分の動く世界で慣れている目のせいか、ふりおろす刀の動きがゆっくりに見える。

ああ、彼女は喧嘩を吹っ掛けたシュークルを殺すのだと自覚した瞬間。

弱虫のユーノは目を伏せてしまった。

彼女は嫌がっていたし、怖がっていたのにシュークルは止めなかった。

ユーノは守るべき彼女が怯えていたのに止める事もせず、無駄にシュークルを煽ってしまった。

これは、鼬達が自業自得だとニンゲンの姫が罰を与える瞬間なのだ。


彼女を殺した後は‥‥自分なのだろうか。


罰を見守る事さえできなくて、その先の自分を重ねるのが怖くてユーノはこの場から逃げ出したかった。でも、体はまた硬直し、それも達成することは出来ない。





金属音と鈍いうめき声で思考の中から呼び戻される。

シュークルは鎌を弾かれ丸腰のはずだとユーノが顔をあげると、ちょうど二人の間に入るように、シンジュに従属している皆が黒の悪魔と呼んでいる男がカエデの武器を押さえていた。

うめき声は彼が出したのだろう。


「こいつに刀を抜かせるほど怯えさせたのはお前か」


そう言って、楓を刀ごと押し返す。その隙にシュークルは二人の下から抜け出した。清が押す力のまま、カエデは後ろに倒れると、体を回転させて体制を立て直し刀を構えた。


「少し本性が見たかっただけだ」

「それなら、もう満足しただろう。その殺気をしまえ」


清はシュークルの答えに返答はするが、楓から目は離さない。


「ニンゲンに命令される筋合いはない」


苛立つ声が大きく響くと楓は向かい合う清を無視してシュークルの方に回り込む。

妖精達に比べスピードは劣る楓の動きは、シュークルもユーノもしっかり捉え、目で追うことは出来たが止める手だてがない。ぼさっとつったって的になるだけだ。



「こいつは殺気を発する相手を潰そうとする」


左方向から楓の脇に向かって清が鞘を叩きつけると、構える腕を引いて後退する。不意打ちを食らわせた相手を少しは警戒したようだ。


シュークルが黒の悪魔に向けて発した憎しみは殺意と似たようなものだろう、楓は自分に向けられていない殺意に反応し、清を警戒しつつ、シュークルを狙っている。

清の狙いは、その意識を全て自分に向けるつもりであったが、敵はそんなに単純ではないようだ。いや、むしろ、単純すぎて、より強い憎悪を優先しているのかもしれない。


「単純に私に腹を立てているだけだろ。仕掛けたのは私だ。望みどおり殺されてやるさ」


シュークルは清の説明が気に入らないのか、逃げようともせず楓をにらみつけている。

その態度に清は表情も変えず続けた。


「あと、こんなに狂気だが、本人の意識は皆無だ。後で泣くからそれは阻止させてもらう」

「無意識なの?」


シュークルが驚いた声をだした瞬間、楓の標的が清に変わった。

体制を低くして、刀を前にだすとすぐさま懐に侵入する。清は自らの持つ刀を縦にし、楓が横に切り抜けるのを防ぐと後ろに下がる。

鋼と鋼が打ち付けあう金属音と小さな火花が何度か散り、防いでは下がる方法を取り続けた清は楓を引き連れて森の奥へと消えていった。


「無事か?」

「怪我だらけよ。彼氏さん」


楓の姿が消え、ようやく硬直から解き放たれたユーノがシュークルの元にたどり着くと、笑顔で嫌みを言う。


「弱虫ユーノが今回は逃走しないなんて珍しい。やっぱり愛かしら」

「逃げられなかったんだよ」


シュークルに強がっても仕方ないので、ユーノは正直に現状を伝えた。


「今だって、まだ足の芯が震えてる感じだ」

「逃げなくて正解だったかも。もしかしたら、ニンゲンじゃなくて、ユーノを追いかけてたわ」

「俺は殺気なんて纏った覚えも無いけれど」

「恐怖は殺意と同じ気配がするのよ。私達を認識しない女に、そんな細かい空気の違いがわかるかしら」





 れ‥‥恋愛要素がない(´;ω;`)ウゥゥ

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【××× A good child, so do not imitate ×××】
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